アフリカビジネスを紐解く「2つの視点」--アフリカ特化ファンドAAICの椿進氏に聞く - (page 2)

アフリカビジネス注目の「成長領域」

——椿さんはそのようなアフリカで、どのようなスタートアップに注目し、投資されているのでしょうか。

 いま、アフリカ・ヘルスケア・ファンド(1号)で31社投資しています。比較的ヘルスケアに寄ったファンドで、ヘルステックやヘルスケアサービスなどが中心です。例えば、スマホの普及にともないこの数年で大きく伸びたEコマースは注目です。ケニアのMyDawa社は、一般薬はもちろん処方薬も、お医者さんから電子処方箋をもらうか、紙の処方箋を写メで撮って本人確認できればネットで買うことができます。

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 また、FinTech系も急成長中で注目です。国際間の送金を無料でできるサービス(Chipper Cash社)や、スマホがあれば5分で加入できる月1000円の健康保険(Reliance HMO社)、コロナOKということもあって急速に伸びています。遠隔診断も、エジプトのShezlongという会社が大きく成長しています。

 日本にはないサービスだと、ケニアのflare(フレア)が、民間で救急車をUber型で配車するプラットフォームを作りました。アフリカ54カ国のうち、電話したらすぐに救急車が駆けつけるというサービスがある国は、ほとんど存在しません。ケニアだと病院に電話して呼ぶと3時間待ち。それでは困るよねということで、病院にある救急車をGPSでネットワーク化、救急医も登録してもらい、電話がきたら一番近い救急車に発動命令を出して、Googleマップで場所を特定し、たとえば破水なら産婦人科、交通事故なら整形外科と、適切な救急の医療機関に搬送するサービスを提供しています。ナイジェリアのLifeBankも、血液のデリバリーに特化した物流サービスを、都心ではバイク、郊外では一部ドローン(テスト中)も使って提供しています。

「flare(フレア)」
「flare(フレア)」

 ケニアのVitalRayも面白いですよ。レントゲン、CTスキャン、MRIなど大型検査機器専門の検査センターです。要は、これらの大型医療機器が高額で各病院単独では購入できないので、いくつかの病院が共同して利用する検査専門センターが存在しています。日本はCTスキャンやMRIが世界で最も普及していますが、1日数回程度と稼働率は最も低いといわれています。ここでは1日数十回(日本の10倍以上)、メーカーさんがこれ以上はだめだというほど稼働させています。こちらの方が、よっぽど効率的ですね。

「VitalRay(バイタルレイ)」
「VitalRay(バイタルレイ)」

 つまり、官にやる余裕がないから民がやる。国が整備していない領域を、民間がテクノロジーも使って、やっていくというモデルなんです。既得権益者が少なく、規制もこれからということも後押しをしています。リープフロッグとタイムマシンが混ざると、こういうビジネスモデルが出るというわけです。

——なるほど。ところで、偽薬を見抜くスタートアップも出始めていると聞いたことがあるのですが。

 おっしゃる通りですね。ナイジェリアのDrug Stoc社は、テックを活用して見抜くわけじゃないけれど、新たな仕組み(卸のDXモデル)で解決しました。ナイジェリアでは、薬の約2~3割がフェイクドラッグと言われています。流通で混入/すり替えられるのです。二次卸、三次卸と多層にあって、さらにオープンマーケットという青空市場で薬を売っている状況なので、本物かどうか全く分かりません。これには現地のお医者さんも薬局も困っています。そこで、Drug Stocは、病院から薬をネットで直で受注し、メーカーや正規代理店から直に仕入れて、自社で倉庫から24時間受付し配達するという仕組みを作ったところ、急速に成長しています。

「Drug Stoc(ドラッグストック)」
「Drug Stoc(ドラッグストック)」

アフリカビジネス「4つの進出パターン」

——今後は、どういう領域や企業に投資しようと考えているのでしょうか。

 お陰様で、1号ファンドのパフォーマンスが非常にいいので、2号ファンドを組成中です。2号もヘルスケア分野も引き続きメインですが、非常に成長の早いInsurance Tech/FinTech、あるいはEdTechなどのイノベーション分野にも投資し、日本のためローカルのためになるような取り組みを加速していきたいです。

 それから、1号ファンドのLP各社様が投資先と協業や直接投資を開始していただいたり、他の日本企業とも協業や投資を通じで一緒にビジネスをやっていこうという動きがどんどん広がっています。このような、日本企業のアフリカ進出支援もしっかりやっていきたいですね。

——これからアフリカに進出する企業が、抑えておくエリアや領域、勝ち筋がありそうな部分などがあれば教えてください。

 まず押さえるべき国は4つあります。東はケニア、南は南アフリカ共和国、西はナイジェリア、北はエジプトです。オセロの四隅のような位置づけで、GDPは4カ国合計でアフリカ全体の半分以上。最初は、この4か国から検討するのが、最もオーソドックスでしょう。

