大動脈が破裂して下半身の機能を失った寿司屋の職人が、このスタンディング機能のおかげで店を再開し、大きな魚をさばくこともできているのだそう。説明会には会社員の村田康剛さんも参加。村田さんは手足の自由がきかない1級の障害者だが、埼玉県の自宅から東京都江東区の職場まで、毎日2時間かけて自身で通勤。普通なら手の届かないエレベーターのボタンも、車いすのリフト機能で座面を上げることで押すことができる。姿勢の変更もティルト機能で人の手を借りずにできることで、社会復帰を実現できている。
今回の新型は、車いすとスマホが連動したことも大きな進化だ。姿勢を変えるためのティルトの時間をアプリが知らせてくれたり、ティルトを実行したデータがクラウドにアップされ、遠隔地にいる主治医と情報を共有できたりもする。ティルトをちゃんとしていてもうっ血の症状が出る場合は、クッションを変更したり、ティルトに加えてスタンディングも採り入れたりするなど、データから判断できるようになった。
スマホと連動することで、故障箇所が事前に通知されることも大きい。バッテリーが切れるタイミングがわかったり、エラーコードが出て、ちょっとした異常も事前に通知される。車いすの定期健診が手軽にできることで、故障の不安なく、安心して外出することができるのだ。このことも、「障害者が社会参加を実現するための1つのステップになる」と加世田氏は語る。
このほか、フロントサイドに取り付けられたLEDライトは2倍以上明るくなり、夜間でも大きな視野で見られるようになった。バックにはハザードライト付き。車いす自体が明かりを出すことで、交通事故などを防止する効果も上がる。ハザードが付いている車いすは日本にはないそうだが、ペルモビールの新型電動車いすは、このような生活に密着した機能を備えている。
ペルモビールの創業者のペル・ユデーン博士は、「障がいを持つすべての人は、われわれが日常生活で使用するモノと同じ技術レベルで制作される機器を使い、可能な限りサポートを受ける権利を持っている」という理念で車いすづくりを行ってきた。
「F5」自体は360万円と高額だが、必要性を理解してもらえれば、助成金でまかなうことができる。実際、スウェーデンではペルモビールの99%以上が公費でまかなわれているという。「車いすに乗ることで床ずれなどの二次障害が起き、その治療に1回240万円ほどかかってしまうことを考えれば、ペルモビールは決して高くない選択。日本は高齢社会で医療費がどんどん拡大していく。これからのターゲットは日本を含むアジア。日本のシェアは5%だが、もっと拡大してきたい」と加世田氏。テクノロジーの進化で障害者が社会参加できる環境が、整いつつあることを感じる。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
OMO戦略や小売DXの実現へ
顧客満足度を高めるデータ活用5つの打ち手
企業や自治体、教育機関で再び注目を集める
身近なメタバース活用を実現する
パナソニックのV2H蓄電システムで創る
エコなのに快適な未来の住宅環境