夏野剛氏は、なぜ「IT専門校」を作るのか--バンタンテックフォードアカデミー設立の狙い

 ドワンゴの子会社であるバンタンは、IT専門校「バンタンテックフォードアカデミー」を2020年4月に開校する。入学資格は専門部が満18歳以上、高等部が15~18歳であること。募集定員は専門部が70名、高等部が60名。

 同校の特徴は、プログラミングやウェブデザインだけでなく、企業や地方自治体が実際に抱えている課題をヒアリングし、IT技術を活用して解決を目指す「プロジェクト型授業」を毎日実施すること。学生がチームを組み、企画・提案・開発までを全て行うことで実務経験を積み、コミュニケーション力や企画力、マーケティング力を身に付けることで、即戦力となる人材を育成するという。

バンタンテックフォードアカデミーの責任者であるドワンゴ代表取締役社長の夏野剛氏
バンタンテックフォードアカデミーの責任者であるドワンゴ代表取締役社長の夏野剛氏

 現在、開校準備に勤しんでいる、バンタンテックフォードアカデミー責任者でドワンゴ代表取締役社長の夏野剛氏に、プログラミング教育やプロジェクト型授業の重要性を始めとする、同校設立の狙いを聞いた。

“実践”で課題解決力と想像力を養う

——なぜ、IT専門校を作ることにしたのでしょうか。

 僕自身もさまざまな形でIT教育に携わっていますが、既存の教育機関でIT教育に取り組むと、スピードが遅くなります。たとえば、ついこの前までのプログラミング教育はコーディングがメインでしたが、今はアプリ開発に比重が置かれるようになりました。U-22プログラミング・コンテストの審査員も数年務めてきましたが、小学生がアプリを作って経済産業大臣賞を獲得する時代なんですよ。

 大昔はBASICやスクラッチからコーディングを学び、アプリ開発にたどり着きますが、今は開発ツールの充実とPCのパフォーマンスが向上したことで、コードの美しさに重要性はなくなりました。正しくプログラムが動作すれば、「コードに無駄があってもよい」という流れになりつつあります。

IT専門校「バンタンテックフォードアカデミー」
IT専門校「バンタンテックフォードアカデミー」

 つまり重要なのは「目的」。何のために目的を達成したいのか。何のためにコーディングするのかです。プログラミングという行動自体が、目的ではなくツールそのものなんですね。しかし、教育としてプログラミングを教える場合、きちんとした教材、きちんとしたカリキュラムと……最先端の仕事現場で行われているITから遅れた情報を提供しかねません。

 それでも小中学生であれば、(最先端ではない基本的なIT技術でも)無駄にはならないでしょう。しかし、専門学校レベルでは、すぐに社会に出て役立つ実践的なプログラミング能力が必要です。ですが、数年前の常識を教えている専門学校がほとんどです。これはマズいなと。

 また、学校法人では専任教員が3分の2必要といった多くの制約があり、リアルな現場で働いているエンジニアが教えることは現実的ではありません。そこでバンタンでIT専門校を作り上げ、ドワンゴのエンジニア約400名をプロ講師としてフルに使っていこうと。もちろんドワンゴに限らず、IT企業でコーディングしている方々や、第一線から退いたけれど指導に長けた方が教えるといった取り組みも試していきます。

——バンタンテックフォードアカデミーは、チームでのプロジェクト型授業が特徴と言えそうですが、具体的に何を教えるのでしょうか。

 実践です。実際に働いているエンジニアとリアルに触れあうことが大事だと思っています。先生というよりも現役エンジニアであるプロ講師からコーディング手法を学ぶことが、(他のIT系専門学校と比較して)一番の差別化でしょう。他の勉強でもそうですが、抽象的な概念だけ説明する授業は面白くありません。技術習得や技能の切り売りではなく、広い視点で課題を見つけ出し、ゴールを導き出す課題解決力や想像力を養うことが大事で、プロジェクト型学習はその極みですね。

 (夏野氏が教授として教鞭を執る)慶應義塾大学の授業でも、同じ仕組みで取り込んできました。たとえば、サマンサタバサジャパンリミテッドのIT戦略に関して、学生のワーキンググループで創業者の寺田さん(寺田和正氏)にプレゼンさせています。

「プロジェクト型学習」のイメージ
「プロジェクト型学習」のイメージ

 プログラミング教育で一番重要なのは、課題を見つけ出す「課題設定」、それを解決するための「課題解決力」です。課題の発見方法や理解するための仕組みを授業に取り込んでいきますが、その際に大事なのが当事者意識です。「自分が経営者なら、どのように課題解決するか」「自分が顧客なら何がほしいか」という想像力が働かない人は、こういう仕事に絶対向いていないです。もちろん個人として(想像力の)限界はありますので、チームで取り組む必要があるでしょう。他者がロールモデルとなり、仮にチームメンバーが5人であれば、発見できる数は5倍になります。

 参画企業との取り組みとしては、長崎県東彼杵郡・波佐見町役場とともに波佐見焼(陶器)の発注や販売をITで活性化するプロジェクトや、ホリプロデジタルエンターテインメントとともに、同社に所属するインフルエンサーのファン拡大を目的としたITツールの開発などを予定しています。このほかにも、キリンビバレッジやCookpadTVなど、多くの企業とバンタン生徒によるプロジェクトを進めます。ただし、これらのプロジェクトに費用は発生しません。お金が絡むと品質を求められるので、参画企業にもCSR(企業の社会的責任)としてご協力をいただきました。

——ドワンゴの親会社が運営する「N高」の知見などもバンタンテックフォードアカデミーに生かすのでしょうか。

 そうですね。(生放送授業・教材すべてをスマホに最適化したオールインワンアプリの)「N予備校」のシステムを使おうと考えています。もともと、N高のプログラミング授業も、ドワンゴの新入社員とエンジニアの養成プログラムをベースにしました。さらにドワンゴやIT企業の第一線で活躍しているエンジニアが教えることで、リアルタイムに即戦力を養成できます。

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