新規事業が目的ではない--バンナム「VR ZONE」コヤ所長の“モノを生み出す考え方”

 2月19日に開催された「CNET Japan Live 2019」において、バンダイナムコアミューズメント プロダクトビジネスカンパニー クリエイティブフェロー 小山順一朗氏が「VR ZONE SHINJUKU 理想と現実~VRエンタメ創出に立ちふさがる壁~」と題した講演を行った。

バンダイナムコアミューズメント プロダクトビジネスカンパニー クリエイティブフェローの小山順一朗氏
バンダイナムコアミューズメント プロダクトビジネスカンパニー クリエイティブフェローの小山順一朗氏

 小山氏は1990年代初期からゲームセンターやテーマパーク向けの体感型ゲーム開発に携わってきたほか、VR開発本部に籍を置きVRに関する研究も行っていた。ドーム型スクリーンでのVRを追求した「機動戦士ガンダム 戦場の絆」のほか、バーチャルアイドルをコンセプトにし、人気コンテンツとなっている「アイドルマスター」(アイマス)シリーズの初代作であるアーケード版をプロデューサーとして手掛けてきたという。

 2015年からは、VR技術でエンターテインメントの未体験領域を開拓する「Project i Can」を担当し「コヤ所長」としてプロジェクトをけん引。2016年には、東京のお台場でVRアクティビティが体験できる実験店舗「VR ZONE Project i Can」を経て、2017年にVRエンタメ施設「VR ZONE SHINJUKU」を2019年3月までの期間限定で開設。さらに大阪の「VR ZONE OSAKA」や、全国各地で「VR ZONE Portal」を展開している。小山氏は「命がけの激流下りなど、現実で体験できないことを安全に体験できる。またアニメの世界に入る経験もできる」と魅力を話した。

 また、バンダイナムコアミューズメントは、バンダイナムコグループのなかで主にアミューズメント機器やアミューズメント施設の企画、開発、運営を手掛ける会社であり、バンダイナムコグループは、アニメやゲームで生まれたIP(intellectual property=知的財産)を商品化権を獲得し、事業化していく会社であることを説明した。

アイドルマスターは状況に応じて新規事業を生み出した

 小山氏は「私自身はアイマスや太鼓の達人などをプロデュースしてきたが、VR ZONE SHINJUKUは施設ごと企画した初めての商材。VRアクティビティと呼んでいるアトラクション、内装、外観、プロモーションも企画し、しかも建物ごと建造した」と振り返るが、「VR ZONE SHINJUKUは新規事業としてやっていない」と切り出した。

 「新規事業の概念は、所属、立場、周囲の見立て、トップの命令から見た切り口次第と捉えているが、ここで新規事業を一義化したい。新規事業はせんみつ(1000に3つの成功率)と言われる。私がこれまで新規事業を経営層から命じられるときは、本業が行き詰まりを見せたとき、本業に余裕があるときの2つだった。このようにトップダウンでは、新規事業をやることが目的になってしまう」(小山氏)。

講演の様子
講演の様子

 小山氏はアイマスシリーズを例に「アイドルマスターはアイドルプロデュース体験ができることがベネフィット(価値)」と説く。2005年にリリースしたアーケードゲーム版では、3DCGで表現されたアニメ調の女性キャラクターが歌い踊ることは当時のアーケードゲームで珍しかったことや、タッチパネルを搭載しキャラクターにタッチをして反応を楽しむ要素も盛り込んでおり「ゲームセンターでのプレイは勇気のいる行為だった。それでも遊んでくれる人は勇者に見えた」と振り返る。

 その後、家庭用の移植などで展開を続け徐々に人気を獲得し、アニメ化でファンも拡大。今はグループのなかでも大型のIPになったという。「ライブイベントで3万人も動員できるIPへと成長した。ここに至るまで、10年かかった」と小山氏が話すなか、時系列で見ていくと、既存事業部で誕生した事業が、消費者が拡大し、利益も拡大することで必要に応じて新規事業が発生したと振り返る。「能動的に新規事業を拡大したのではなく、強みを活かすために新規事業をするしかないと状況が命令する。新規事業が目的ではなく、手段であることの明かし」(小山氏)。

アイマスは展開を続けて規模が拡大していくなかで、新規事業が生まれていった
アイマスは展開を続けて規模が拡大していくなかで、新規事業が生まれていった

 つまり、強みを活かす「目的」を創る、決める、発見することが先だと小山氏は語る。「強みとは消費者にとって他では得られない魅力、独自的ベネフィットのことだ。ベネフィットとはニーズの言い換えで、アイマスで言えば、アイドルプロデュース体験したいというニーズと、アイドルプロデュース体験できますというベネフィットになる。これは他には代替できない独自的ベネフィット。これに対して、できあがった市場で開発する差別的ベネフィットもある。新規事業はこの2択だと考えている」(小山氏)。

 「会社では独自化戦略と差別化戦略と呼んでいる。差別化とは、罪深いパワーワードだと考えている。企画を上司に見せると、差別化したポイントはどこだと聞かれる。それは、他の商品やサービスをライバルと定めているから」と話し、差別化で成功するときは、成長市場であるときか、市場輪廻するほどのベネフィットをそなえた商品である場合に限られると分析。その意味では「差別化戦略は危険」と指摘する。一方、独自化戦略は、比較対象(ライバル)が商品ではなく、消費者が問題あるのにやっている行動にあると語る。

 「消費者が問題あるのにやっている行動」とは、例えばインフルエンザから守れるといった飲料や、飲み会を存分に楽しめるというキャッチコピーの飲料などの成功をさすと小山氏は説明する。「優れた独自的ベネフィットで新市場を創った。これが独自化戦略。しかし、独自化戦略の場合、前例がなく判断しにくいことで社内の抵抗に遭いやすい」と小山氏は語った。

 新規事業を命じられたら、差別化戦略でいくのか、独自化戦略でいくのか。まず差別化戦略を取るならは、市場輪廻の法則を使うという。「例えば、洗濯洗剤の場合、汚れ落ちの機能に各社取り組む。そこに簡単便利をうたった粉末洗剤などが投入される。次は感覚のベネフィット。香りや白さをアピールする商品が登場する。最終的にはイメージへのベネフィットとなり、商品とまったく関係ないプレゼント付き商品が生まれ、もはや機能から離れているモノ離れ市場が形成される。すると、再び機能のベネフィットへと戻る。同じ進化の過程を繰り返す、これが市場輪廻の法則」と小山氏は述べた。

 一方独自化戦略では、市場代替の法則を使う。「輪廻ではなくパラダイムシフトの話。市場輪廻がくるくると周り、市場代替が進んでいく。例えば、音楽を聴くときコンサートで聞くしかなかったのに、レコードの登場でいつでも聴けるようになり、ラジオで最新の曲が聴けるようになり、オーディオシステムで家がコンサートホールのようになり、ラジカセで音楽を持ち運べるようになった。ウオークマンの登場で、身につけられるようにもなった。そしてiPod登場で1000曲持ち歩ける、しかもいつでも買えるようになっている。新技術が引き金になり、市場が飛躍するのだ。そして一度代替すると、後戻りはできない。しかし、新技術の登場時に市場代替は起こりにくい。なぜなら、市場輪廻は手を付けやすいのだが、市場代替は荒唐無稽に感じるからだ」(小山氏)。

ビデオゲーム市場における、市場輪廻と市場代替
ビデオゲーム市場における、市場輪廻と市場代替

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