要約サイト「フライヤー」が出版業界にもたらした本の新たな入り口

 本の要約サイト「flier(フライヤー)」は、代表取締役の大賀康史氏が立ち上げたスタートアップだ。2013年の設立以来、ビジネス書の要約サイトとして出版社、著者との関係を築き、書店周りを実施。地道にキャリアを積み上げてきた。

 「元々は理系出身。ビジネス書も学生時代はほとんど読んだことなく、本当の意味での読書家とは違う」と自ら表する大賀氏に、フライヤーを立ち上げたきっかけから、ステークホルダーとの良好な関係の築き方までを聞いた。

フライヤー 代表取締役の大賀康史氏
フライヤー 代表取締役の大賀康史氏

理想の要約サイトを作るため経営コンサルタント会社をわずか7日間で退職

――フライヤーを立ち上げたきっかけは。

 学生時代、コンサルタントになりたいと思って就職活動をしていました。コンサルタントは短期にプロジェクトが変わり、自分の知的好奇心を満たせると考えたからです。その時にコンサルタントを志す就活生のイベントに出席したのですが、周りの人が何を話しているのか全くわからなかった。要はビジネス用語、コンサル用語が飛び交っていて、自分にはまだその知識がなかったんですね。

 そこで、ビジネス書を毎日1冊ずつ読みました。全部で約100冊くらいありましたが、半分くらい読み終えた頃に、周りの人と会話ができるようになり、面接などでもきちんとした受け答えができるようになっていました。この経験から、本はビジネスキャリアを築くベースとして有効なツールだと強く感じました。

 ただ、読むのは大変なんですね。コンサルタントをやっていると、とにかく数多くの本を読むのですが、読むスピードが追いつかない。その時に大学時代の論文には要約がついていて、それを読むことでその論文が自分が求めている内容なのか、研究領域が近いのか判断する基準になっていたなと。要約があれば、読むべきビジネス書を選ぶ基準になるのではないかと考えました。

――もともと起業しようと考えられていた?

 それが全く、考えたことがなくて(笑)。たまたま同僚と集まって話していた時に、通勤時間などのすき間時間を活用して本の概要がわかるようなサービスがあったら素晴らしいねと話していたんです。で、ちょっと調べてみようかと。そうしたら自分がほしいと思うサービスが見当たらず、だったら、理想のものを作ってしまおうと。

 前職がコンサルタントなので、綿密な計画を立てて起業したと思われがちなのですが、計画性は全くなく、その思い付きから1週間で会社をやめて起業しました。その話しをしていたのが、4月中旬の火曜日だったのですが、木曜日に家族に相談、金曜日に上司に報告して、次に月曜日には退職となりました。

――かなりのスピード感ですね。

 フライヤーは当時の同僚と3人で立ち上げましたが、当初はメンバーの自宅で、ウェブサイトを作ったり、要約のサンプルを書いたりするところからはじめました。それと同時に取り組んだのが、ベンチャー企業のスタートアップを支援してくれるシードアクセラレータープログラムに応募すること。孫泰蔵氏が手掛ける「MOVIDA JAPAN」のピッチイベントに参加しました。

1冊の書籍を10分で紹介する、要約は読書体験の1つ

――現在の要約スタイルはこの当時作られたものですか。

 私自身、書籍の編集をしていたわけでもありませんし、日本語の専門家でもないので、海外の事例などを調べながら要約スタイルを作り上げていきました。フライヤーにおける要約の特徴は、1冊の書籍を10分間で読めるようにまとめることです。10分といっても貴重な読書時間ですから、きちんとした読み物として提供したいと考えています。本を読んでいるような読書体験を要約でも提供する、これがポリシーです。

――資金調達をしながら、要約スタイルを構築しながらの起業はかなり大変だったのでは。

 一番大変だったのは、ステークホルダーの方たちとの関係づくりですね。フライヤーは本の要約をウェブサイトに掲載するにあたり、出版社、著者の方に必ず許諾をとっています。出版社の方から1冊目の許諾を得るまでが本当に大変でした。

 私たちは、本に触れる機会を増やし、読むチャンスを広げるために要約サイトを立ち上げました。このサービスが世の中に広まった暁には、紹介される書籍が注目され、実際に本を買われる人が増えると信じています。しかし、スタートした時点では会員もいませんし、インセンティブがまったくない。「他社がはじめたらうちも考える」と言われることが多かったですね。

 そんな時に、フォレスト出版の太田社長(代表取締役の太田宏氏)に直接お会いできる機会があって、フライヤーの説明をしたところ、サービスの内容に共感していただき、はじめて許諾をいただけました。このサービスは出版業界にとっていいことだからと応援してくださって、ほかの出版社の方も紹介していただき、そこから2社、3社と増やすことができました。第1号の要約は私自身が書いています。

本の要約サイト「flier(フライヤー)」
本の要約サイト「flier(フライヤー)」

――その後、会員数がぐっと伸びる瞬間というのがあったのでしょうか。

 それがなくて(笑)、会員数も急には伸びませんし、お試しで使っていただいたり、イベントを繰り返しているうちに、徐々に伸びてきたという印象です。一撃でサービスが伸びる起爆剤のようなものはなくて、一番効果的なのはサービス自体を磨き続けること。ウェブサービスからスタートして、モバイル版を作り、見やすくして、その次にアプリをリリース。アプリの使い勝手を高めると、そうしたサービスの改良が基本です。

 コンテンツとなる要約は信頼あるものを作り続けて、クオリティを改善し続ける。それに加えて、ご協力いただいている出版社の書籍を書店でフェア展開するなど、サービスの理解を深めてもらう。そうしたことの繰り返しで、ここ1~2年は会員が伸び始めています。やっていることは至極地道なこと。でもその繰り返しによって伸びていくと思っています。

――出版社や書店の方との関係はどうやって築いていったのですか。

 フライヤーで要約を見せてしまうことがデメリットと感じられるのかもしれませんが、それは違います。実際、雑誌記事として公開しているものを書籍にまとめることでヒットに結びついた例もありますし、内容が公開されることによって、広く知られる効果があります。本を売るために必要なことの1つは本を知ってもらうことです。

 フライヤーであれば、それを端的に高いクオリティの要約として見せられます。ただこれはやってみないとわかりませんから、始めた当初は出版社の方はどう思うだろうと考えていたことも事実です。

 一方、書店の方とは積極的にフェアを実施しています。ビジネス書のコーナー展示で、売り場を華やかに見せたり、ネットでの評判を反映させたりするにはどうしたらいいかは、多くの書店で悩んでいることなんですね。そんな時に、フライヤーで読まれているランキングを活用してもらい、コーナー展開をしていただいています。そうすることで、売り損じていたものがわかったり、再度注目を集める書籍があったりと、本の発掘につながります。未来屋書店と組ませていただいている例で言うと、売り場の販売がフェア後に40%アップしたというデータも出ています。

 この結果にはビジネス書だからというジャンルの選定も関係していると思います。現在、コミックなどは半分くらいが電子書籍に移行していますが、ビジネス書は紙の本の売上がまだ強いですし、試し読みをしてから近所の書店で購入する導線は至極自然な流れだと思っています。

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