テレワーク下で多拠点かつ急拡大する組織への対応術--ContractS流の開発組織づくり - (page 2)

守屋 慧 (ContractS VP of Engineering)2021年08月23日 12時00分

テレワークシフトによって「始めたこと」

■1.東京・長野の2拠点混成での開発チーム編成

 テレワークにシフトする以前から、開発組織が一定以上の人数規模に達したことで、組織の中に複数のチームが在籍する状態となっていた。
オフィスワークを前提としていた頃は、チームの構成は基本的に拠点による制約をかけて振り分けていた。例えば、5人のチームのうち、2人を東京3人を長野、といった構成にしてしまうと、実質的にチームの中にサブチームが出来上がり、チームの情報共有のスピード低下が懸念されたためだ。

 しかし、全員がフラットなテレワーク環境になったことで、実質的に拠点を意識する必要がなくなった。これにより、チームを構成する自由度が高まり、最適なチームを構成することが容易となった。

 その結果、組織の観点からは、開発ロードマップを柔軟に組み替えることができるようになった。必ずしも拠点間で常にスキルのバランスが取れているわけではないため、拠点の制約によるチーム分けをしている場合と比較して、スキルのバランスを保ちつつ必要最少人数でのチームを構成することが可能となった。結果として、チームごとに並列で異なる開発テーマに取り組むことが可能となり、市場やお客様の変化により対応しやすい開発体制を構築することが可能となった。

 また、働く個人の観点からも、自身のキャリアの展開や技術やビジネスへの関心の変化に併せて、柔軟にチームを異動することが可能となった。

■2.チームでのオンボーディング活動

 上記に関連して、新入社員のオンボーディングも、より一緒に働くチームが主体的に進めていく形へと変化させていった。元々オンボーディングとしては、入社初日に全社で実施される労務関連やIT関連の案内や事業戦略共有、CEOとのセッションなどが設定されていて、開発組織としての定型的なオンボーディングは実施していなかった。

 テレワークシフトに伴い、オンボーディングの拡充とともに、日々最も長く時間を共に過ごすチームメンバーとの関係性構築を重要視して、開発組織全体でオンボーディングのガイドラインを策定すると同時に、それを新入社員を受け入れる各チームが実施する形をとった。

 実際にやってみると思わぬ副産物も得られた。副次的な効果として、組織全体で共通する部分と各チームが固有の部分を明文化する過程で、現状の仕事の進め方を見直す機会にもなり、既存社員にとってもよいきっかけとなった。明文化されていないことで、毎回確認作業が発生していた手順や、古くなっていたチームのルールを見直すなど、オンボーディングを通じてチームにとって非常に良い刺激を与えることに繋がった。

テレワークシフト以降も続けていること

■1.目標設定によるセルフコントロールの最大化

 組織目標を達成するためには、個々人が組織全体の目標達成に資する活動を日々行う必要がある。ContractSの開発組織では目標設定を通じて個々人がどのような形で組織目標に貢献するかを明確にしている。目標設定制度としてはMBO(Management by Objectives、目標による管理)を全社で採用しているが、ともするとMBOは単なるノルマ管理になってしまうこともある。

 そこでContractSの開発組織では、テレワークシフト以前から、個々人の将来のビジョンや内発的な動機づけと組織目標が重なる部分への目標設定に力を入れていた。個人目標を設定するにあたって、マネージャーやチームリーダーが一人ひとりのメンバーと寄り添うため、当然30分や1時間では終わらないことも多々あるが、この取組みがテレワークシフトをスムーズに展開できた要因だったと考えている。

 効果的な目標設定を行う際のポイントは以下の通りである。

<目標設定のポイント>

  • 本人とマネージャー間会社・組織が解決すべき課題と本人の希望を共有し、それらを両立する目標を策定する
  • 通常の仕事のプロセスに組み入れ可能な行動目標を策定する
  • 達成基準が明確な目標を策定することと、評価するプロセス全体を遵守することで本人と組織間の信頼関係を築く

 上記を考慮しながら目標の策定と日々の取り組みを積み重ねることで、以下のような効果が得られた。

<適切な目標設定により得られた効果>

  • 目標が数値化可能であり、進捗やカイゼンの取り組みが把握しやすくなった
  • 個人目標が組織目標と連動するため、組織目標に対するオーナーシップが芽生える
  • 個々人のなりたい姿との親和性によって、各自に目標達成へのモチベーションが生まれる

 設定された目標がこうした条件を満たすことによって、「テレワーク下でどのようにメンバーを管理するか?」という問題を未然に防ぐことができたと考えている。そして、目標設定を通じた一人ひとりの自己管理可能な状態を作ることは、テレワークシフトによって、より重要性が高まってきていると感じている。

■2.ヒトのマネジメントとコトのマネジメントの緩やかな分離

 ContractSの開発組織は、いわゆるマトリクス型組織という縦横2軸の構造をとっており、この形はテレワークシフト以前から変わっていない。

ContractSの開発組織は、いわゆるマトリクス型組織という縦横2軸の構造
ContractSの開発組織は、いわゆるマトリクス型組織という縦横2軸の構造

 上記の図では、ヒトのマネジメントは同じ職能ごとの横軸、コトのマネジメントは実務を行う縦軸で行っている。ヒトのマネジメントは、前述の目標設定に加えて、成果に対する評価や、労務管理、能力開発支援などを内包している。これは特にエンジニアなど専門性が高い職種において、その専門性の評価に納得感を醸成することや、専門能力を高める活動を定性的に評価に組み入れること、また日々のメンタリングにおいてもシンパシーを感じやすいマネージャとの関係性を作ることに役立っている。

 コトのマネジメントは事業目標を達成するための日々の活動を指している。事業目標の達成のためには、目標を共有し、異なる職種同士のコラボレーションを促すことと、チームが大きくなりすぎないことが重要であると考えこうしたチームを構成している。

 特にテレワークシフト後は、マネージャとメンバーが対面する機会も激減したことで、特にヒトのマネジメントにおける寄り添い方は今も模索を続けている。例えば各メンバーの能力開発はヒトのマネジメントの責務ではあるものの、コトのコンテキスト(ミッションチームが抱えている課題や、これから取り組む仕事の中身)をしっかり抑えておかないと、メンバーの能力を上げても成果に繋がりにくくなってしまう。

 また、離職やパフォーマンスに繋がり兼ねない、日常業務の中でのトラブルなども現状はマネージャが適宜メンバーとの1on1で関わりを深めながらサポートしている。

 こうした取り組みの結果、厳しい事業目標を追いかける中でも、業務負荷のバランスを保ちやすくなった。事業目標の軸のみで行うマネジメントだと、成果を追いかけるために長時間労働やチーム間での業務バランスが取りづらくなってしまう。そうしたときに一人ひとりのメンバーに寄り添い、ミッションチームを横断した人の軸でのマネジメントがあることで、業務の仕組みを改善したりチーム間での負荷分散を行うことができる。

おわりに

 テレワークにシフトながら組織が拡大する中で、これまで組織として曖昧にしてきたことや、暗黙的に共通認識としていたことが次々に明らかになった。マネージャーに期待する役割や、ミーティングの目的、勤怠のルールに至るまで、一つ一つは当たり前のことだが、それらを地道に明文化し、日々の仕事の中で浸透させていくことが組織づくりの道のりだと考えている。

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