―この1月に「フリーストールに対応した発情検知と個体識別のAI技術を発表しました。
神林氏 昨今は動物の健康面に配慮した環境作りを目指す「アニマルウェルフェア」という考え方が広まっていますが、このたびそれに対応した養豚における技術を開発した、ということになります。これまでは、子豚をいかにボディビルしていくか、というところにフォーカスした技術を開発してきました。一方で養豚は繁殖も重要で、そこに対するソリューションが今回の発表内容になります。
母豚が子豚を産むときには、「ストール」と呼ばれる狭い檻の中に1頭ずつ入れられて管理するのが一般的です。しかし、それではアニマルウェルフェアの観点から望ましくありません。代わりに「フリーストール」と呼ばれる広い場所で、複数頭が伸び伸びと動けるようにすれば、豚にとって健康的な環境になると思われます。が、それにはいくつか課題があります。
なぜなら、野放しの状態だと自由に動き回るため1頭1頭の識別が難しくなるからです。妊娠中の豚は急激に体調を崩したり、餌を食べなくなったりするので、常に個体を見張っていないと迅速な治療も、分娩の介護もできません。
それに対して、われわれの技術ではカメラ画像をAIで解析し、豚が泥遊びで汚れてしまったとしても、個体を識別しつつ追跡できるトラッキングが可能になっています。さらに豚の歩き方に異変がある場合はそれを検知するなど、疾病の兆候もわかります。従来のように個別の狭いストールで管理していると、豚が歩くことがないので異常を発見しにくいという課題もあったのですが、それも解決できますし、繁殖においては大変重要な、豚が発情している状況かどうかを自動で判定する機能もあります。
沼澤氏 養豚農家さんにとって発情の検知はすごく大事なことなんです。なぜかというと、豚の発情はだいたい21日周期で表れ、発情している状態になると交配させることができるんですが、発情に気付けないとまた21日間待つことになって、その間は無駄にコストがかかってしまうからです。発情にきちんと気付いて子豚を産んでもらうことができるわれわれの技術は、まさに生産性に直結するものになります。
神林氏 たとえば、発情したかどうかを確認するときには豚を押さえつける必要があるのですが、体重が120kgもあって暴れるのでさすがに難しいですし、豚としても大きなストレスになるんですね。一説には、そうしたストレスによって1kgも体重が減ると言われているくらいです。その意味でも、われわれのような遠隔監視は豚に優しい仕組みでもあります。ストールに入れて固定カメラで監視するなど、より簡単な方法はありますが、そうしませんでした。技術を使って豚を健やかに育てる、そこのキープコンセプトのためにバランスを保つのは、ある意味非常に難しかったですね。
―他社のソリューションと比べたときの強みはどんなところにありますか。
石島氏 豚を飼育している現場は、同じ建物でも場所によって大幅に明るさが異なっていたりして、画像解析にとっては理想的な環境でないことが多いんです。そういった理想環境でなくてもきちんと画像解析できる工夫を、ありとあらゆる部分にたくさん盛り込んで解決している、というのがポイントです。
特に体重推計が必要な子豚が飼われている場所は、屋根はあっても屋外に近い環境だったりすることもあるので、そうすると時間帯によって太陽光の差し込み方が変化し、同じ建物内であっても部分部分で明るさが大きく異なる状態になってしまうこともあります。どんな環境であっても精度高く検知できるようにするのはかなり難しいので、そうした点がわれわれの技術的な強みの1つですね。
神林氏 たとえば他社も豚の発情判定のソリューションを開発していますが、ある程度限定された環境下を想定したものだったり、人間の手作業が少なからず伴うものだったりするので、あらゆる実環境で自動的に利用できる技術はEco-Porkだけがもっているものと言えます。判別のためのICタグなども使わず、画像解析だけで実現していますから、コスト面でも、アニマルウェルフェアの観点からもメリットがあると考えています。
―Eco-Porkのプラットフォームはブランド豚にも活用できるのでしょうか。一定の管理方法に最適化されると、均質化されて他と区別が付かなくなるような気もするのですが。
神林氏 結論から言えばブランド豚にも使えます。ブランド豚と言っても、世界的にも多くが三元豚で、品種の差はありません。餌の種類などにこだわりをもって育てているブランド豚はありますが、結局のところ、豚の買取価格の基準となる規格は体重と脂肪の厚さで決まっていますから、その規格内に収まるように品質を上げていく、というところでEco-Porkのソリューションが有効です。
通常、96~116kgの間にある豚が「上物」として取引されます。しかし、20kgもの幅があるのに、出荷された豚のなかでそこに収まっているとカウントされる率は平成、令和を通じて50%を超えていません。それくらい従来は品質管理できていないものでした。ところが監視カメラであるABCを使えば体重が小数点以下まで一発でわかる。もちろんブランド豚のQCD(Quality、Cost、Delivery)ももちろん管理できるようになりますから、本当の意味でブランド豚をつくっていくための品質管理もできるようになります。
しかもそれによって、子豚の体重が一定以上になるまでは骨と内臓を丈夫にしないといけないから餌をこうした方がいい、といったように、豚への配慮ができるようになる。今まで豚のことをきちんと見ていたようで見えていなかったところ、そこを正しく把握して、品質管理できるようになる初めてのソリューションがEco-Porkのサービスだと言えます。
―今後どのようにビジネスを展開していくのか、展望についてお聞かせください。
神林氏 監視のためのソリューションはだいたいそろいましたので、これからはケアするロボットなどを含めた「DX豚舎」の実現に向けて開発を続けていきたいと考えています。日本全国にサービス提供していくのはもちろんですが、海外展開も検討します。世界の多くが三元豚ということもあり、飼い方も世界で変わることがありません。われわれは年間180万頭、延べ500万頭分ほどの豚の育て方のデータを蓄積してきていますから、こういう育て方をすると豚が健やかに育つ、というデータが世界でそのまま使えます。日本発の技術として、人と豚と地球が幸せになる仕組みを、世界にも広げていきたいですね。
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