WealthPark「起業家は自分との戦い」--資産運用の“土管“を作る挑戦

 事業開始から約7年、不動産の資産管理をデジタル化してきたWealthParkが新たな局面を迎えている。3月には、JICベンチャー・グロース・インベストメンツを引受先とする25億円の資金調達の完了と不動産管理会社向け小口化事業のDXプラットフォーム「WealthParkオルタナティブ」のリリースを発表。小口化まで含み、不動産投資のサポート範囲を拡大するほか、ワインやアートといった新たな資産の運用、管理までを取り込む考えだ。

 早くから海外拠点を設け、社員の半分が外国籍というグローバル化を実践する一方、紙と電話が主だった不動産管理のデジタル化を目指し、各地を東奔西走しながら、1つずつデジタルへの理解を深める草の根活動を続けてきたという。WealthPark 代表取締役社長の川田隆太氏に、商慣習が独特で、デジタル化が難しいとされてきた不動産管理にどう取り組んできたのか、今後、資産運用のDXをどのように描くのかについて話しを聞いた。

WealthPark 代表取締役社長の川田隆太氏
WealthPark 代表取締役社長の川田隆太氏

地道に着実に一つずつ積み上げることが一番の近道

――金融やアパレル業界でのキャリアを持ちながら、不動産業界向けのサービスを展開するWealthParkを始められたきっかけは。

 この領域の中でも、テクノロジーが一番遠い場所を見定めました。日本の不動産を購入したいと考えている外国人投資家の方に対し、管理という観点で資産の運用をサポートしたいと考えたのがきっかけです。現物の不動産管理をデジタルで実施するのは当時非常に難しかったので、そこにテクノロジーを使って期中管理ができる仕組みを開発したのが、スマートフォンで投資用不動産の管理ができるオーナーサービスである「オーナーアプリ」になります。

 私自身、投資銀行に勤めた後、ファッション通販の会社で代表をした経験もあり、金融とインターネットがバックグラウンドになっています。ファッション通販の会社は、最終的に大手企業に売却したのですが、その時にやりきれなかったなという思いが残り、次に事業を起こすときは、きちんと仕組みにできることに取り組みたいと思っていました。そこで、一番ネットと親和性がない、ある意味大変な分野に取り組もうと考え、始めたのがWealthParkです。

――不動産はなぜネットとの親和性が薄いのでしょう。

 ネット上で扱われにくいものの1つに不動産やアートなどの資産があります。なぜ扱われにくいのかというと、期中管理が必要とされるから。個社ごとに固有に管理する仕組みがアナログに整っているため、今までデジタルが入り込む余地がなかったんです。

 よって、PCやスマートフォンが普及していく中でも、不動産のオーナーは収支の管理を紙でしなければならなかったり、今どの物件がどれだけ利益を出しているのかがすぐに分からなかったりと、不便なことが多かったんです。そこで、まずはこの部分からデジタル化していくというチャレンジになっています。

 もちろん、デジタル化されてこなかったのには理由がありますし、「デジタル管理できるようになる日はこない」と言われることも度々あるのですが、不動産もアートも資産と呼ばれるものは、オーナーに持つ喜びを与え、日々どれだけ収益を生み、売却時に「有形無形のリターン」が残るかが大事。これをしっかりとしたデジタルの仕組みにすることで、資産運用の裾野を広げるサポートができると思っています。

――オーナーアプリとともに、不動産管理会社向けのプラットフォーム「WealthParkビジネス」も展開されています。不動産業界にこの仕組みをどうやって浸透させていったのでしょうか。

 とにかく不動産管理会社の方やオーナーの方とお話しをさせていただいて、1つ1つご説明させていただきました。地道に着実に一つずつ積み上げてきたというのが正直なところですね。投資やテクノロジー企業と聞くと、華やかな仕事をイメージされる方もいらっしゃると思いますが、私たちはまさにその逆(笑)。地道な努力が今に結びついていると思います。

 今までなかったサービスですから、まず内容を理解していただくことが難しい。不動産管理会社の方からすれば、今までやっていた業務のやり方を変えるのは、切り替え時にものすごく負担がかかりますし、新しいやり方に慣れるまでにも時間がかかる。一方、オーナーの方は、スマートフォン自体を使っていないという方もいらっしゃいますし、2つの法人で物件を管理している場合はどうすればいいのかなど、使用ケースもさまざまです。そういったハードルを1つずつ、管理会社やオーナーの方と一緒に考えながら課題の解消に取り組んでいます。

 WealthParkビジネスの事業を開始する時、足の長い取り組みになるだろうと覚悟はしていたのですが、予想以上に大変ですし、想定以上に時間もかかっています。現在、ご利用いただいている不動産管理会社は約80社、オーナーの会員数は2万人弱程度なのですが、当初は1年半くらいでこのくらい集められるだろうと考えていました。現在4年目なので、3倍近く時間がかかっている計算ですね。

