しかし、Adobeによれば、むしろそうした性質の違う特徴を持つ2つのサービスやアプリであるからこそ、補完関係にあると考え、Figmaの買収を決めたのだという。
Adobe Creative Cloud担当上級副社長(EVP) 兼 CPO(最高製品責任者) スコット・ベルスキー氏は「われわれのXDはデスクトップアプリケーションという性格が強く、Figmaがカバーしているようなクラウド上で形成されているコミュニティーやアプリケーションとは異なる性質や利点を持っている」と説明。XDに足りないものをFigmaで補完できると考え、AdobeはFigmaを買収することに決めたのだと明らかにした。
このため、Adobeもそして買収された側であるFigma自身も、Figmaのサービスを無理にXDに統合することや、その逆にXDをFigmaに統合するということは考えていないようだ。Figma CEO ダイラン・フィールド氏は、AdobeがFigmaの買収を発表した時の同社Blogの中で「われわれ(FigmaとAdobe)はFigmaをFigmaとして運営していく計画で、それがわれわれのコミュニティー、カルチャー、ビジネスにとって最良だと信じている」と述べており、Figmaは今後も独立して運営していくと強調している。
ベルスキー氏は、Figmaの特徴として「Figmaのユーザーのうち30%は開発者で20%はマーケターやコピーライター、製品マネジャーなどで構成されており、これらのユーザーはわれわれのXDではカバーできていないユーザー層だ。われわれのXDはウェブのデザインには注力しておらず、スクリーンデザインにフォーカスした製品になっているからだ」と述べた。製品の特徴だけでなくそこに集うユーザー層も異なっており、その意味でも補完関係にあると指摘している。つまり、わざわざFigmaのコミュニティーを破壊して、同時にそこに集うユーザーを散逸させてしまう理由はどこにもなく、Adobeにとっても現行のFigmaをそのまま維持することがメリットであると示唆している。
ベルスキー氏は「Adobeのビジネスはクリエイターがアセット(筆者注:コンテンツ資産)作成を助けることだ。そのためにFigmaが必要だとわれわれは考えた」と、Creative Cloudの魅力をさらにあげるためにFigmaが必要だった、それがFigmaを買収した理由だと説明した。
それでは、買収される側になるFigmaにとってのメリットは何か。約3カ月前まで最大の競合だったため、Adobe MAXに参加したのは今回が初というFigma CEOのフィールド氏は、Adobe MAX基調講演でのベルスキー氏の講演にゲストとして登壇し、詰めかけたCreative Cloudを利用しているクリエイターに向かってFigmaの今後について説明した。
フィールド氏は「Figmaのウェブデザインをみんなで行なうという特徴は何も変わらないが、今後はAdobeの強力でFigmaにはなかったものをFigmaのユーザーに提供することが可能になる。Creative Cloudの他のツールとの連携もそうだし、Adobe FontsをFigmaユーザーが使えるようになることもその一つだ」と述べた。
AdobeによるFigmaの買収が完了すれば、Creative Cloudのツール、特に膨大な資産になっているAdobe FontsをFigmaのユーザーに提供してFigmaの表現力が高まると述べ、Adobeに買収されることでFigmaのユーザーにもメリットがあると強調している。
Adobeが過去に行なった企業買収は、すべてが成功した訳ではないが、その多くは現在もAdobe製品の一部として重要な位置を占めている。たとえば、フィールド氏が言及したAdobe Fontsもその一つだ。Adobe Fontsの源流は、Adobeが2015年に買収したTypekitのフォントサービスが源流になっており、当初は「Typekit」というブランド名でCreative Cloudの一部として運用され、最終的にAdobe Fontsのブランド名に変更されて今に至っている。
今やAdobe FontsはCreative Cloudのユーザーにとってなくてはならないサービスになっており、XDにあってFigmaになかったものの代表の一つと言える(だからこそFigmaのフィールド氏はFigmaユーザーのメリットとしてAdobe Fontsをあげたのだろう)。
近年では、2021年8月に発表されたFrame.ioの買収に関しても同様なことが言える。Frame.ioはクラウドに特化したクラウド型の映像編集ツールで、ハイブリッド(ローカル+クラウド)型のビデオ編集ツールのPremiere ProがあるAdobeにとって、FigmaとXDの関係に似た企業買収となっている。
この買収から1年が経過しているが、今でもFrame.ioはなくなっていないし、むしろAdobeはその機能を強化している。今回のAdobe MAXでは動画カメラからFrame.ioに動画をリアルタイムにアップロードする機能「カメラクラウド」を発表しており、富士フイルムが現行カメラのファームウェアアップデートでの対応、REDはRED V-RaptorとV-Raptor XLの2製品で8Kの動画をFrame.ioにアップロードすることが可能になる。さらにPremiere Proとの連係機能も強化するなどしており、Frame.ioを上手に活用している。
ベルスキー氏にFigmaとXDの関係も、Frame.ioとPremiere Proのような関係になるのかと聞いてみたところ、「細かなところで違いはあるが、おおむねその通りだ」と答え、Adobeが今後もFigmaの機能を強化し、Adobeの他のツールとの連携を強化するという形で、プラットホームとしての魅力を増していくつもりだと答えた。
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