日本の“得意技”で米国住宅を便利でコンパクトに--シリコンバレー発「HOMMA」の挑戦

日本の得意技である住設が米国住宅にイノベーションを起こす

 システムキッチンやユニットバス、日本では当たり前の住宅設備が米国の住宅事情を変えようとしている。手がけるのは2016年に米国シリコンバレーで起業したHOMMA(ホンマ)。中古流通が8割と言われる米国の住宅市場に、新築、建売のスマートホーム導入を目論む。販売形態、広さ、ニーズと日本とは大きく異なる米国の住宅市場に、正確、緻密、使い勝手など日本の得意技を凝縮した住設がどんなイノベーションをもたらすのか、HOMMA CEOの本間毅氏に聞いた。

HOMMA CEOの本間毅氏
HOMMA CEOの本間毅氏

 HOMMAを率いる本間氏は、ソニーや楽天で新規事業開発などを担当。2016年に起業するまでは、楽天でデジタルコンテンツのグローバル事業戦略を担ってきた。本拠地を置くシリコンバレーは、フェイスブックやテスラなど、数多くのスタートアップが起業した場所。電話がスマートフォンに代わり、自動車が電気自動車に変化する中「住宅にはなぜイノベーションが起きていないのか」と考えたのが、起業のきっかけだったという。

 父方の祖父が建築家で、母方の祖父が建築資材の販売会社を経営していたという本間氏は「身内の多くが建築関係」という環境で育ち、日本の住宅建築はとても身近なものだったという。「米国の住宅を変えるのは、日本の建築、住宅事情を理解し、米国の現状を知る自分にしかできないことだと思った」と設立当時を振り返る。

 流通の約8割を中古が占める米国の住宅は広くて古い一戸建てが主流。使用頻度の低いゲストルームがあったり、使われていないフォーマルダイニングを設けていたりと、現在の生活にはそぐわない間取りになっていることも多いという。

 「米国のホームビルダーは100年間同じ工法で家を建ててきた。スマートロックやホームセキュリティといったスマートホーム化も進んでいるが、それは家を購入したユーザーが導入すべきものという捉え方。手離れの悪い機器の導入を敬遠するホームビルダーが大半。設計すら外注で家を売る部分にだけ特化している。これではイノベーションが起きないのもうなずける」というのが現状だ。

 建築方法も日本とは大きく異なる。狭い場所に効率的住宅設備を配置するため、日本ではシステムキッチンやユニットバスが進化。工場で一括生産されるため、高い品質を保持でき、使い勝手も考えられている。しかし米国では、家ごとにキッチンやバスルームを作るケースが一般的。現地で組み立て、キッチンの天板などもカスタムメイドで作るため、キッチンだけで工事に2~3カ月かかることもある。

 「キッチンやバスルームをオーダーメイドで作る米国の住宅建築は効率が悪い。その上、作る人によってクオリティが一定しておらず仕上がりはまちまち。手がかかる上に現場は慢性的な人手不足に陥っている。プロジェクト期間は日本が1年だとすると米国では2~3年はかかる。やり方が古いこともあるが、役所の手続きにもかなり手間と時間がかかる。手間暇を考えると、新築を諦める人は多い」と本間氏は米国の住宅事情を話す。

 工事期間が長く、人手が少ない米国の住宅建設市場に対し、HOMMAが提案するのは、システムキッチンやユニットバスといった日本ならではの住宅設備の考え方を導入。これらの考え方を活用することで、将来的に工期を短縮し、少ない人手で均一したクオリティを実現することが目的だ。

テクノロジーに強いミレニアル世代に都市型プレミアムコンパクト住宅を提供する

 一方で、米国市場における住設需要の伸びにも期待する。「日本と米国の新築着工件数は逆転しており、市場が縮小している日本に比べ、中古流通が主とされる米国市場の方が大きい。米国では今でも家が足りない状況」と米国市場を有望視する。

