「産業づくりは映画づくりのようなもの」--SUNDRED CEO、留目真伸氏ロングインタビュー

 2018年5月、レノボ・ジャパン、NECパーソナルコンピュータの社長としてグループを率いていた留目真伸氏の辞任は業界関係者を少なからず驚かせた。

 PC業界を再編する事業統合の立役者であり、その経営手腕が業界の内外から注目されていたからだ。

 その留目氏が大手化粧品会社のCSOを経て、7月から新会社SUNDREDのCEOに就任。「共創により100個の新産業を生み出す」ことを目標に掲げ、一般社団法人Japan Innovation Networkと共同で「新産業共創スタジオ」なる取り組みをスタートさせた。

 さらには8月1日付でVAIOの新規事業強化を目的とし、Chief Innovation Officer(CINO)の就任を発表している。新産業を生み出す取り組みとは、一体どのようなものなのか。またVAIOのCINO就任とSUNDREDでの取り組みの関係について留目氏に聞いた。

 SUNDRED CEOの留目真伸氏
SUNDRED CEOの留目真伸氏

映画スタジオをイメージして名付けた「新産業共創スタジオ」

――新たに立ち上げた「新産業共創スタジオ」の取り組みについて教えてください。

 スタジオというのは場所のことではなくて、映画スタジオをイメージして名付けました。映画づくりのように産業づくりをしようというコンセプトです。まずテーマ、フォーカスする成長領域を決めてスクリプトを創る。産業としてスケールするためにどのようになエコシステムを構築すべきか、そのデザインを描くわけですね。

 次にプロデューサーや映画監督(プロジェクト・マネージャー)をはじめ、必要な役者(パートナー企業)や人材を集める。一方で、その成長領域を一緒にやりたいと言ってくださるスポンサーを募って、エコシステムの中核となる事業体に人やお金、リソースを集中して成長を支援していきます。

 必要に応じてさまざまなパートナー企業や人に参加してもらって産業を創り、発展させていくプロセスはまさに映画作りに近い。SUNDREDではその最初のテーマ設定やエコシステムのデザイン、プロデューサーを見つけてアサインしていくといったことがやれればと思っています。

――新しい産業を創出すると聞くとかなりスケールが大きく感じますが、いわゆるインキュベーションとはどう違うのでしょうか。

 単にスタートアップの事業を応援するとか、スタートアップと大企業をマッチングするといったこれまでのようなやり方では、事業として成功しても新しい産業としてスケールするところまでいきません。その根本原因は、リソースやナレッジの集約が進まないことにあると思っています。

 僕らのやりたいことはすごくシンプルに言えば、課題設定、テーマ設定をして、そこへ人を集めて、新しい価値創造を行っていくというただこれだけなのですが、それを産業と呼べるものへスケールするためには、グランドデザインを描くことが重要です。スタートアップを立ち上げるにしても、大企業の新規事業をやるにしても、結局その産業の将来像が描けていないと大きくなれません。そのためのプロセス作りからやっていこうということです。

 SUNDREDの全体像
SUNDREDの全体像

新たな産業にスケールするような新規事業が生まれづらい日本

――なぜこのような取り組みが必要だと考え、ご自身が率先してそれに携わろうと思われたのですか?

 僕自身、もともと社会にインパクトの残せる仕事がしたいという思いがありました。新卒で総合商社に就職して海外で発電プラントに携わっていたときから、戦略コンサルティングやマーケティング、大企業のマネジメントとさまざまな経験を経る中でも、その思いはずっと変わっていません。

 大企業の中でいろいろと挑戦してみて感じたのは、大企業発の新規事業を産業化するほどのパワーを持ってやりきるのは、かなり難しいということでした。

 たとえばレノボ・ジャパンの社長時代に僕がよく言っていたのは、PCだけでなくパーソナルコンピューティング全体を考えなければいけないということ。そのためにはもっとダイナミックに、いろいろな分野に挑戦していく必要がありましたが、それは簡単ではありませんでした。

 一例を挙げると、レノボでITを活用した海の家を3年ほど運営したのですが、あれができたのも僕が社長というポジションにいたから。そうでなければ、大企業の中で今までのバリューチェーンやオぺレーションがまったく違うことをやるのは、すごく難しいと思ったのです。

 一方で、その海の家を手がけたあたりから、僕自身にもスタートアップとのコネクションがたくさんできてきた。社員も会社の中に閉じこもっているのではなく外の世界になるべく多く触れて欲しいということから会社で副業を解禁したこともあって、自分自身も副業としてエンジェル投資家としての活動を始めました。いろいろなスタートアップでアドバイザーをしたり、取締役をしたりする中でわかってきたのは、日本のスタートアップの置かれている状況も相当厳しいということでした。

レノボ時代に留目氏が手掛けた海の家「Lenovo House at Quick Silver」
レノボ時代に留目氏が手掛けた海の家「Lenovo House at Quick Silver」

 たとえば米国のような流動性が高い社会だと、成長領域でスタートアップが立ち上がると、みんなそこに乗りたがります。お金もそうですが、お金以上にいろんなところから人が集まってくる。成長領域に一気にリソースが集約されて、新しい産業としてものすごいスピードでスケールしていくのです。

 けれど日本には残念ながらそんなダイナミックな動きはなくて、ベンチャーキャピタルなどお金を出すところはあっても、肝心の人が集まってこない。既存のビジネスのバリューチェーンを一番よくわかっている人や、リレーションとかコネクションを持っている人はやはり大企業に多いのですが、そういう人たちが動いて来ないのです。

 日本の大企業には優秀な人材が集まっていますし、予算は厳しいながらも各社新規事業にも取り組んでいる。成長領域だってちゃんとわかっていて、いろいろ唾は付けているのだけれど、残念ながらその先になかなか広がらない。

 一方でスタートアップも、大手企業が唾を付けているからその領域に手を出しづらくなっていたり、既存のオペレーションをサポートするような領域で、隙間的にやっていたりするものが多い。つまり日本では大企業からもスタートアップからも、新たな産業にスケールするような新規事業が生まれづらい状況になってしまっています。

 米国ではもう何億ドルも集めているようなスタートアップの領域でも、日本では大企業100社がそれぞれ5千万円の予算でやっているとか、そういうイメージです。つまり、さっきもお話ししたようにリソースが集約できていないわけですね。

 これが日本のGDPが成長しない理由だと気づき、変えていけるのは誰だろうと考えたときに、大手企業の中で経営者として、また推進者として新規事業で苦労して、かつスタートアップもサポートしてきた自分がやるしかないと思ったのです。これこそ、社会にインパクトが残せる仕事なのではないかと。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]