VRエクササイズは認知症を改善できるか(前編) - (page 3)

Andrea Rice (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2022年06月09日 07時30分

 記憶クリニックでは、MCIのある高齢者の間で際立って高い効果が確認されているとMerrill医師は述べている。

 「脳トレーニングジムでエクサゲーミングを体験することで、高齢者が今度はそれを現実世界に持ち込んで、ガーデニングやダンス、ウォーキング、友だち付き合いにいそしんだり、さらには家庭でもポッドキャストを聴きながらエアロバイクを漕いだりする。われわれはそうなることを期待している。エクサゲーミングを通じて、人々が、健康的な生活習慣が持つメリットの可能性を認識するようになっていることが明らかになりつつある」(Merrill医師)

研究の成果

 VRエクサゲーミングが、認知障害などの神経系疾患または神経状態を抱える人々に有益である可能性は、一連の研究で示されており、予防への有効性をも示唆するものかもしれない。

 ニューヨーク州スケネクタディにあるユニオンカレッジの心理学および神経学部で准教授を務める神経科医のCay Anderon-Hanley氏は、運動と認識力のつながりを過去10年間にわたって研究してきた。

 Anderon-Hanley氏は自身の研究について、身体的活動と精神的活動を結び付ける相互作用・相乗効果の「秘密の要因」を見極めようとする探究だと説明している。同氏の現在の臨床試験、「Interactive Physical and Cognitive Exercise System(iPACES)」では、デスク下のペダルと2D用タブレットを使って、MCIのある高齢者の脳の健康を調べているところだ。

gif_1「iPACES」ではフットペダルとタブレットのゲームを併用する。
提供:iPACES

 Anderon-Hanley氏は、電話でこう話してくれた。「われわれは、人が認知症になる前の段階で留めようとしている。アルツハイマー病などの疾病を食い止められるというつもりはないが、行動的介入によって低減したり緩和したりすることで、道筋を変えようとはしている」

 認知症の発症をたった1年か2年遅らせるだけでも、ナーシングホームが必要な人の数は大幅に減る、とAnderon-Hanley氏は指摘する。

 iPACESの計画書では、高齢者とその介護者またはパートナーに、自宅で「ペダルを漕ぐゲームをプレイする」ことを6カ月間続けるよう勧めている。研究者は、参加者の進捗を定期的に追跡し、電話や「Google Meet」を通じて実行機能をモニターする。Anderson-Hanley氏によると、VRヘッドセットはめまいや乗り物酔い症状を引き起こすことが多いため、iPACESでは3Dではなく2Dを利用しているという。

 2Dのエクサゲームでは、スーパーや郵便局、歯科医やかかりつけ医まで往復するといった、日常的な用事をこなす設定でバーチャルバイクのペダルを漕ぐ実行機能を課題にする。

 MCIのある患者にとっての目標は、自立した生活を送り、ナーシングホームに入らずに済むようにすることだ、とAnderson-Hanley氏は説明している。

 「(それを実現するうえで)最も大きい変動要因の1つが、実行機能だ。これを失うと、うまく計算ができなくなったり、近所でも行き先が、あるいは自宅への帰り道が分からなくなったりする」(同氏)

 VRエクサゲーミングによる認知力の効果の研究を進めることのほかに、iPACESは高齢者にとってエクササイズをもっと楽しく、関心を引き付けるものにすることも目指している。

 「認知症は大きく深刻な臨床上の問題だが、必ずしも楽しくないような場面でも人々がエクササイズできるように、われわれが少しばかり楽しんで、それを興味深く魅力的なものにしようとしている」(Anderson-Hanley氏)

 後編に続く。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]