ASMRの認知を広めたい--声優・小岩井ことりさんに聞く「kotoneiro」のこだわりと狙い - (page 2)

ASMRの認知を広めて、音を使ったコンテンツを盛り上げたい

――ASMRレーベルを立ち上げたきっかけや経緯を教えてください。

 ずっと興味はあったのですけど、3~4年ぐらい前では、ASMRという言葉がまだ世の中に浸透してない状態と感じていました。もっと前からも興味があって、パーソナリティを務める配信番組でもASMRの要素を取り入れたいと思っていたぐらいだったんです。

 番組でも出演でも、どんなことでもいいので、何かしらの方法で関われるといいなと。それをいろんな場所でお話をしていたら、賛同してくれるスタッフの方に恵まれたんです。1人では難しいですけど、いいチームが組めるということがわかって、それで立ち上げたのがきっかけとなります。

――小岩井さんが思う、ASMRの魅力は何でしょうか。

 どんな人でも楽しめるところにあります。ASMRもさまざまなジャンルがあるなかで、私たちが取り組んでいるASMRボイスドラマの観点から言うと、従来型のドラマCDももちろん素晴らしいのですけど、その場にいるような体感を味わえる、その感覚がすごいところですね。物語の主人公になれるような気分を味わえるところも魅力です。あと物音だけのASMRコンテンツもありますが、癒しを感じられたり、脳を直接マッサージされているような感覚になれるところもいいところです。

――小岩井さんは発起人でありプロデューサーとして活動もしていますが、実際にどのようなことをされているのでしょうか。

 プロデューサーというとカッコいいのですけど、主に雑用です(笑)。基本的に全体の方向性を決めたり、次に何しようかというところの相談の中心にいるというのが、わかりやすい立ち位置としての説明なのかなと思います。

 スタッフの方がやるようなことも、参加できる範囲では参加します。伝えるのが下手なので、自分で作ってしまうこともありますね。脚本を私が書くこともありますし、kotoneiroでは配信番組も行ってますが、台本の初稿は私が書きました。キャンペーン用の画像もデザインすることもありますし、効果音の収録も自分ですることもあります。本当になんでもやってます。とはいえ、1人だけで全てのことはできないので、チームのメンバーが優秀だからこそ、いろんなことができています。

――ASMRだと、シチュエーションが大事と思うのですが、作品についてはどのようなアプローチで考えられているのでしょうか。

 アプローチは毎回違います。「おしごとねいろ」とついているので、お仕事から考えることもあれば、キャラクター性から考えるものもありますし、お願いをする声優の方を見据えて、どういうキャラクターをするかを決める場合もあります。ただ、独善的に決めているわけではなくて、さまざまなアイデアを出しつつ、チームのなかで意見を出し合って決めています。

――ストーリーについて、ASMRだからこそ工夫したり留意しているところはありますか。

 基本的に聴く方が男性でも女性でもいいようにということは、頭に置いてます。あと私が声優として演じているなかで感じているのですけど、人間として急に仲良くなるような距離感は、なかなかおこりえないことだと思ってます。一方でASMRは距離感が近いところが魅力なので、できるだけ違和感のないように埋めていくかは工夫しているところです。

 例えばペットトリマー編では、みなさん自身が動物になってもらうことで、ペットトリマーさんが甘やかせても変ではないというようにしてます。距離感が近くなれるシチュエーションは、いつも考えて作っています。

――メインとなる「おしごとねいろ」シリーズですが、どのような経緯でお仕事をテーマとしたのでしょうか。

 レーベルを立ち上げるにあたってどういうことをやろうかとみんなで相談したんです。そのときに、お仕事の音というのは、意外と聞けないという話題になって。私は声優で、チームのみんなもいろんなお仕事をされてますが、それぞれのお仕事における音やルール、決まりごとなどは、意外と知らないというお話になったんです。それを体感できるものがいいのではとなって、お仕事をテーマに据えたシリーズを展開することにしました。

 ほかにも、ASMRの人気コンテンツは偏りがちなところがあります。そのときにお仕事の要素を入れておくと、バラエティに富ませることができるというのもあります。

――小岩井さん自身は、いろいろなお仕事に興味はあるのでしょうか。

 以前から、いろんな方の仕事の話しを聞くことが面白いとは感じていました。知らない世界を知ることにもなりますし、仕事中の普段見せないようなカッコよさや可愛らしさ、凛々しさなどがあると思うんです。その普段とは違う姿を近くで体感できるASMRは面白いと感じてます。お仕事もバラエティに富んでますから、題材を考えるのも楽しいです。

――ASMRの収録では、頭部を模倣したダミーヘッドマイクを使われます。いろんな方向から発声して収録するということについて、なんとなくはイメージできるのですが、具体的に通常のマイクとの収録と違うところはありますか。

 通常のマイク収録は、まず動かない、動いてはいけない、物音を立てないというのが前提です。でもダミーヘッドだと、周りをまわってもらったり、例えば後ろを振りむいて棚から物を取るということであれば、動作的なお芝居も加わることがあるというのが大きな違いで、特徴でもありますね。

