チャレンジ損にならない社会を創りたい--副業・フリーランスの新サービス「HiPro Direct」を牽引するパーソルキャリア大里真一朗氏【前編】

 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発に通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。現在は、森ビルが東京・虎ノ門で展開するインキュベーション施設「ARCH(アーチ)」に入居して新規事業に取り組んでいる大手企業の担当者さんを紹介しています。

パーソルキャリア タレントシェアリング事業部 Business Innovation統括部 エグゼクティブマネジャー 兼 HiPro Direct 事業責任者の大里真一朗さん(右)
パーソルキャリア タレントシェアリング事業部 Business Innovation統括部 エグゼクティブマネジャー 兼 HiPro Direct 事業責任者の大里真一朗さん(右)

 今回は、ARCHの中で新規事業に挑戦する各社の事業立ち上げを支援する人材サービスを提供し、自らも新規事業開発をおこなうパーソルキャリア タレントシェアリング事業部 Business Innovation統括部 エグゼクティブマネジャー 兼 HiPro Direct 事業責任者の大里真一朗さんにご登場いただきました。

 前編では、大里さんが抱く人材マッチングサービスに対する強い想いと、2022年7月に立ち上げた副業・フリーランス人材マッチングプラットフォームの「HiPro Direct(ハイプロ ダイレクト)」という新規事業について語っていただきます。

“チャレンジ損”の社会構造に疑問を抱く

角氏 : 大里さんは現在、HiPro Directという新規事業を手がけていらっしゃいますが、今日はサービスの話はもちろん、そこに至るまでの経緯について伺いたいと思います。その前に、そもそも大里さんはなぜパーソルキャリアに入社されたのですか?

大里氏 : 入社の動機は、「チャレンジ損をしない社会を創りたい」というものでした。日本では、チャレンジしている人が報われづらいと思っています。先入観や固定観念が強く、性別や学歴、年齢などで判断されてしまい、人がフラットに評価されて活躍できる社会にはなっていません。

 たとえば、アスリートが全身全霊をかけてスポーツに取り組んできて、次のキャリアに挑もうと思ったときに就職先がなかなか見つからないという課題があります。アスリートに限らず、ミュージシャンや漫画家など、様々なフィールドでチャレンジしている人が引退した後や、その世界で大成できなくても、そこまでに努力してきたことが報われて欲しいし、フラットに評価されるようになって欲しい。つまりその人が持つ価値をちゃんと表現できる社会を作りたいと思ったときに、叶えられそうと思えたのが当社だったのです。

角氏 : なるほど、チャレンジ損とは新規事業界隈でよく語られる起業時のことではなくて、セカンドキャリアの話ですね。ご自身に何か明確な原体験があったのですか?

大里氏 : はい。学生時代に感じたことが起点になっています。私は学生時代に本気で野球に打ち込んでいて、高校も部員が何百人といる強豪校に進んで3年間野球をやり切ったのですが、さらに上のレベルで野球を続けるには厳しいという現実を見せつけられたのです。それで目標を失ってしまい、浪人する余裕もない状況だったのでエスカレーター式で行ける大学に進学しました。

 そこでは自分が輝きを失っていると鬱屈した思いを抱きつつも、それでも様々なチャレンジをして新たな経験を重ねながら学生生活を送ることができたんです。ところが、いざ就職活動をしたら大手の企業からは大学名だけで相手にしてもらえないケースがあったり、とりうる選択肢が少なかったりという現実がありました。どんなにそこで頑張っても、人は学歴や表面的な情報で見られてしまうと実感した時に今の社会に色々と違和感が出てきて、こういう環境を変えたいと思ったのです。

