上原氏は続いて、食品メーカーのニッスイにおける実際の商品開発の事例を紹介した。ニッスイではこれから伸びる市場にリソースを投入しようという観点から事業を考えていたが、ロジックで考えても他社と同じアイデアや結論しか出ない。そこで一歩踏み込んだアプローチが必要と考え、デザイン志向を商品のアイデア創出に使うことにたどり着いたという。
そこで「プロジェクト型研修」「実務での活用」「社外との協働」という3つの取り組みを約2年間にわたって進めている。
ニッスイとともに商品を開発するに当たって、その企業の原点は何だったのか。栄養を採りづらい時代に魚を捕り、国民にタンパク質を提供することだったと上原氏は語る。
しかし今の時代はどうなのか。「約4カ月にわたって『火星に持って行く食事』『オリンピックで食べる食事』などを検討し、『産後の母親』は栄養が届いていないのではないかという問題提起にたどり着いた」(上原氏)という。
「産後の母親」というユーザーを深く理解することに務めたところ、産前に比べて母親に対する周りのケアが薄くなるということに気付いた。産前は赤ちゃんを育てている母親をケアするが、生んだら赤ちゃんを第一に考えてしまい、無意識に母親以外にケアの方向が向いてしまうというのだ。
「水を飲んでください、体を温めてくださいと言われても、心の余裕がない、食事の時間がないなど、実現できないストレスもあるという調査結果も出た」(上原氏)
駅前でさまざまな人に声をかけてインタビューするなどフィールドワークも行ったことで、食事の時間も調理の時間もなく、空き時間を作ることも難しく、やるべきことは並行作業であることが分かった。
そこで求められるのは「調理不要、こぼさずに済む、洗わないで済む」という3点だと分かった。さらにシステム的な観点で子育ての動線からはみ出す使い方もダメで、電子レンジを使うものという結論に至った。
そこでプロトタイプを作り、慶應義塾大学SDMの学生はフィールドワーク調査、ニッスイでは授乳中のお母さんに日記を書いてもらい、外部への調査も依頼した。
フィードバックでは「片手にあけられるのがうれしいとか、自分だけでなく子供にも食べさせたいとか肯定的な評価が多い一方で、温かいものなので恐怖心があるといった意見もあった」という。
フィールドワークでは約91%が「非常にいい」という評価をし、約9%が「どちらでもいい」という評価をした。また、外部機関の調査によると、コンセプト調査では約90%が「利用したい」と答えた。
「コンセプトベースで伝わるかという取り組みで、ニーズに対して訴求するかより、何を伝えたいかが伝わることが重要だ。コンセプトとしては食べるときの具の感じが良く、パッケージを含めての使用感も良かった。温め方も評価された」(上原氏)
しかし、試食テストでは「好き」と解凍したのが約71%にとどまった。
「具感も評価され、満腹感もあるし、廃棄のしやすさ、生活動線で面倒くさくない、非常時にも使えるなど評価は高かったが、よく考えるとギャップがあった。(コンセプトに比べて)数%以上離脱している」(上原氏)
コンセプト評価と試食の評価でギャップがある部分を洗い出し、「パッケージの使い勝手に手間が少々あったので、それをなくす調整と味の調整をした」と上原氏は語る。
こうしてできあがったのが「Suu Kamu Soup(すうかむすーぷ)」だ。
「抱っこしながらでも仕事中でもにおいを気にせずに飲めるストローで飲むスタイルのスープで、片手で飲めるようにこぼれづらい仕様になっている。ストローが太くて具をそのまま飲めるだけでなく、安心できるキャップが付いている。半年間そのまま保存でき、パッケージのフタを開けることなく電子レンジに入れて30秒で温められる」(上原氏)
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