――こうした違いのあるASMRの収録で戸惑ったり、あるいは戸惑われる方はいらっしゃるのでしょうか。

 私自身はすごく楽しくやらせてもらってます。ほかの方がどう感じているかはわからないですが、kotoneiroに出演されている声優の方々は、戸惑いはないというぐらいにすごくスムーズでした。

――kotoneiroを立ち上げて1年以上が経過しましたが、手ごたえや得られたものはありますか。

 1年続けてきたことで、信頼を得てきていると感じてます。レーベルもそうですけど、ASMRの言葉自体も知らない場合があります。そのあたりがだんだんと認知されてきましたし、レーベル自体のファンの方も増えました。

 ASMRの言葉が広がりつつあるなかで、いいタイミングで始めることができたと感じてます。DLsiteさんのように、ASMRコンテンツを広げていけるパートナーさんにもご協力いただけたならと思ったところで、縁あってめぐり合うことができたことも大きいです。

 kotoneiroでは、ASMRコンテンツの認知を広めて、業界を盛り上げていきたいと思ってます。ASMR、しいてはオーディオも含めて、音を使ったコンテンツを盛り上げたいという意志のもと、いわゆるR18と呼ばれる性的な要素には寄らない方向で広げたいというコンセプトを持ってます。

 私としては、ASMRにもいろんなジャンルがあり、それこそ同人誌に近いものだと思うんです。同人誌は文学的なものもあればセクシーなものもあります。それと同じようにASMRも幅広いです。ASMRはR18のようなイメージを持たれている方も少なくないのですけど、健康的で癒されるような作品を提供することで、幅広いものであることが認知されるといいなと思います。

――これまで販売されてきた作品を見ていると、バーテンダー編の販売数が多いように見受けられます。

 いろんな要素が組み合わさった結果だと感じてます。脚本やASMRとしての内容もそうですけど、バーテンダー編は意外に珍しいものだったのかなと。距離感が近くて、2人でいられて、いろんなことを話してくれたりお酒を作ってくれたりする時間を好ましいと思ってくれる方々が、多かったと感じてます。もちろん、うえしゃま(※バーテンダー編のキャラクター「ライラ」を演じた、声優の上田麗奈さんの愛称)の声もとても素晴らしくて、ASMRにピッタリなリラックスできる声質で演じていただけたのも大きいです。

――kotoneiroではオリジナル作品だけではなく、小岩井さん自身もキャストとして参加したアニメ「のんのんびより」のコラボ作品「のんのんねいろ」もリリースされています。

 IPを扱うことができるようになったのも、続けてきた成果のひとつと感じてますし、これも積み重ねた信頼があったからだと思います。「のんのんねいろ」では、れんげの声優としてだけではなく、脚本も自ら書くという珍しいこともさせていただきました。

 「のんのんびより」はコミックとTVアニメが完結したのですが、もっとれんちょんを演じたかった気持ちがあったので、自分でコラボ作品を作ることができたことは、本当に良かったです。

――ほかにも、「耳もとハートビート」という心臓の音を収録したシリーズもあります。これも珍しいものだと思いますが、なにかきっかけとなるものがあったのでしょうか。

 これは、ダミーヘッドマイクを使って喋る生配信を個人的に実施していたときの出来事がきっかけです。たまたまダミーヘッドマイクに近づいたら、心臓の音がきれいに取れて、それをみなさんが喜んでくれたんです。確かに眠くなるし、心臓の音は人間が生まれる前から聴いていた音なので、落ち着きますよね。いい音だと思って立ち上げました。

――ご自身はもとより、他の声優の方(掲載時では、斉藤佑圭さんと渡部恵子さん)の作品もリリースされていますが、お願いをしたときの反応や収録時のエピソードはありますか。

 そうですね……。オファーしたときは「……?……いいよ」というような反応でした。収録でも少し戸惑いがあって「本当にこれでいいの?」という風にも見受けられました。声優にもかかわらず、声を出さずに帰るということは基本的にないですから。それでも快く引き受けてくださいましたし、ファンのみなさんからもすごく反響がありました。

――小岩井さんから見て、ASMRがこうして広まってきている状況について、どういった要因があると思いますか。

 ASMRは幅広いものだからというのもあるのですけど、なんといいますか……疲れている方が多いからと感じるところもあります。癒しというものを極めて求めていったときに、ASMRは直接脳をマッサージされるような心地いい感覚がありますので。

 それこそ新型コロナの流行で家で過ごす時間が増えて、目で見るものや、考えるのも疲れますけど、何か癒されてのんびりしたいときとかに、すごくはまったのではないかなと思います。

――kotoneiroとして、今後の展望があればお話いただけますか。

 やりたいことはたくさんあります。オリジナルだけではなく、IPのある作品もそうですし、いろんな作品とのコラボ、声優の方ではない方の作品もやってみたいです。ほかにも環境音のみの作品を作って、自由に素材として活用できるようなものもやりたいです。

 チームとしての規模がそれほど大きくないので、今は「おしごとねいろ」を中心としていますが、ほかのサークルさんができないようなことや、もっとユーザーさんが面白いを思ってもらえることは私やチーム含めて常に考えています。新しいお知らせができるタイミングがあれば随時告知していきますし、それも楽しみにしていただきたいです。そして、ASMRをいろんな方に知っていただきたいです。

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