キャプション

角氏 : なるほど、そうだったんですね。野球と大学時代のチャレンジが評価されることがなかったと。

大里氏 : 全くされないというわけではないですが、多少なりともバイアスはあると感じました。それで入社後に、正社員領域の転職を支援する「doda」の法人営業を2年半くらい経験したのですが、その時に入社前に感じていたことと同じようなことがビジネスのキャリアの中にも存在するということを知りました。たとえば、スキルはあるのに家庭との両立ができずキャリアをあきらめてしまう、新しい仕事にチャレンジしたいと思っても未経験という理由でなかなか転職先が決まらないなど、見えない壁によって希望が叶わない状態をたくさん目にしました。

 たとえば接客をしていた人が営業職を希望したとします。その人は接客経験からコミュニケーションスキルに長けていて、営業として必要な顧客ファーストの本質的な考え方や懐に入り込む力もあり、活躍できる可能性は十分あるのに、未経験だからという理由で不合格になってしまうんです。でも本来は、その人が持つ価値にフォーカスして企業は個人と対等に向き合うべきであり、対等の関係でないところを変えていければ、人の可能性はもっと解き放てる、輝けるという思いから、新規事業づくりにチャレンジしています。

副業・フリーランス人材と企業をつなげる「HiPro Direct」

角氏 : とても理解できました。では、いま取り組まれているのはそういう仕事なんですか?

大里氏 : それを目指す過程で今があるという形ですね。これまでの日本の働き方は正社員・契約社員といった「直接雇用」で働くことが主流でした。ここ最近、転職は普通になってきましたが、多くても3社ぐらいでキャリアを終える世界です。雇用に縛られているため、個人としては転職しないと様々な経験をすることはできません。法人も、社員として受け入れようとするからジョブホッパーは不安だと捉えてしまい、その結果として真の個人の能力を評価できなかったり、採用に二の足を踏んでしまったりという不が生じています。

 そこでまずは、法人には多様な人材活用の在り方を、個人には多様なキャリアの歩み方を伝え、その結果「こういう経験を持っている人にはこういう可能性がある」という理解がもっと広がって欲しいという意味で、まずは副業・フリーランス向けのマッチングサービスを作り始めたのです。

角氏 : なるほど。現状で転職は、リスクを全振りするような行為ですからね。

大里氏 : もちろん転職という選択肢を持つことは大切だと思います。ただ、転職には勇気とエネルギーが必要ですし、ミスマッチによる早期退職事例も見てきているので、キャリアの歩み方を何とかしたいのです。

角氏 : 2018年に、厚生労働省の「モデル就業規則」の改正で副業解禁の流れになったことでサービスが加速した形ですか?

フィラメントCEOの角勝
フィラメントCEOの角勝

大里氏 : それもあります。加えて、当社では10年くらい前から、外部プロ人材を紹介する「i-common(アイコモン)」というサービスを提供していて、専門性の高い知識やノウハウを持つ方や起業で成功した方、フリーランスとして企業を支援している方を専門家として紹介し、経営支援を行うサービスを提供してきました。

 副業解禁の流れ以外にも、日本全体で労働人口が減り、労働生産性が上がらないという悩みを抱えている中で、やはり1人が1社で働いていたら日本は持たない状態になっています。そこで元々パーソルキャリアとしても、副業や兼業という働き方をもっと広げていくべきだという考えを持っていたのです。

 i-commonはこれまでに1万件を超える実績があるのですが、それでもサービスを活用いただいたのは一部のお客様に留まっていたので、そのノウハウを使って新たに2022年の7月に、副業・フリーランス人材向けのマッチングプラットフォームとしてHiPro Directを開始しました。そのタイミングで、i-commonを「HiPro Biz(ハイプロビズ)」に、別途提供していたフリーランスのエンジニアを紹介する「i-common tech(アイコモンテック)」も「HiPro Tech(ハイプロテック)」にそれぞれ名称を変更して、パーソルキャリア全体として「HiPro」という、副業・フリーランス領域を本気で支援するサービスを立ち上げたのです。

副業・フリーランス人材マッチングプラットフォームの「HiPro Direct(ハイプロ ダイレクト)」
副業・フリーランス人材マッチングプラットフォームの「HiPro Direct(ハイプロ ダイレクト)」

過去の失敗を生かし、最初から経営陣を巻き込む

角氏 : なるほど。でもHiPro Directを立ち上げるには、相当なエネルギーを必要としたと推察しますが、どんな苦労をされましたか?

