UCCがコーヒー農園に「衛星リモートセンシング」を導入した理由--その成果やドローンとの違い

 朝日インタラクティブは、4度目となるフードテックカンファレンス「CNET Japan FoodTech Festival 2022 日本の食産業に新風をおこすフードテックの先駆者たち」をオンライン開催した。

 11月1日には「衛星リモートセンシングのコーヒー農園での活用」と題して、UCC上島珈琲 農事調査室の日比真仁氏が登壇。コーヒーを取り巻く世界的な課題の整理と、衛星リモートセンシング技術の有用性について解説した。ここでは講演の内容と質疑応答の一部をレポートする。

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UCC上島珈琲 農事調査室の日比真仁氏(右下)

コーヒー業界が抱える「2つの大きな問題」

 日比氏は冒頭に「衛星リモートセンシングによってコーヒー農園で何ができるのかという視点で、弊社の新しい取り組みをご紹介したい」と挨拶した。UCCグループは、1933年に前身である上島商店創業時から、当時神戸の港町で広まりつつあったコーヒーの焙煎卸業を拡大し、2019年にはコーヒー関連の売上規模は世界5位と、グローバル企業へと成長を遂げた。現在、メインのコーヒー関連事業のほか、外食など5つの事業を手がけているという。

 
 

 UCCグループが掲げるスローガンは、「カップから農園まで」。サプライチェーンの各所で、品質を高める活動を強化してきた。1981年には直営農園を開業し、ブラジルには輸出用生豆の品質確認を行う事務所を設立、ロックアイランド工場では全ての輸入生豆をチェックする専門チームを組成するなど、活動は各国へと広がる。

 活動内容も多岐に渡る。新製品の開発やコーヒーの機能性に関する基礎研究、9つの国内工場から安定的な供給、スーパーや外食への卸、直営カフェである上島珈琲店の展開、コーヒーに関するセミナー開催やYouTube配信を手がけるコーヒーアカデミー、日本初のコーヒー専門の博物館など、コーヒー事業を“水平方向、垂直方向”に展開しているという。

 
 

 日比氏は続いて、コーヒーの消費量、生産量、栽培適地、品種ごとの特性など、コーヒー事業に関する基礎知識を解説した。

 まず、世界各国のコーヒーの消費量を見ると、EUを筆頭に米国、ブラジル、日本などで愛飲されている。ちなみにEUを分解すると、ブラジルと日本の間にドイツとイタリアが入り、日本のコーヒー消費量は世界5位だという。「生豆に換算すると、日本の年間約45万トン、世界の約6パーセントを消費している。カップ数に換算すると、日本人は週11.5杯のコーヒーを飲んでいる」(日比氏)

 生産量は世界で年間約1000万トン、輸入金額に換算すると397億ドル。「小麦や茶などと比べても、コーヒーがいかにポピュラーで大きな市場であるかが分かる」と日比氏は話した。

 
 

 一方で、コーヒーの栽培適地は限られるようだ。コーヒーは、世界70カ国以上で栽培されるも、生産国は南北位25度以内の「コーヒーベルト」と呼ばれるエリアに集中しているという。理由は、植物としての“か弱さ”だ。「コーヒーは寒さに非常に弱い。霜がつくとすぐに葉が枯れるため、適地は赤道付近に限られる。さらに暑さにも弱い。コーヒーベルトの中でも標高が比較的高いエリアでしか栽培できない」(日比氏)

 
 

 さらに品種特性にも触れた。コーヒーの品種は多いが、飲用に適するのは3種のみ。世界の生産量の約7割を占める「アラビカ」、が約3割の「カネフォラ」と、1%にも満たない「リベリカ」だ。

 アラビカは、味がよく様々な亜種があるため、味のバリエーションも豊富、非常に価値の高い品種だが、暑さ、寒さ、病害虫にも弱いため管理が難しい上、年間の降雨量1800mmから2500mmを必要とするほど乾燥にも弱い。ちなみに、カネフォラは耐病性や耐暑性に優れるが、苦味が強く一般的にはブレンドやインスタントコーヒーの原料として使われるという。

 
 

 日比氏は、「最も代表的な品種の栽培適地が限られている」という事実を強調した。たとえば、ルワンダの農園は標高1500mを越えるエリアにあるし、コロンビアでは傾斜の強い山中の標高2500mで栽培されているという。

 
 

 こうした前提があるうえで、日比氏によるとコーヒー業界は「2つの大きな問題」を抱えているという。1つめは、気候変動の影響だ。気温上昇によって、アラビカの栽培適地は減り、病虫害は増え、このため生産量が減ってしまい、コーヒー農家が農地を手放し、さらなる生産量減少を加速するという。2050年には栽培適地が50%に減る「2050年問題」の予測もある。

 2つめは、栽培技術の普及だ。コーヒーは先物取引で、投期的な理由で相場は大きく変動する。このため生産者の収入が不安定で、農地を手放す「離農」や、別の作物に切り替える「転農」が後を立たない。変動に耐え収入の安定化を図るためには、栽培技術の向上が不可欠なのだ。

 
 

