「天気の子」を盛り上げたウェブPRの舞台裏--勝負のタイミングは「君の名は。」の再放送 - (page 2)

提供クレジットの入れ替わりは「みんな楽しんでやった」

――TwitterをはじめとするSNSが生まれ、昔とは映画のプロモーションの方法も変わってきています。

 僕が、15年以上前に劇場で働いていた時とは、上映形態もシネコンが中心となり変わりましたね。同じキャパの映画館で、同じ上映時刻で流れることが、昔は基本にありましたから。

 それに加えて、ウェブの口コミやレビューサイトで、すごく見たいと思っていた映画が2.5点みたいな中途半端な点数をつけられていたら、自分も皆さんと同じように「えーっ!」って思って見るのをためらいたくなるのが、正直な気持ちだと思います。だから、映画は最初の盛り上がりを特に大事にしなきゃいけない。それはどの作品にも共通すると思うんですけど、こと「天気の子」に関しては1900万人に見て頂いた「君の名は。」の次回作なので、最初の盛り上がりも大事にしながら、その先をどうしていこうか、というところでも頭を悩ませました。

 先ほどお話ししたように、情報を制限することを決めたわけですけど、それで逆に自分の首を絞めているところもある。盛り上げようにも出せる情報がないので(笑)。その中でどうしようか、と。新海監督の知名度はすでに高いですから、監督の名前を出すよりも、前作から3年の間に醸成されているものがあると思うので、情報を流すのではなく皆さんに拾ってもらえるようにするにはどうしたらいいか、と考えました。

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――結果としてファンに飢餓感みたいなものを与えたことでより熱量が上がった形でしょうか。

 まだ作品が完成していないので、出せるものがなかったっていうのは正直あるんですけど(笑)、そうした方が公開までの流れとしてはいいのではないかと。一方で、「天気の子」の公開前に「君の名は。」の2回目の地上波オンエアをすることが以前から決まっていました。これをウェブでどう生かすか、というのがプロモーションの軸にあったんです。「天気の子」のことは伝えられないけれど、「君の名は。」は丸々フル尺で放映しますので。

――6月30日にテレビ朝日で放映したときは、Twitterのトレンドも「君の名は。」一色でしたね。

 6月30日のテレビ放映の前段の話として、2018年1月3日の地上波初放映があります。そのときいくつかの試みをしていて、Z会さんが「クロスロード」という新海監督の短編アニメーションを流したり、ソフトバンクさんも白戸家のメンバーが入れ替わる内容の特別編CMを流していたりして、それに対する視聴者の反応が良かったんですね。

 Twitterさんから放映時の上位のつぶやきを教えていただいたら、「クロスロード」や「ソフトバンク」が上位にあって、オンエアでスポンサーさんを巻き込むことで結果が出ることがわかった。じゃあ「天気の子」ではどうするのかと。僕が「天気の子」の宣伝に2018年10月末頃から本格的に参加したときには、企業さんとのタイアップの話は結構進んでいた印象でした。最終的な映画本編に「2分が美味いんだよ知らないの?」というカップヌードルを食べるシーンもあるくらいですから。

 映画本編も制作の真っ最中に、新しい映像を使ったCMを制作するわけですから、相当大変だったと思いますが、結果的にはソフトバンク、ミサワホーム、日清食品、サントリー、ロッテ、バイトルのディップがスペシャルパートナーとして「天気の子」の映像や、新海監督が新たに制作した映像を組み合わせた形での特別なCMを流すことができました。

――スペシャルパートナーのCMでは、わざわざ新海監督がその企業だけの特別なアニメーションを用意したわけですが、そこまで手間をかけるのはなかなかないことだと思います。企業ロゴが入れ替わる提供クレジットも大きな話題を呼びました。

 ロゴの入れ替わり、あれはすごかったですよね。でも、これはそんなに前から決まっていたわけではなく、2019年の春先あたりでも「できたらいいなあ」程度の全然形になっていないレベルだったように思います。「君の名は。」のオンエア日も明確に決まっていないですし、CM情報の解禁タイミングも決まっていない。それらが定まってからこその「入れ替わり」だと思うので。できたら面白いよね、っていうのはあったと思うんですけど……最終的にみんなのいろいろな考えが、6月30日にうまく収束して良かったなと思います。

 たぶん皆、楽しんでやってたんだと思うんです。「こんなことできたらいいな」っていうのと、「この作品じゃなきゃできないんじゃないかな」っていう思いを、おそらくいろいろな人が抱えていたんじゃないでしょうか。

 宣伝部の立場になると、どうにかして前作を超えたい、前回の宣伝を超えたいという欲が出てくるのと同じように、企業ロゴをいじるなんて本来考えられないことですけど、2018年1月の初回放映の盛り上がりを受けての6月30日で、今回も盛り上げたいとみんな思っているからこそ、CMの解禁タイミングを合わせることができた。それぞれの立場の人たちが頑張って成し遂げた結果ですが、でも、もっと頑張ればもっと盛り上がるのでは?だったら、入れ替わった方が面白いじゃないですか、という話になっていくわけです(笑)。

 その楽しんでいる気持ちでスクラムを組めたので、各企業アカウントのツイート文の中にも「入れ替わってる」という宣伝としてTwitter上で盛り上げたいワードを、使ってもらうことができました。

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日清食品は「天気の子」とコラボした「新海誠ヌードル」を開発。劇場で配布した

――テレビでの放映と同時にAbemaTV上では、「君の名は。」で主人公の立花瀧役を演じた神木隆之介さんと、宮水三葉を演じた上白石萌音さんが出演する「君の名は。ノチ天気の子実況特番」という生配信の連動企画もありました。

 本当にうまくピースがはまったと思います。6月30日のオンエア時に、生配信番組で神木隆之介さんと上白石萌音さんが宣伝に協力していただけることになったので、さらに盛り上げなきゃいけない。そういう思いから、ネット配信をどういう形でやるのがいいのか、Twitterさんの知見を活用することにしました。

 もともとTwitterさんとAbemaTVさんがパートナーシップを結んでいて、AbemaTVさんの番組をTwitter上で配信できる機能を提供していましたし、AbemaTVさんはテレビ朝日さんとも資本関係があるので連携がしやすい。突貫工事だったとはいえ、「君の名は。」のオンエアを盛り上げて「天気の子」につなげたい、という気持ちが各社で共有できていました。

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