 日本メーカーの作る住設を採用し、米国で建売住宅を作り、販売するのがHOMMAのビジネスモデル。すでに実験住宅・ラボとして機能する「HOMMA ZERO」が完成し、12月にはプロトタイプ「HOMMA ONE」の住宅完成が控える。

「HOMMA ONE」
「HOMMA ONE」

 「ターゲットは、先進的なテクノロジーを好み、デザインにも敏感なミレニアル世代。そこに対し、都心に近く、便利で買いやすい家を提供する」とターゲット像を明確に描く。

 買いやすさを追求するため、都心の中央部よりも少し離れた立地、サイズも100平方メートル程度からと既存の米国住宅に比べるとコンパクトな建売住宅を目指す。「都市型プレミアムコンパクト住宅がコンセプト。便利に暮らせて、かつ面積が小さいため価格を抑えられる。小さくても、スペース効率の良い日本の住設を取り入れることで、空間を広く使える。収納も工夫されているため、使いやすい」と、広さを重視した米国の住宅にはなかった新しい価値を提供する。

 加えてスマートホーム化も見据える。スマートロックやセキュリティカメラ、コネクテッド照明スイッチなど、ハードウェアは既存のものを使うが、それらを一括して操作できるミドルウェアのプラットフォームの開発をHOMMAが担う。

 「ハードウェアは既存のものを利用するが、そのままではデバイスごとに異なるアプリを立ち上げたり、セットアップした人しか使えないなど、快適な生活環境に全く近づいていない。そこで我々が機器をセンサーや多種機器を連動させ、自宅内にあるスマート機器を誰でも体験できる環境を整える。それらはすべてビルトインで提供し、購入者は入居後すぐにスマートホームを使えるようになる」と、住宅建築と同時にサービスの開発も進める。

 すでに、2020年に10棟規模の新築建売住宅「HOMMA X(ten)」、2022年には100棟規模の「HOMMA 100」の建設を計画。「私たちがやりたいのは0から1を作ること、その次は1から10、さらに10から100を作りたい。100軒家を作れば、それが街になる。将来的にはスマートタウンを作ることを目指す。そのスマートタウンには自動運転によるライドシェアが当たり前になり、自宅からガレージはなくなっているかもしれないし、宅配便はすべてドローンで届くかもしれない。自然とテクノロジーが共生する未来の街をつくりたい」と将来像を描く。

マスタープラン
マスタープラン

日本住設メーカーの入り口になりたい

 街づくりまで見据えたHOMMAは、6月に総額約2億5000万円のさらなる資金調達を実施した。ベンチャーキャピタルが主体となっていた前回に比べ、DCMホールディングス、サンワカンパニー、野原ホールディングス、吉銘など、日本の住宅関連事業会社からの出資を受けていることが特徴で「関係を構築する意味合いが強い」とシナジー効果にも期待を寄せる。

 「米国の住宅建築を変えるのが私たちの目的。まだこの市場にリーチできていない日本の住設メーカーの入り口になっていきたい。一方で、私たちが開発したスマートホーム向けサービスを日本向けにして導入するなど、そうした流れも作っていきたい」と日米で異なるビジネスモデルを展開する計画だ。

 現在のハードルは「100年も変わらぬ環境で暮らしてきた米国の人たちに、もっと便利で暮らしやすい住宅があることを理解してもらうこと」と、住宅に対する固定概念からの脱却に取り組む。そのために必要なのが実験住宅・ラボHOMMA ZEROだ。本間氏は「とにかく、見て、体験してもらうことが大切。そのために実験住宅を作り、多くの人に見て、触って、体験してもらえる場所をまず作った。米国の人たちにHOMMAの住宅が理解されて初めて、私たちのビジネスは成功したと言えると思う」と話した。

8月28日に開催するCNET Japan Conference「不動産テックカンファレンス2019不動産業界の未来を輝かせる『テクノロジー・ビジネス・人材』の活かし方」にHOMMA VP of Finance & Strategic Partnershipの香田譲二氏が登壇。HOMMAの最新動向を話します。

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