持ち運べる「ポータブルX線カメラ」で世界の結核撲滅に挑む富士フイルム

 国連プロジェクトサービス機関「UNOPS(United Nations Office for Project Services:ユノップス)」が神戸市と連携し、世界のSDGs課題解決を目指すスタートアップを支援する共創プログラム「SDGs CHALLENGE」が運営する連続セミナー「SDGs CHALLENGE Open Talk」の第3回目が10月29日に開催された。

 今回は「AIを活用した新技術で世界三大感染症結核に挑む!」をテーマに、世界の結核撲滅を支援する富士フイルムの取り組みが紹介された。

 富士フイルムは創業2年後の1936年にX線フィルムを国産化し、現在も国内でトップシェアを占めている。1983年には世界初のデジタルX線装置を製品化。当時は一室を占めるほど巨大だった装置のダウンサイジングを進め、2018年10月に総重量約3.5kgのポータブルX線撮影装置「CALNEO Xair」を発売した。操作性を高めたシンプルなデザインは2018年にグッドデザイン金賞を受賞している。同じく小型軽量化されたX線撮影用受像器とあわせて、従来の10分1という少ないX線量でも高画質なレントゲン撮影を実現する。

富士フイルムは1936年に国内初のX線フィルムを製品化した
富士フイルムは1936年に国内初のX線フィルムを製品化した
ポータブルX線撮影装置「CALNEO Xair」
ポータブルX線撮影装置「CALNEO Xair」

 販売を担当するメディカルシステム事業部の守田正治氏によると「当初は在宅医療向けに開発されたが、日本ではドラマになるほどレントゲン撮影施設が身近にあり、関連する規制もあるためそれほど大きな需要は見込めなかった」という。そこで考えたのが、電気の供給も医師も不足する新興国への販売だった。

富士フイルムメディカルシステム事業部の守田正治氏
富士フイルムメディカルシステム事業部の守田正治氏

 キャリーバック1つで運べるほどコンパクトで軽量なCALNEO Xair は、省電力でソーラーパネルを電源にすれば1日300枚の撮影が可能だ。長年培ってきた画像処理技術を用いた胸部X線画像分析システム(AI-CAD)は、GPUを搭載したポータブルデバイスで使用でき、ノートPCでも画像診断ができる。こうした使い方は日本国内では難しいが、屋外では規制が異なるため、さまざまな場所で使える。病気やケガ、COVID-19の感染診断など用途はいろいろあるが、一番のターゲットにしたのが結核だった。

GPUを搭載したデバイスで高度な画像処理を可能にした
GPUを搭載したデバイスで高度な画像処理を可能にした
国内の訪問介護向けに開発され、COVID-19の診断にも活用されている
国内の訪問介護向けに開発され、COVID-19の診断にも活用されている

 エイズ、マラリアと並ぶ世界三大疾病である結核は、年間の感染者数が1000万人に死者数が140万人にものぼり、グローバルファンドが撲滅活動に巨額の予算を付けている。予防診断に不可欠なレントゲン撮影がどこでも簡単にできる装置は、現地NPOなどを通じて購入される可能性が高かった。2019年に横浜で開催されたアフリカ開発会議(TICAD)で発表したところ手応えがあり、グローバル展開に踏み切った。

どこでもレントゲン撮影と画像診断ができるシステムを開発
どこでもレントゲン撮影と画像診断ができるシステムを開発

 守田氏は文字通り装置を抱えて、炭坑から砂漠、森林の奥まで世界を飛び回り、実証実験の形で様々な国で装置を使ってもらい、実績と信頼を積み重ねていった。その活動は結核撲滅に取り組む組織「STOP TB(結核)」の代表をはじめ、国内外のキーマンに認められ、医師不足の地域では医師の診断前にAIソフトウェアを使用した画像診断をしてよいというルールや、屋外でのX線機器の使用を許可するガイドラインがWHOやIAEAによって整備されるまでになった。

 UNOPSが発行する新興国のNPOが入札無しで購入できる機器を紹介するカタログに掲載され、パキスタンでは鉱山で働く労働者が現場近くの屋外でレントゲン撮影をしたり、トヨタのランドクルーザーに搭載するキットの開発なども進められている。

結核は世界3大疾病の中で年間死亡者数が最も多い
結核は世界3大疾病の中で年間死亡者数が最も多い
使用手順
使用手順
電力や医師の手が足りない新興国で活用が広がる
電力や医師の手が足りない新興国で活用が広がる
WHOやIAEAで使用ガイドラインが悪性され、UNOPSのカタログにも掲載されている
WHOやIAEAで使用ガイドラインが悪性され、UNOPSのカタログにも掲載されている

 富士フイルムではレントゲン装置の販売だけでなく、専門家を育てるトレーニングプログラムの実施や検診センターの設立も行っている。また、AIの診断結果をリモートで医師が再度診断するプロジェクトなど、グローバルでのヘルスケア改革に力を入れている。

 「写真フィルムが無くなるという危機感から早くからヘルスケア事業に力を入れてきたが、ネバーストップをスローガンとする社風もあってグローバルに貢献しようという活動をはじめた。目指すゴールを明確にして、無理をしてでも早く動くことで良い応援者にも気に入られ、ビジネスにもつながった」と守田氏は語る。

レントゲン装置のデジタル化にもいち早く取り組んだ
レントゲン装置のデジタル化にもいち早く取り組んだ
様々なアイデアで使用されている
様々なアイデアで使用されている

 ヘルスケア分野に関してはもちろん国内でも力を入れており、レントゲン検診などを受けてから結果を伝える時間を短縮したり、使用する線量を減らすなどシステムの高度化を進めている。最後に守田氏は「ヘルスケア分野は世界で競合が増えているが、技術と信頼性で日本は負けていない。価格競争に巻き込まれて品質を落とすことなく、命を守る活動を高めていきたい」と述べ、発表を締め括った。

海外では医療センターの開設や医療教育なども実施している
海外では医療センターの開設や医療教育なども実施している

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