ドローンと自動運転バスが「物流コラボ」--茨城県境町「2023年度中に日本初のレベル4目指す」

 茨城県境町、エアロネクスト、セイノーホールディングス、BOLDLY、セネックは10月3日、「ドローン、自動運転バスを含む次世代高度技術の活用に関する連携協定」を締結し、10月から実証を開始すると発表した。

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 茨城県境町は、2020年から自動運転バスを導入し、日本全国に先駆けて実用化してきた自治体だ。今後は自動運転バスを含む既存物流とドローンを組み合わせる「新スマート物流」で、町内の「物の移動の最適化」を目指すという。

 締結式には、デジタル庁企画官の鈴木崇弘氏や、茨城県科学技術振興課の伊藤正敏課長ら、多数の来賓が訪れ、祝電も多数届いて全国的な注目の高さが窺えた。締結式のあとには、市街地上空を飛行する2つのデモンストレーションや、それらを遠隔監視する様子も披露した。

「住み続けられる町」目指す

 茨城県境町は、人口約2万4000人弱の高齢化が進む町で、鉄道の駅がなく、路線バスの本数も少ない地域だ。数年前から、「動けるうちに、病院がある町へ、娘の元へ」と、境町に住み替える高齢者も増えてきたという。いまや、自動運転バスの常時運行を実現した先駆的な自治体として、全国からの視察が絶えない境町だが、締結式で挨拶した町長の橋本正裕氏は、自動運転バスを導入した当時を振り返って語った。

 「自動運転バスは、先進的だからではなく、困っている人が助かるから、というシンプルな理由で導入した。境町を、住み続けられる町にしたいと思った」(橋本氏)

境町 町長 橋本正裕氏(中央)
境町 町長 橋本正裕氏(中央)

 現在、自動運転バスは2ルートを無料で常時運行させているが、10月からは、ドローン活用にも着手するという。具体的には、ドローンや、自動運転バス、トラックなどの既存物流、貨客混載という新たな手法も取り入れて、地域内のモノの移動を最適化する「新スマート物流」の実証を開始する。

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 10月以降、境町は物流専用ドローンを2台導入予定だ。また、「ドローンデポ」と呼ばれる「ドローンの離発着場」兼「荷物の集約拠点」や、充電などをできる「ドローンスタンド」を整備したうえで、農村エリアの無人地帯での目視外飛行や、市街地での目視内飛行を行う。

 ドローンは、陸路では回り道で配送が非効率なエリアに、直線距離で効率的に無人で配送できる。中山間地域などの過疎地は、既存の物流サービスが行き届かないこともあるが、ドローンを活用することで「住み続けられる町」にまた一歩近づくことができる。

 ドローンが飛行できないエリアは、自動運転バスやトラックを活用して、配送の最適化を図る。11月にはフードデリバリー事業者とも協働し、町の農村エリアへのデリバリーも検討中で、「2023年度中に日本初となる市街地でのドローン配送サービスを目指す」(橋本氏)という。

エアロネクスト物流専用ドローン「AirTruck」
エアロネクスト物流専用ドローン「AirTruck」

 橋本氏は、「セイノーさんは、『町の中の物流を担う会社は、どこでもいい。セイノーであることにこだわらない』と言ってくれた」と、セイノーホールディングスとエアロネクストが手がける“新スマート物流”「SkyHub」を採用した背景を明かした。

 その上で、「自動運転もドローンも、まだ法律がない、何かあったらどうする、と躊躇される自治体さんも多いが、境町に住んでいる人たちが住み続けられて快適になる、実際に助かる人が出てきたら、他の自治体さんにも展開が進むだろうという想いでやって行きたい」(橋本氏)と抱負を語った。

ドローンと自動運転バスを一元的に遠隔監視

 締結式のあとには、境町小学校の児童たちへお煎餅を届けるドローン配送と、ドローンと自動運転バスがコラボレーションした焼き立てパンのリレー配送のデモンストレーションが披露された。

 いずれも市街地上空飛行ということで、道路上空を空の道として活用し、通行人がいるときは一時停止しながら、監視員を配置して常時視認して飛行するレベル2(目視内での自動、自律飛行)で行われた。

 1つ目のデモンストレーションでは、境町役場隣接の水害避難タワーから境町小学校へ、ドローンが片道290mを時速約18kmで飛行した。

境町小学校487人の児童が見守るなか物流専用ドローン「AirTruck」が校庭に飛来したところ
境町小学校487人の児童が見守るなか物流専用ドローン「AirTruck」が校庭に飛来したところ

 小学校のグラウンドで約250人、校舎からも約150人の児童らが、元気よく「3・2・1」と号令すると、ドローンが離陸。予め設定した飛行経路を高度35mで自動航行して、約2.8kgの荷物を小学校のグラウンドに配送した。自動で荷物を切り離すと、自動で再度離陸して、手を振る児童らに見送られながら離陸地点へと戻っていった。

 荷物を受け取った児童代表2人は、「ドローンが飛んできてすごくびっくりした」と話した。また、「ドローンを使って何か運べるとしたら?」と尋ねられると、「家族や友達にケーキを届けたい」「料理やアイスクリームを世界中の人に届けたい」と答えた。

児童代表2人が荷物を受け取った
児童代表2人が荷物を受け取った

ドローンで境町小学校の児童たちへお煎餅を届ける様子


 2つ目のドローンと自動運転バスのリレー配送デモンストレーションでは、最初に「河岸の駅さかい」から、自動運転バスが発車し約800m走行して、「道の駅さかい」まで焼き立てパンを運んだ。両地点は、坂町の自動運転バスの定期ルートの停留所になっている。