大里氏 : 企画構想を含めて約2年弱でリリースしたのですが、大企業ゆえの難しさや合意の形成など、大変さはいろんなところにありました。実はHiPro Direct以前に、キャリア支援系のtoCサービスに挑んだのですが、毎週当時の上層部とミーティングを重ねていく中で、論点が多岐に渡り、自身のやりたいことと、進むべき方向性にギャップが生じ、プロジェクトを頓挫させてしまった経験があるのです。そこでHiPro Directは最初から経営陣をデザインスプリントに巻き込んで、自分が作ったものをレビューしてもらうのではなく、共に考える座組みにするなど、工夫をして乗り切ることができました。

角氏 : 経営陣を最初から巻き込み、自分事として捉えてもらえるようにすると。これは学びですね。

大里氏 : そのほかにも、HiPro DirectとHiPro Bizでどうシナジーを生み出していくのか、HiPro DirectからHiPro Bizにどうユーザーをつないでいくか、HiPro Techを使っていただくかといったプロダクト間連携においても様々な論点があって、1つのプロダクトを生み出すだけではない難しさやもどかしさは正直ありました。ただ当社としても、企業の人材活用の考え方を変えていかなければならないというイシューが起点にあったので、いかに企業が使いやすいサービスにするか、1歩目を踏み出しやすいプロダクトにするという部分で、こだわって開発してきました。

キャプション

600種類のジョブコード付きの“相談プラットフォーム”

角氏 : 雇う側も個人側も、副業解禁になっても何をしたらいいかわからない状態だと思います。市場を広げるためにはどうしているのですか?

大里氏 : そこはまだ解は持ち切れていないのですが、1つお話できるとしたら、たとえば、企業が新規事業を創りたいと考えたとき自社の課題が分かっていない場合がほとんどです。また、マーケティングを強化したいといっても、定義があやふやだったりします。つまり外部人材云々を語る前に、その状態を何とかしなければならない段階なのです。

角氏 : バズワードだから知っているという感じですね。

大里氏 : そうです。そこでHiPro Directでは、企業が求めるジョブ領域を定義したジョブコードを600種類用意しました。たとえば、企業が新規事業を始めるにあたって必要なフェーズは多岐にわたりますよね。だから新規事業のサポートと一言でいってもどのフェーズをサポートすべきか受け手はわかりません。それを「事業領域の探索」「検証」「要件定義」「事業戦略策定」「開発」などのジョブコードを用意し、明確化させることで、各フェーズに適した人材とマッチングできる形にしました。

600種類のジョブコード
600種類のジョブコード
キャプション
案件が瞬時に自動でできあがる

 そして人材を選ぶ際には、無料で候補者と話していただくことができます。企業には、まずは自らの課題を候補者に話したら何を返してもらえるという成功体験をしていただきたいと考えています。

角氏 : 企業がまず新規事業なりの漠然とした課題感を話して、個人側が解像度の高い回答をして、腹落ちできたらマッチングが成立すると。

大里氏 : おっしゃる通りですね。個人にも600種類のジョブコードで回答してもらっているので、専門性が備わっている状態で会っていただくのが前提になっていますから。企業は、「候補者の方に、高圧的な態度を取られるのではないか」と最初は抵抗感を持たれるのですが、会うと必ず良かったと言って下さいます。マッチングが成立するまでは何人でも会っていただけるので、会っているうちに明確に課題が見えてくることもあるでしょうし、悩んでいるのなら取り敢えずHiPro Directで副業・フリーランスとしてはたらくプロに会っていただきたいですね。内部的には、「相談プラットフォーム」という言い方もしていて、そんな世界観を作っていきたいと思っています。

 後編では、HiPro Directを含めて大里さんが描く、これからの想いや世界観について伺います。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]