メタバースは乱立してカオスと化すかもしれない - (page 2)

Stephen Shankland (CNET News) 翻訳校正: 編集部2022年04月18日 07時30分

Metaの思惑とは裏腹に

 共通の基盤の上に単一のメタバースを構築するというMetaのビジョン自体は、特に目新しいものではない。すでにインターネットでは技術者たちが協力して開発した標準を使ってデータがルーティングされ、「Gmail」から「Outlook」にメールが送られ、さまざまなブラウザーにウェブサイトが表示されている。世界のそうそうたるIT企業も、こうしたオープンソースソフトウェアの恩恵に浴してきた。OSのLinux、ソフトウェア開発のためのLLVM、ウェブブラウザー開発のための「Chromium」は、こうしたオープンソースプロジェクトの一例だ。

 しかし、最近の技術プラットフォームの多くは、特定の企業が管理するプロプライエタリー(専有的)な設計を採用している。これはオープンな標準というより、閉ざされたウォールドガーデンに近い。

 人々がFacebookから離れられないのは、Facebook上でつながっている友人を別のSNSにまるごと移行させることはできず、その友人もまた自分の友人を移行させることはできないからだ。Appleのテクノロジーは、Mac、iPhone、iPad、「Apple Watch」、「AirPods」を購入し、Apple Music、Apple TV Plus、Apple Fitness Plusに加入しているユーザーに最適化されている。Microsoftのメタバースでは、「Office」の生産性、「LinkedIn」上のアイデンティティー、Activision Blizzardが開発するゲームが、脇役ではなく主役の座を得るだろう。

 Metaの真の狙いはメタバースの実質的な所有者となることだ、とエンジニアのJack McCauley氏は言う。McCauley氏はVRヘッドセットの開発企業、Oculusの共同創設者であり、同社が2014年にFacebookに買収された後に退社した。「Metaが目指しているのは(アプリやサービスがそろった)独自のプラットフォームを構築することだ」と同氏は言う。

 Metaがメタバースのプラットフォームを構築しようとしていることは間違いない。同社は今後数年間にメタバースの構築に数十億ドルを投じることを明らかにしており、開発者やクリエイターの獲得に力を入れている。しかし、Metaが描いているメタバースはFacebookだけのメタバースではない。Zuckerberg氏は、相互運用性とオープンな標準は「メタバースに最初から組み込まれているべき必須要素だ」と述べた。このアプローチはメタバース間の垣根を取り払うものとなるだろう。同氏は、今日の代表的な技術プラットフォームでは「選択肢の少なさと手数料の高さ」が「イノベーションを阻害し、インターネット経済全体を収縮させている」と断じた。

 しかし、分断されたメタバースを予想しているのはMcCauley氏だけではない。

 Soundscape VRの創業者Eric Alexander氏は、人々は友人たちが集うメタバースと、勤め先が用意したメタバースの両方に通うようになると予想する。仮想世界によって、求められるガバナンスモデルやコンテンツのモデレーション方針、基盤技術、独自要素技術は違う。Soundscape VRは、音楽やコンサートの内容に合わせて鮮やかな3D世界を生成するサービスを提供している。この世界では、現実世界でのミュージシャンの動きと聞こえてくる音の間にずれが生じないようにレイテンシーを極小化することが求められる。Soundscape VRは、これを他の世界と共有したいとは考えていないし、共通の基盤に合わせて自分たちの基準を下げることも考えていない。

Soundscape VR
提供:Soundscape VR; screenshot by Stephen Shankland/CNET

 少なくとも整理統合が起き、小規模なプレーヤーが一掃されるか吸収されるまでは、大小さまざまなメタバースがてんでに活動することになるだろう。

 「誰もが独自のメタバースを持ち、コントロールしたいと考えるようになる」と言うのは、Tusk Venturesの投資家Bradley Tusk氏だ。「いずれ競争が起こり、勝者が明らかになる」

オープン性という小さな希望

 共通のインフラはメタバースの土台を強化する助けになるかもしれない。有望なプロジェクトはいくつかある。例えば非営利団体Open AR Cloud Associationの「Open AR Cloud」は、ARヘッドセットが活用できる現実世界のデジタル版を構築しようとしている。「OpenXR」は、複数のAR・VRヘッドセットに対応したソフトウェアを書くためのインターフェースだ。「WebXR」は、ウェブパブリッシングの技術をヘッドセットのブラウザーインターフェースにもたらそうとしている。GPU大手NVIDIAのお気に入りは、Pixarが公開しているUniversal Scene Description技術だ。

 小さな取り組みも集まれば大きな力を持つようになる。これはLiquid Avatar TechnologiesのCEO、David Lucatch氏が抱いている希望だ。同社は、メタバース間の移動を容易にするID技術を開発している。Lucatch氏が設立に関わった「Multiverse Collective」というアライアンスは、企業が手を組み、Metaのような巨大企業が主導するメタバースの取組みに対抗できる技術を共同で開発することを目指している。

 それでも最後にはクローズドな技術が勝つと主張するのは、GlobalDataのアナリスト、Laura Petrone氏だ。「メタバースの実現には大量のデータ、膨大な計算能力、高度な技術が求められる。これは大手ハイテク企業の特権だ」と同氏は言う。

 新たな標準の誕生に期待しよう。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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