進化する指輪型デバイス「Oura Ring」で病気の予兆をつかむには

Nina Raemont (ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎2024年11月19日 07時30分
  1. 実際にあったケース
  2. なぜOura Ringで病気の予兆が分かるのか
  3. どのデータに注意すべきか
  4. 症状の記録の先にあること
  5. かかりつけ医の役割

実際にあったケース

 Ouraのサイエンス担当シニアバイスプレジデントであるShyamal Patel氏が使っていた「Oura Ring」は、歯性感染症の症状が出るよりも前に、何か体に異変が起きていることを検知していた。同氏は、Oura Ringで安静時の心拍数が平均値から毎分10回上昇していること知って、かかりつけ医に連絡を取った。

Oura Ring 4の写真
提供:Nina Raemont/ZDNET

 ところがそのかかりつけ医は、上昇した安静時心拍数である毎分63回は正常な範囲の値であり、実際、Patel氏は年齢の割には健康で、何も心配する必要はないと述べた。しかしPatel氏は、その数日後に感染症を発症して緊急歯科手術を受けることになった。

 同氏は、もしかかりつけ医が心拍数が上がった原因をもっと詳しく調べていれば、感染症や緊急手術は防げたか、リスクを最小限に抑えられたのではないかと考えた。「(感染症が)長引けば、口の中の感覚に恒久的なダメージを受ける危険があった」と同氏は言う。

なぜOura Ringで病気の予兆が分かるのか

 筆者がこれまでに集めたOura Ringを使った体験談の中には、健康上の緊急事態に遭遇した話が数多くあり、これもその中の1つだ。RedditでOura Ringに関する話題を調べていると、このスマートリングが妊娠や、コロナや、自己免疫疾患と診断される前に異常を察知していたという話がいくつも見つかる。

 Oura Ringは、睡眠やアクティビティを記録するスマートデバイスだということになっている。しかしこのスマートリングは、この数年で、パーソナライズされたアプローチでユーザーの健康状態をモニタリングし、病気の予測・予防に役立つ重要なツールに進化した。

 Oura Ringは、指輪の内側にあるセンサーによって、ユーザーの体温、心拍数、血中酸素、呼吸数などの情報を収集する。その情報はOuraアプリからアクセスでき、自分の睡眠スコア、コンディションスコア、アクティビティスコア、日中のストレスなどの、グラフや過去の傾向を知ることができる。

 Oura Ringは、心拍変動や回復指数(体が前日のアクティビティから回復するのに必要な睡眠時間)、各睡眠ステージの時間、入眠潜時(入眠までにかかった時間)、睡眠バランス、睡眠規則性、前日のアクティビティ、アクティビティバランスなどの、健康に関わる他の指標も収集している。

 このデバイスは健康データを24時間監視し、その結果をAIを使った予測モデルで分析できるため、実際に病気の症状を感じ始める数日前に生理学的な異常を検出できる可能性がある。

 実際、コロナ禍の際には、病院内での感染拡大を阻止するために救急医療スタッフがOura Ringを身に付けていた事例や、米国防総省の国防イノベーションユニットが、症状検知技術を利用するために「Rapid Assessment of Threat Exposure」プロジェクトの下でOura Ringを導入した事例もあった。

どのデータに注意すべきか

 これからは、風邪やインフルエンザが流行しやすい季節になる。Ouraアプリを使って病気の早期発見や予防をしたい人は、どんな指標を見ればいいのだろうか。Ouraによれば、その1つは体温の変動で、日中の体温が1度以上変動した場合は注意が必要だという。

 また、呼吸数が増えていれば、それは咳が出やすくなったり、呼吸器の感染症になりかけているシグナルかもしれない。安静時心拍数の上昇や心拍変動の低下は、感染の兆候を示している可能性があるとPatel氏は言う。Redditに投稿しているOura Ringユーザーの中には、「レジリエンス」(時間の経過とともに回復する能力)をチェックすることが、全体的な健康状態を把握する1つの方法だと述べている人もいる。

 Patel氏は、風邪をひいたらOuraアプリで「休息モード」をオンにした方がよいと述べている。これは、アクティビティ目標の達成よりも回復を優先させるモードだ。また、アプリのタグを使って体調を崩した日に印を付け、頭痛、発熱、咳などの症状を記録することも勧めている。