 UCCは、2つの問題に対処するべく、「より良い世界のためにコーヒーの力を解き放つ」という方針を明言。2021年から新たなスタートを切ったという。

 4つのカテゴリで、コーヒーの持続可能性を切り開く。2030年までに、サステナビリティが保証された原料への全量切り替えを目指すほか、カーボンニュートラル、次世代教育、環境配慮などの活動に着手するなか、環境保全や農家の生計向上を目指して「衛星リモートセンシング技術の活用」にも取り組んでいるという。

 
 

衛星リモートセンシング活用の効果や課題

 UCCは国際興業と共同で、衛星リモートセンシング技術の活用を進めてきた。具体的には、「産地における環境課題の解決」と「生産国が抱える技術課題の解決」という2つのアプローチを実施したという。

 日比氏は、まず「環境課題へのアプローチ」を紹介した。コーヒーの木は日陰を好む特性があるため、コーヒーよりも背が高い植物が近くにあることが望ましい。このような植物は「シェードツリー」と呼ばれ、中米の技術開発先進国では導入が進むが、アフリカやアジアでは未導入の国が多い。しかし、シェードツリーは環境面でも、さまざまな効果をもたらすという。「シェードツリーの植林で、CO2の吸収量増加や、生物の多様性の保護、コーヒーの品質向上も期待できる」(日比氏)

 そこでUCCは、コーヒー農園のシェードツリーの現状把握と植樹計画の立案や、CO2吸収量の算出、周辺林との類似性評価などで、衛星リモートセンシング技術の活用を検討。ジャマイカにある直営農園の衛星画像を取得して、独自に開発した画像解析アルゴリズムを使って、農地の評価を行ったという。

 
 

 左側の衛星画像は、シェードツリーが分布するエリアを自動判定した結果だ。黄色く塗られたエリアが、実際にシェードツリーを検出した部分。「ジャマイカの農園は、ブルーマウンテンという山の中にあるが、思ったよりもシェードツリーがないことが分かった。この黄色いエリアを拡大していくことで、CO2の吸収量増加や、生物の多様性保護につながると判断できる」(日比氏)

 右側は、周辺林との類似性を自動判定した結果だ。青く塗られたエリアが、シェードツリーが分布するエリアと周辺林との類似性が高い部分。「周辺の森林が多いエリアの方が、シェードツリーもしっかりある。農園と周辺の森林の連続性が途切れさせないよう、環境を整えていくことが大事だ」(日比氏)。

 日比氏は、次に「営農支援のアプローチ」を紹介した。特にアフリカ各国など、政府による技術開発支援や民間企業の取組がない国では、感覚を頼りに生産する、新しいことを考えずに毎年同じ作業を繰り返している、といった生産者が少なくない。

 UCCは、気候変動に対応するため、外部からの情報提供が必要だと考えて、現地での支援を強化してきたという。たとえば、簡易的な土壌の分析を行い土の改善についてアドバイスする、豆が赤くなり完熟してから収穫したほうが品質と販売価格が上がることを教える、木の切り方やシェード農法導入を指導するなどだ。

 今回のプロジェクトでは、こうした現地での支援活動に、衛星リモートセンシング技術の活用を取り入れた。衛星画像を解析して、植物の活性度を評価する指標を導入したのだ。下のヒートマップは、ハワイの直営農園での検証結果だ。衛星画像解析で植物の活性度を表し、地図上に重ねて表示した。赤色の濃いところほど活性度が高い。実際の収量結果を参照すると、発見があったという。

 「活性度が高いエリアは収量も上がっていた。実際の見た目も、非常に健康的な状態だった。衛星画像の解析結果を活用すれば、実際に現場に行かなくても、活性度の良し悪しを判別できる」(日比氏)

 
 

 ただし、衛星画像の購入コストなどの課題も残るという。日比氏は、「この技術をそのまま活用することは難しい」というが、ハワイ農園ではドローンによるデータ取得なども含めて、情報収集を継続中だ。今後も、生産国が利用しやすい「低コスト」と「高品質」を目指して、技術開発を進めるという。

「衛星」と「ドローン」で得られるデータの違いは?

 続く質疑応答の時間では、モデレーターであるCNET Japan編集長の藤井から「コーヒー豆の栽培でテクノロジー導入はどの程度進んでいるのか」という質問が飛んだが、日比氏は「まだ、ブレイクスルーになるテクノロジーはあまりない。また、生産国はほぼ途上国なので、国によっては最新の技術が現場まで届いていない」と話す。

 「衛星とドローンの違い」については、視聴者からも早々に質問があがった。日比氏は、「一番大きいなと思うのは、農園へのアクセス。コーヒーの農園は山の奥にあり、空港から車で6〜7時間かかることもある。そういう場所にドローンを飛ばしにいくのは大変だが、衛星データはデスクワークしながらでも取得できる」ことだと説明した。

 「今回のプロジェクトでは、2種類の衛星画像を使った。1つは、高解像度だが高額のもの。もう1つはフリーだが低画質のもの。コストと実現性を考えた。他方、ドローンは近接して高解像度でデータ取得できる。立地的にアクセスしやすいエリアなら、ドローンで情報の精度向上を図れる。一番よいのは組み合わせることだと思う」(日比氏)

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