モチベーションの高いチームを作る「自律・共感・挑戦」の3要素を解説 - (page 2)

川口かおり (ウォンテッドリー 執行役員)2021年11月29日 15時00分

内発的動機づけを生み出す3つのエッセンス

 内発的動機づけを生み出すには大きく分けて3つの要素がある。早速、内発的動機づけという観点でよくある間違いから、一つ一つ紐解いていこう。やってしまっていることがないか、やられたことがないか、思い返しながら見ていってほしい。

自律:「宿題やりなさい!」は大間違い

 母が「宿題やりなさい!」と言うと、子は「やろうとおもってたのに言われらやる気なくしたよ!」と返す。そんなやり取りに、少なからず身に覚えがあるだろう。この「言われたからやる気なくしたよ!」という言葉、実は屁理屈ではなく、とても本質を捉えている。ここに内発的動機を生み出す1つ目の要素「自律」が絡んでくる。

 自律とは自分で行動について意思決定すること。自分で行動について決めること、それ自体がモチベーションを上げる、ということは実は研究からも明らかになっている。1970年代、研究者のデシとライアンは自己決定理論という考え方を発表した。それは人間の欲求は自律性が中心になりその周りを有能性や関係性と行った要素がまわるようなものだとしている。

自己決定理論
自己決定理論

 また、自律とは独立と異なるので注意が必要だ。自律とは誰にも頼らず一人でやることではなく、選択して行動することを指す。「宿題やりなさい!」と指示することは、本人の「宿題をやる」という決断を奪ってしまうことになる。これは内発的動機づけを考えたときに、最も避けたほうが良い行動の一つ。「早くあの書類作りなさい」も同じこと、自分で決定する状況を奪わない注意が必要だ。シンプルだが、「自分で決める」ことで自律性を得たものは内発的動機を得ることが出来る、細かい部分だがぜひ実践してみてほしい。もちろん、締め切りを守ることは重要だ。

 よくある「指示待ち」になってしまうと一番怖いのは、もちろん言われないと仕事をしてくれないというところはあるのだが、本人にとってモチベーションが上がらない状態が続いてしまう点だ。

 目標設定でも、今日やることでも、スケジュールでも、何でも「自分で決める」ことを日々の業務プロセスのなかに取り入れてみよう。

共感:「目的の共有面倒だからTODOだけシェアしよう」は大間違い

 新プロジェクトに関する会議から帰ってきたあなたとメンバーがミーティングをしている。メンバーと仕事を分担するためのプロジェクト内容を説明する時、プレゼンテーション資料を見せながら「時間も無いし、目的とか前段は後で見ておいて」と流しながら「君にやって欲しいのはこの部分」と伝えてしまう。

 一見部下の時間を守る、効率性を大事にした上司に見えるが、じわりじわり部下のモチベーションを蝕んでしまうポイントがある。人間、自分が何のためにやるのか?という点に意義を感じ共感すること、大いなる目的の一つに自分が加わっていると感じることから内発的動機を得るものだと明らかになっている。

 WHY/HOW/WHATでいうWHYの部分が重要だというのは、マーケティングコンサルタントであるサイモン・シネック氏がTEDでプレゼンしたゴールデン・サークル理論でも言及されているように、なぜ、何のためにやるかがモチベーションをドライブさせるのだ。

共感の重要性
共感の重要性

 プロジェクトの目的を丁寧に共有し、「共感」という要素を満たすのは重要だ。チーム・組織作りにおいては特に会社のミッション・ビジョン、または理念とも言われる、「何をするためにその会社は存在するのか?」という点に対してメンバーが共感しているか?という点が非常に重要になってくる。まさにWHYの部分。なぜなら、ここに共感していれば会社のミッションにつながる業務であれば何をしているときでも内発的動機を得られるからだ。

