VR内見のスタイルポート「ROOV」--ゴーグルではなくウェブオンリーを採用する理由 - (page 2)

3Dエンジンは独自、モデリング効率化のためのツールも内製

　私はこれまでデベロッパーとしてマンション開発するなど、不動産業に長く携わってきました。そこで一番違和感を覚えていたのは、何千万円とか億とかに届くような買い物なのに、販売員が提示した図面だけで決めてもらっていたこと。それだけで住むところを想像して買ってください、っていうのはどうなのか、みたいな思いがずっとあったんです。

　かといって、マンションが完成した後に販売を開始するのはデベロッパーの事業計画上は非常に無理がある話でもあります。それはできないけれど、建てる前にもう少し空間を把握できるようにしてお客様の不利益がないようにしたい。そこでいくつか技術的なアプローチを探していて、思いついたのが3DCGで再現するというものでした。

　紆余曲折ありましたが、2016年からROOVの構想に着手して、現在のものができ上がるまで2019年の年明けまでかかりました。3DCGのデータを作るところまではわりとすんなりいったんですが、そこで壁にぶち当たった。なぜかというと、最初は3DCGを容易に作れるUnityやUnreal Engineといったゲームエンジンの利用を考えていたのですが、これらは当然建物を表示する用途だけに作られているわけではないので、パソコンやスマートフォンで利用するにはあまりにも動作が重いんです。

　実用的な速度で描画できず断念しかけたんですけれども、大元のエンジン自体を我々で独自に開発することで解決しました。それに1年以上かかりましたね。　2018年3月にベータ版をリリースして、2018年4月からリクルートの協力を得て、デベロッパーに10プロジェクトほどでROOVを使ってもらいました。

　その後、デベロッパーにとっての使い勝手の改善や、大規模にスケールしていくにあたっての課題などを抽出しては改善するという作業を繰り返してきました。画質の改良やデータサイズの削減を行って、幅広いOSやウェブブラウザに対応するための調整にも時間をかけました。おかげで、ウェブサイトでは、物件情報ページの滞在時間を延ばすことにつながっています。滞在時間が延びると、モデルルームでもっと詳しく見たい、というように来場を誘発する効果があることも確認されています。

　現在はサービス開発に関わるエンジニアが7人、3DCGの制作チームが29人、計約40人の開発＆制作体制です。社員数は57名なのでほとんどが開発に携わるチームということになりますね。

　3DCG制作において自動化できるものはなるべく自動化することで、制作効率をあげています。ただ、新築分譲マンションの広告物として扱われるものでもあるので、きっちり素材を反映させないと広告としては使えません。必ず人の手を経て、何重にもチェックする作業や体制が必要なので、コストは写真ベースのサービスに比べると大きいことは確かですね。

現在の社員数は57名。そのうち40名がROOVの開発に直接携わる

　通常、同じようなものを3DCG制作会社に依頼すると、1物件あたり最低でも2〜3カ月かかります。ですが、不動産サイトの物件情報ページの制作スケジュールに合わせる必要があったりしますから、大量の3DCGコンテンツの制作をたとえば2週間のような短期間でこなさなければなりません。

　制作工程のステップは細かく分けると60～70くらいあります。そこで、全部ラップタイムを測ったうえで、「ここは自動化できる」とか「ここは手作業」とか「ここは自動化できないけど効率化できる」など、課題と対策をすべて抽出し、そのひとつひとつを何分ずつ縮められるか検討しました。

　それに対してできるところは自動化を進め、3DCGパーツを直感的に作成できるようなシステムも開発しました。そうすることで、今はCAD図面を受け取ってから最短3日で最初の納品が完了できるまでになっています。さらに機械学習などの技術を使いながら時間やコストを圧縮しているところです。