資産運用をデジタル化するという“土管”を作る

――かなり時間をかけていらっしゃいますが、やめようと思ったことは。

 毎日やめようと思うくらい大変なんです(笑)。一方で、管理会社の方や不動産投資家の皆さんと一緒に、試行錯誤繰り返しながら、ここまで何年もかけてあるべき世界と仕組み作りに取り組んでこともあり、何としてもやり遂げたい、というのが1つ。もう1つは、電気やガスといったある意味、公共サービスのようなビジネスモデルなので、やめることは視野には入らず、何とか這いつくばってでも続けていく、ということかと思ってます。

 ただ、今アナログでやっているものがデジタルに変われば、資産運用の根幹に関わる仕組みになるので、その土管が通れば、世界が大きく変わる。その土管を使って何を伝え、何を変えていくのか。それが今後の楽しみですね。

――このタイミングで25億円の資金調達を実施し、WealthParkオルタナティブの提供を開始された理由は。

 今回の資金調達は、米ニューヨークにいるCFOの白崎純平がまとめたんです。しかも一度も東京に来ることなく。いろいろと難しい局面はあったのですが、場所に制限されず事業にチャレンジできるというWealthParkの強みを体現してくれた素晴らしいチャレンジになりました。資金繰りを含むCFO業務は、リモート運用だと想像を絶するほど大変なのですが、チームのサポートも受けながら、9億700万円を調達したシリーズBラウンドに続き、今回の資金調達が実施でき、累計調達額は計43億9800万円になりました。

 また、資金調達を通じた新たなチャレンジとして、「不動産管理会社様のEmpowerment」をテーマに、WealthParkオルタナティブをリリースしました。

不動産管理会社向け小口化事業のDXプラットフォーム「WealthPark Alternative」
不動産管理会社向け小口化事業のDXプラットフォーム「WealthPark Alternative」

 不動産投資というと、富裕層だけのものと捉えられがちですが、1億円でも1万円でも投資であることに変わりはありません。投資をより多くの人がチャレンジできる環境を整えたいと思っています。

 これは不動産に限らず、アートやワインも同様です。私たちは不動産領域からスタートしましたが、当初から、資産運用全般を見据えた事業をやりたいという思いがありました。資産運用の裾野を広げて、投資にチャレンジする人を増やす。そんな世界をつくりたいと思っています。この思いは創業当時から全くブレることなく取り組んでいます。

――時間をかけながら、資産運用の世界をデジタルで変える土壌が整ってきました。これからチャレンジしたいことはありますか。

 まずは何より人材の確保です。WealthParkは「オルタナティブ」「投資」などの言葉が事業キーワードとして飛び交う中で、テクノロジー企業として事業を拡大していくことが必要であることから、会社の実態が見えづらく「何の会社かわからない」と思われてしまうことが多いんです。

 会社自体は、ニューヨークのほか、香港、上海、台北にもオフィスを構えていますし、外国籍などあらゆるバックグラウンドを持っている人が勤務していますから、とてもユニークな職場でありチームです。そのため、ユニークな経験を積むことができる場所になってきていると思います。新卒の採用も2021年初めて実施するのですが、やりたい世界やチャレンジを見据える上では、まずは志を共にしてチャレンジをしていける仲間を募っていくことが大切な状況です。

 会社としては、今のプラットフォーム利用者数を、まずは国内で5倍、10倍、そして30倍と伸ばしていかなければいけないと思っています。そこまで参加者が増えると、例えば高額で買えなかったアート作品を複数人で所有したり、おいしいスコッチウイスキーの蒸留所を投資家同士が結束して作ったりと、今までできなかった楽しみが広がる。そういう投資の世界を広げていきたいと思っています。

 お金がないからできない、言葉がわからないからできないといった壁を、WealthParkというプラットフォームを通じて解消をしていきたいと思っています。

――時間をかけ、多くの壁を乗り越えながらここまでやってこられた理由はなんですか。

 毎日、寝る時に、反省も多いのですが、「今日もやるべきことはやりきったな」、と思って寝るようにしているんですけど、この1日の終わりに得られる充実感が支えだったのかもしれないです。少しでも手を抜くとそれは全くと言っていいほど得られなくて、進みが遅くても、今日やるべきことその瞬間にベストを尽くすことが、やっぱり大切なんだなって感じます。

――これから起業を考える人も読者に多いのですが、何かメッセージはありますか。

 WealthPark自体は、想定した以上にハードな事業環境であり難しいテーマなのですが、起業に際して大切だと思うことは、起業家が自分を信じることだと思います。どのテーマでもチャレンジでも、途中で心が折れそうになることは、もちろんあると思うんです。だから最後は自分のことを信じて、自分の直感に従うことが大切だなと思っています。事業に取り組むに際して、やっぱり起業家は自分との戦いだと思うんです。

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