 会社のミッション・ビジョンへ共感しているかどうかは、正直入社時に8割型決定してしまうものだ。第一ボタンのようなものだ。入社後に継続的に社のミッション・ビジョンについて理解を深め、共感することはもちろん大事だが、全く共感していない状態から、共感する状況になるのは難しい。

共感は採用タイミングで8割方決定する
共感は採用タイミングで8割方決定する

 したがって採用活動において、この共感は重要だ。共感していれば、じわりじわりとメンバーのモチベーションは上がっていく。まさにモチベーションの源泉がメンバーの心のなかにあるようなものだ。

 さまざまな技術革新や、新型コロナウイルスの感染拡大のような環境の変化で、会社がどのように何の事業をするかということは変わる可能性が高い地代になる。つまり、HOWやWHATが変わってしまう環境だ。こういうときにこそ、WHYが重要になってくる。なぜなら、WHYは北極星のように普遍的なもので、いかりのようにメンバーの心をつなぎとめてくれるからだ。

 パーパス経営という言葉も生まれ、少しずつ、少しずつ共感の重要性が普及しつつあるが、この共感という要素をより一層加速させるのは重要だ。仕事の有意義さを求める世代、つまりミッションに共感できる会社に入りたいと考える世代が台頭するなか、もし「会社のミッションへの共感」をきれいごとのように考えているのなら、その考えをアップデートした方が良いのは明白だ。

挑戦:「これくらいの難易度のタスクにしておいたほうが良いよね…?」は大間違い

 「田中さん、君のレベルを考えて今回のプロジェクトではここからここまでを担当してもらおうと思っている」。自分のことを分かってくれていて、気遣いができそうな上司風だが、ここにも落とし穴が。仕事の難易度、いわばハードル設定は重要だ。

 ハードルは低すぎると飽きてしまう、また高すぎると不安になってしまう。この難易度の丁度よいところのタスクを行うことがいわゆる高いレベルで没頭する「フロー状態」を創ると、1970年代、ミハイ・チクセントミハイが論文を発表している。

フロー状態のための目標設定
フロー状態のための目標設定

 適度なハードルに取り組むこと自体がモチベーションにつながる。これは良いニュースである一方、ハードルの高さの調整が非常に重要になってくることが分かるだろう。ハードルの高さが適切かをチェックする方法の一つが「今挑戦していることはなにか?」という点を毎週毎週確認していくこと。もし「特に無い」という答えが続いたらハードルが低すぎる、またあまりに多すぎて不安で身動きが取れなくなってしまっていたら高すぎる。日々の業務に没頭する中、本人含め、リーダーもケアしていくことが重要だ。

自律・共感・挑戦という3つの言葉

 内発的動機づけをドライブさせる要素はまとめると「自律・共感・挑戦」。これは「モチベーション3.0」内では、Autonomy、Purpose、Masteryとして表記されていた。この英語のままだと理解に時間がかかる、結果浸透に時間がかかると考え、ウォンテッドリーでは独自に「自律・共感・挑戦」と意訳して伝えやすくしている。

自律・共感・挑戦
自律・共感・挑戦

 ではこの3要素をどのように組織に実装するか。次回は、ウォンテッドリーが組織のモチベーションを高めるために実践し、磨き上げてきたさまざまな取り組みについて話をしたい。あなたのチームですぐに活かせる何かがあるかも知れない。

川口かおり

ウォンテッドリー株式会社 執行役員

早稲田大学卒業後、オリンピック選手のマネジメントに従事、その後、2007年リクルートエージェント(現リクルートキャリア)に入社。人材紹介事業で9年間、大手総合商社、大手消費財メーカー、大手広告会社など多くの日本を代表する企業の中途採用を支援。その後グローバル・ハイキャリア領域の事業開発にマネージャーとして携わり、多くの企業の採用課題と向き合う。テクノロジーでもっと適材適所を生み出したいと考え、2017年10月にウォンテッドリー株式会社に入社。自身も採用にコミットし、組織を1年半で3倍にすることに成功。

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