自動運転バス運行ルート(境町ホームページより引用)
自動運転バス運行ルート(境町ホームページより引用)

 道の駅さかいの駐車場に待機していたドローンは、バスで運んだパンを移し替えたのち離陸して、着陸地点である水害避難タワーまで片道約740mを時速約18kmで自動飛行した。

自動運転バスと物流専用ドローンの“物流コラボ”が実現
自動運転バスと物流専用ドローンの“物流コラボ”が実現

 筆者は、着陸地点で取材したが、道路に通行人がいたため上空のドローンが一時停止する様子や、本来であれば時速40kmで飛べるが速度を落として時速18kmで飛行する様子に、関係各位が意見する場面もあった。

境町の市街地上空をドローンがレベル2飛行し、道路で一時停止したところ
境町の市街地上空をドローンがレベル2飛行し、道路で一時停止したところ

 ドローンは、12月の法改正で、有人地帯つまり第三者の上空を、自動航行技術などを用いて目視外で飛行する、いわゆる「レベル4」が解禁される見込みだ。しかし、現在は現行法やガイドラインに従い、目視内で自動航行する必要がある。監視人員を多数配置するコストがかかる、通行人が取り過ぎてからドローンが道路を横断するため時間がかかる。

 橋本町長はじめ境町プロジェクトのメンバーが、ドローン配送の課題を目の当たりにして、法改正後に向けて準備を整えていく意欲を高めた瞬間だった。

焼き立てパンを運ぶドローン


 ちなみに、自動運転バスとドローンのリレー配送で届いた焼き立てパンは、ほかほかだった。カレーパンや惣菜パンが届けられ、関係各位と報道陣にも振る舞われた。

ほかほかの焼きたてパンを試食


 これら2つのデモンストレーションは、道の駅さかいから車で約8分の境町社会福祉協議会内の「遠隔監視センター」で遠隔監視された。使用システムは、運行管理プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」。境町の自動運転バスの遠隔監視に用いられているシステムで、ソフトバンク子会社のBOLDLYが開発、セネックが運用している。9月に実装したドローン向けの新機能「Dispatcher for Drone」もお披露目された。

「遠隔監視センター」は、遠隔監視を行うほか、緊急時には大型バイクで現場へ急行する機能も併せ持つ
「遠隔監視センター」は、遠隔監視を行うほか、緊急時には大型バイクで現場へ急行する機能も併せ持つ

 Dispatcherは、車両の走行位置や車内の様子を、リアルタイムに確認できるシステムで、ドローン配送でも同じUI、同様の機能を実装した。UIを統一して、複数のモビリティを一元管理することで、働き手にやさしいシステムになり、より省人化につながり、なり手のハードルも下げることができる。こちらは境町小学校へのドローン配送を監視したときの様子だ。

境町小学校の児童たちへお煎餅を届けるドローンを遠隔監視する様子


 また、Dispatcherを使って自動運転バスの遠隔監視オペレーションを担ってきたセネックは、実際の運用の様子を紹介した。たとえば、急ブレーキがかかったときなどは、音声と視覚的にも分かりやすいライトで、アラームを鳴らす。セネックは、緊急時には大型バイクで現地へ駆けつけられる対応をとっているという。

「大都市以上の利便性」を目指す

 今後の目標は、「2023年度内に日本初となる市街地でのドローン配送サービスを、実証実験にとどまらず社会実装すること」だ。まずは、農村エリアなどの過疎地域への配送はドローンで効率的に、市街地の配送は自動運転バスの貨客混載やトラックなどが担う。

 将来的には、自動運転バスのルート拡大や、ドローンが担えるエリアや配送パターンを少しずつ増やして、即日配送や、30分以内のオンデマンド配送など、大都市以上の利便性提供を目指すという。エアロネクスト田路社長は、「自動運転バスの導入が進む境町では、ドローンの社会実装に最も必要な社会需要性が高まりやすい」と期待する。

 自動運転バスは、「運賃脱却」を目指し、現在無料で提供されている。「地域内に“水平エレベーター”を行政が設置して、お出かけや買い物を楽しみやすくなることで、運賃収入はなくても、それ以上に地域内の経済が活性化し、住民が住みやすくなるメリットは大きい」という発想なのだそう。

 また無料で利用を促進することで、ビッグデータが得られる。キャンペーン的にオンデマンド自動運転バスを走らせることで、住民のニーズを拾い上げ、定時運行の見直しを行なってきた実績もある。

 ドローンの配送料は、1回あたり「300円+買い物代金の10%」と有料設定だが、ドローン配送も含める形で「運賃脱却」の水平エレベーターが実現するのかも注目だ。他方、財源を補助金や交付金に求める現状と、サービスとしての持続可能性をどう考えるかも今後も課題だ。

 ちなみに、セイノーホールディングスとエアロネクストは、“新スマート物流”「SkyHub」サービスを共同で開発し、山梨県小菅村、北海道上士幌町、福井県敦賀市、茨城県境町、北海道東川町で導入が進んでいる。左記5自治体は、3月に立ち上がった「全国新スマート物流推進協議会」の発起人で、協議会発足時にはシンポジウムも開催した。

 デモンストレーションの合間、セイノーホールディングス執行役員の河合氏にその後の進捗を尋ねた。翌月となる4月に新スマート物流推進プロジェクトが発足、セイノーグループから募った60人のSkyHub専属メンバーを河合氏直下に配置して、彼らが実際に全国に住んで自治体や地元の事業者、物流会社との話し合いを進めているという。5つの自治体がそれぞれに体現しつつある新スマート物流は、今後どのように全国へ浸透していくのか注目したい。

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