 「タグを付け始めると、そのタグが自分に及ぼす影響や、タグ同士の関連性、自分が感じている症状の変化などの情報が表示されるようになる」とPatel氏は言う。

症状の記録の先にあること

 Ouraは最近、Ouraラボで提供していた実験的な機能である「Symptom Radar」を廃止した。これは、正式にサービスを開始する前にユーザーからフィードバックを得るため、期間限定で提供されていたものだ。Symptom Radarは症状をモニタリングするツールとしての機能を持っているが、その中身はOuraがすでにソフトウェアで提供している機能とそれほど大きな違いはない。あるOuraの担当者は、近いうちにSymptom Radarの提供を再開すると述べたものの、詳しいことは明かさなかった。

 症状の記録のような機能は、Oura Ringをはじめとする健康追跡ウェアラブルの将来のあり方を決める、重要な要素になる可能性がある。Fortune Business Insightsは、スマートリングやスマートウォッチなどのウェアラブル医療機器の市場規模が、2024年の912億1000万ドル(約14兆円)から、2032年には3247億3000万ドル(約50兆円)にまで成長すると予想している。

 これらのデバイスは医療従事者の代わりになるものではないが、すでに難聴(Appleの「AirPods Pro 2」)や睡眠時無呼吸症候群(「Apple Watch Series 10」)の診断を行えるものや、医者に行くべきかどうかを判断できるだけの健康データを収集できるもの(Redditに書き込んだあるOura Ringユーザーは、リングが自己免疫疾患の診断を受けるのに役立ったと述べている)も登場している。

 あるユーザーは、Redditへの投稿で「睡眠やアクティビティの記録を取るのは楽しいが、Oura Ringはそれだけにとどまらず、自分の人生の困難な時期に大きな助けになった。診断を受ける際に役立っただけでなく(主治医はそのデータを真剣に検討してくれた)、自分の身体ともっと真剣に向き合うようになった」と述べている。

 医師は通常、個人の健康データの変動ではなく、人口集団の標準値を基準に指標を評価する。しかしそのアプローチは、病気の発見や予防に隙を生んでしまう可能性がある。

 「人口集団レベルで正常な健康状態がどんなものかを知ることには価値がある。しかしその結果、実際に何かを見落としてしまう可能性もある」とPatel氏は言う。

 「私の場合、普段の安静時心拍数は毎分50~53回で、それが10回も上昇したとすれば、かなりの変化だ。それは、私の身体に大きなストレスがかかる何かが起きていることを意味する。ところが、私の体にとっての『普通』を考慮しなかったために、私たちはそれを完全に普通のことだと決めつけてしまった」

 予防的なパーソナルケアは米国の医療制度の弱点であり、この技術は民間のヘルステック分野に大きな恩恵をもたらす可能性がある。

 米国では、健康保険に加入していない患者が、健康診断のために毎年平均407ドル(約6万3000円)を支払っている。デバイスに350ドル(約5万4000円)、サブスクリプション料金が年間72ドル(約1万1000円)の費用で、病気から回復しようとするヘルスケア消費者に健康データから得られた個々人に合わせた分析情報を提供できれば、優れたビジネスモデルになるだろう。パーソナライズされたデータを用いたアプローチが合理的に感じられるようになるはずだ。

かかりつけ医の役割

 ただし、Oura Ringの機能が医者の代わりになるわけではない。Patel氏は、Oura Ringで収集した健康データをかかりつけ医と共有して、個人データの収集と予防のための分析を行うことを提唱している。

 「Ouraのようなウェアラブルは、日常的な生理機能や行動について、ごく最近までは不可能だった精度で知ることができる強力なツールだ」と同氏は言う。

 「つまり問題は、『今のヘルスケアのあり方を変えて、医者にその情報を考慮に入れてもらい、今までのようなシステムではなく、私たちの健康に対してコーチとして、あるいは健康を保つための案内人としてアプローチしてもらえるようにするにはどうすればいいか』ということだ」

「Oura Ring 4」(公式)

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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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