ALS患者自身の“声”で話す「ALS SAVE VOICE」プロジェクト--“脳波でラップ”も

 6月21日は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)啓発のための「世界ALSデー」。この日に向けて、世界中で難病であるALSの認知や理解を目的としたさまざまな関連イベントが行われた。

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 一般社団法人WITH ALSは6月20日、ALS啓発のためのイベント「THINK ALS」を都内のイベントスペースで開催するとともに、ALS患者やその周囲が前向きに病気に対峙していけるような「ALS SAVE VOICE」と「BRAIN RAPプロジェクト」という2つの取り組みを発表した。これらはともに、ALS当事者であるWITH ALS代表理事の武藤将胤氏の発案で展開するテクノロジーを活用したプロジェクトとなる。

意識や五感が正常のまま身体能力が失われていく

 ALSは、意識や五感は正常のまま徐々に身体が動かなくなり、やがて呼吸障害を引き起こすという難病だ。有効な治療法は確立されておらず、平均余命は3年から5年、現在年間約10万人に1人が発症しており、世界で約35万人、日本には約1万人の患者がいるという。身体能力のほかに発話能力も失っていき、最終的には、すべての筋肉活動が停止して、周囲との意思伝達ができなくなる「TLS(Totally Locked in State):完全な閉じ込め状態」に至ってしまう。

 武藤氏は、2013年26歳の時にALSを発症した。以降、ALS患者の置かれた現状を自らの体験を通じて世界中に伝え、認知・理解を拡大させることで治療方法や支援制度を向上させることを目的にWITH ALSを立ち上げ、クリエーターとしてコミュニケーションとコラボレーションを軸に、「エンターテインメント」「テクノロジー」「ヒューマンケア」の3領域で障がい者と健常者に垣根のない世界を実現するための活動をしている。

自分の声でコミュニケーションできる「ALS SAVE VOICE」

 
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 そのなかで今回発表したのは、ALS患者が病気の進行の過程で、自然に周囲とコミュニケーションを続けていけるようにするためのアプローチだ。1つめのALS SAVE VOICEは、ALS患者が“自分の声で”発話し続けられるサービス。オリィ研究所、東芝デジタルソリューションズにて開発され、東芝デジタルソリューションズの音声合成プラットフォーム「コエステーション」と、オリィ研究所の目を使った意思伝達装置「OriHime eye」を連携させている。

 ALSの病状が進行すると、いずれ目だけしか動かなくなってしまう。ALS SAVE VOICEは、まずALS患者が声を出すことができるうちにコエステーションのアプリを活用し、本人の声を読み込ませて声の特徴を学習させ、合成音声を作成しておく。そのうえで、発話や手足を動かせない状態の人が視線を使って文字の入力や読み上げができるOriHime eyeを使ってALS患者は視線でPCを操作、コエステーションの音声合成エンジンと組み合わせることによって、その人が話しているように会話をすることができるという仕組みだ。

 発話時には単語の50音を並べて発音するのではなく、言語解析して抑揚やイントネーションを推定しており、音声合成も感情のパラメーターを100段階で調整できるので、自然な発話になる。さらに、視線入力画面に「嬉しい」「悲しい」「怒る」というボタンを配置してあり、例えば冗談を言うなど、細やかに感情を表現できるようになっている。

 これにより、「ALSが進行して声が出なくなってしまったとしても、自分の声で話し続けていくことができる」(武藤氏)ようになる。

 武藤氏自身も気管切開手術を受け、術後数日間会話ができない苦しい状態を体験したという。

 「妻に対して、ありがとうとか大好きだよと伝えるときに、自分の思いまでちゃんと本当の音声で伝えたい。代読してもらうのではなく、本人が意図しているテンションで、自分の声で伝えられるのはとても重要なことだと思う」(武藤氏)

 サービスはオリィ研究所を通じて展開、「8月か9月に提供できる」(オリィ研究所 代表取締役 吉藤健太朗氏)という。

脳波で言葉を選び、ラップで伝える

 
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 もうひとつのBRAIN RAPプロジェクトのキーワードは「脳波」だ。脳波は、「完全な閉じ込め状態になったとしても、自分の意思を伝え続けられる最後のコミュニケーション機能」(武藤氏)であり、WITH ALSでは現在電通サイエンスジャムと共同で、脳波を測定して相手に意思を伝達する「脳波プロジェクト」に取り組んでいる。

 BRAIN RAPは、その取り組みの一環として挑戦するもの。武藤氏が脳波で伝えたい言葉を選択し、代弁者としてラッパーが武藤氏の言葉を歌う。武藤氏は昔から音楽が好きで、これまでも目でDJ・VJをプレイする“EYE VDJ”としても活躍、J-WAVEで番組も持っていることもあり、世界初となる脳波を活用した障がい者と健常者のコラボレーション型のラップという新しいエンターテインメントを考案した。

 脳波プロジェクトでは、「NOUPATHY」という脳波を活用したコミュニケーションツールを開発している。デバイスとして簡易型の鉢巻き状の脳波計とイヤホン、タブレットという手軽なツールを使い、3種類程度の選択肢を用意してそれぞれに異なる音が流れ、利用者は音に意識を集中する。その際の脳波の波形を測定して何がしたいかを判断するという形だ。

 これに、「意識の辞書」から武藤氏が言いたそうな言葉を選択肢として投げかけて判断してもらい、さらに意識の辞書を参照して文章にする。それをラッパーが歌い、パフォーマンスとして成立させている。

 意識の辞書は、武藤氏のインタビュー記事や書籍などから、言葉の使い方の癖、前後に並ぶ単語を機械学習して判断して作成している。

 この2つの技術を組み合わせて、脳波からラップを生成する。

意識の辞書のフレーズをもとに韻を踏む組合せで生成したラップの歌詞
意識の辞書のフレーズをもとに韻を踏む組合せで生成したラップの歌詞
 

 現在、クラウドファンディングプラットフォームの「GoodMorning」で、9月7日まで、資金を募集している。目標金額は400万円。

 12月22日に、武藤氏が企画しているALS啓発イベントが行われる。そこでのBRAIN RAPの披露を目指しているという。

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