 ケニアは、もともと英国が植民地の拠点となる東アフリカの総督府を置いたところで、ケニアで起きたことが数年後にはタンザニアやウガンダに広がるなど、東アフリカのビジネスの中心です。ナイロビが高地でマラリア蚊がほとんどいなく、気候が最高という点も見逃せません。

 南アは、南アフリカの中でも人口約5800万人と、南部では突き抜けて多い国です。ナミビア、ザンビア、ジンバブエなど面積の大きな国もあるけど、人口は少ないんですよね。

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 ナイジェリアは、人口約2億人、GDPは南アを抜いてアフリカ最大という経済規模で、やはり押さえるべき国でしょう。ちなみに、多くの国がフランスの植民地だった西アフリカでは珍しく、ガーナとともに英国の植民地でした。エジプトも、人口約1億人。北ではリビアやチュニジアなど面積が大きい国もありますが、人口はエジプトが断トツです。

 ただ、業種によっては、石油ならアンゴラ、銅ならザンビア、と違いはあります。それからエチオピアは、人口1.1億人とアフリカで2番目に多い国です。天然資源がほとんどないため、縫製業などの軽工業から経済を立ち上げようとしている国です。欧州向けのトルコの縫製企業が500社以上進出してきており、さらに、中国や韓国の縫製企業も、人件費が世界最安のエチオピアへ進出してきています。一方、化粧品などの高級品は、欧州の避暑地であるモロッコがおすすめです。

——実際に日本企業がアフリカに進出するとしたら、どういう入り方がよいでしょうか。

 4つの進出パターンがあります。1つめは、天然資源や一次産品を獲得するための進出です。昔から、商社さんが天然資源やコーヒーなどの一次産品を輸入していますし、最近だとスシローさんがインド洋のマグロを買いに行くとか、分かりやすい入り方ですよね。

 2つめは、将来の有望市場としての進出で、トヨタさんをはじめ自動車メーカーが、ノックダウン生産の工場を設立していますね。成功している有名な事例では、味の素さんがスープ文化のあるナイジェリアで約100億円規模、カネカさんがウィッグ用の合成繊維で数百億円規模のビジネスを手がけています。

 3つめは、輸出生産拠点としての進出。日本ではまだまだ少ないですが、さきほどのエチオピアの縫製工場のほか、欧州の企業は人件費の安いアフリカを生産拠点として使っていて、たとえば欧州の薔薇は、5割がケニア産、3割がエチオピア産です。毎朝収穫して、昼の便でアムステルダムなどに飛行機で輸出しています。

 4つめは、新たなビジネスモデルの発掘や投資、実証の場としての進出です。ルワンダでドローンを使って血液を輸送しているZiplineは、米国のスタートアップですが、この代表事例でしょう。ドローンやAIのような、自国では規制が厳しくてできない、けどN数が大事なビジネスは、先にアフリカでやっちゃう。遠隔診断にしても、いずれ日本もそうなることを見越して、アフリカで腕を磨いておく。これはおすすめです。また、自国にはないビジネスモデルがたくさんあるので、これらを吸収・理解するための投資も有益です。

「Zipline(ジップライン)」
「Zipline(ジップライン)」

——ちなみに、目覚ましい経済成長が期待されるなか、アフリカでの環境問題に対する意識はいかがでしょうか。

 そこは非常に大きな問題です。まだ工場はそこまで多くないので、大きな問題は起きていませんが、今後については懸念があります。実は、新たに施設を建設するときの規格が欧州とほぼ変わらない国も多いのです。一方で、ルールがあっても取り締まりができていない国もありますし、生活ゴミをどう処分するかということが大問題の国もあります。進出を考えるのであれば、その国の政権のスタンスやリーダーシップを事前に確認することも大事ですね。

——ありがとうございます。最後に、アフリカ進出を検討している日本企業にアドバイスなどがあれば、ぜひお願いします。

 まずは行ってみることです。少しだけ歴史を振り返ると、アフリカ諸国が続々と独立した1960年代から70年代前半には、日本企業がたくさん進出して、日本人もいまの約3倍いました。それが、アフリカの経済発展が停滞した暗黒の80年代から90年代、その後の国内のバブル崩壊で、みんなアフリカから引き揚げてしまった。

 その間に、韓国、中国がどんどん進出して、いまアフリカにいる中国人の数は日本人の約300倍です。しかも彼らは、強制されたからではなく、単純にアフリカでのビジネスが儲かるから行っている。そういうふうに、どんどん皆さんアフリカに行くわけですよ。

 いま、日本もようやく、「中国、東南アジア、インドも大体やったので、最後のアフリカやらなきゃな」という雰囲気が出てきていますが、やはりまずは行ってみる、アフリカのビジネスや現地のニーズに触れることからではないでしょうか。

Asia Africa Investment and Consulting Pte. Ltd.(AAIC)
椿氏のメールアドレス:info@aa-ic.com

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