世界最大のロボコン「WRO」で日本の小学生チームが世界8位の快挙--タイから現地レポート

 ロボットコンテストの世界大会「World Robot Olimpiad(WRO)」の決勝戦が、11月16〜18日の3日間にわたりタイ北部の都市チェンマイで開催された。世界60以上の国と地域から6万人以上の小・中・高校生が参加する本大会は、今回で15回目を迎える。ここでは同コンテストの現地レポートをお届けする。

延べ6万人の参加者が集うロボットコンテスト世界大会の会場
延べ6万人の参加者が集うロボットコンテスト世界大会「WRO」の会場
首都バンコクから飛行機で1時間余り、チェンマイ市内にあるWROの会場・CMECC
首都バンコクから飛行機で1時間余り、チェンマイ市内にあるWROの会場・CMECC

 この大会に向け、日本国内では2018年夏に全国41カ所でWRO Japan公認の地区予選大会が開かれ、その狭き門を通過した17チーム60名が、晴れの舞台で競い合った。競技内容は、レギュラーカテゴリ、オープンカテゴリ、アドバンスド・ロボティクス・チャレンジ、フットボール、WeDo Challengeの5種目。年齢別の部門は、小学生、中学生、高校生、高校教育機関の4つで構成されている。

 今回、日本のチームは大健闘。なかでも、オープンカテゴリ(テーマに沿って自由な造形でロボットを制作する)の小学生チーム「キャンディーサムライ(CandySamurai)」が、見事8位入賞を果たした。

ロボットを愛してやまない子どもや大人たちでひしめき合うWRO会場。写真中央・オレンジ色のTシャツを着た日本チームの姿を発見
ロボットを愛してやまない子どもや大人たちでひしめき合うWRO会場。写真中央・オレンジ色のTシャツを着た日本チームの姿を発見
会場内で声援を送り続けていた日本の応援団の皆さん
会場内で声援を送り続けていた日本の応援団の皆さん

種目ごとに「創造性」と「問題解決力」を競う

 WROは自律型ロボットによる国際的なロボットコンテストで、世界中の子どもたちが各々ロボットを製作してプログラムにより自動制御する技術を競い合う。制作には市販のロボットキットを利用することが特徴だ。創造性と問題解決力を養うことや、チームワークによるコミュニケーション力の向上、先端科学技術を体験することなどを目的とし、小学生から高校生までの子どもたちがチームを組んで競技に参加する。

 決められたコースで正確性を競う「レギュラーカテゴリ」、その発展形である「アドバンスド・ロボティクス・チャレンジ」(17歳以上)、サッカー場に見立てた競技版の上でボールを打ち合う「フットボール」の3つは、正確性と競技性に特化した、オーソドックスなスタイルのロボットコンテストとなっている。

 上記の一般的なロボコンのイメージ通りの競技部門に加え、直接ロボット同士を戦わせたりタイムを競い合ったりしない部門、それがWROの「オープンカテゴリ」だ。このオープンカテゴリでは制作者の論理性、説明能力、審査員とのコミュニケーション能力のすべてが評価の対象になる。

日本の小学生が考えた「食糧問題」解決ロボとは?

 2018年のオープンカテゴリのテーマは「食糧問題」。世界の食糧廃棄などに関する問題だ。そのテーマに沿って設計・デザインしたロボットをプレゼンテーションし、各国の審査員から下される複数回のジャッジを総合して順位が決まる。

 さまざまなプレッシャーを乗り越え、今回このオープンカテゴリに参加し、17チーム中、世界大会8位に入賞した小学生の日本チーム「キャンディーサムライ」のメンバーに今回同行取材し、入賞に至るまでの道のりや制作秘話、そして大舞台に立った心境を聞いた。また、陰日向となり我が子を支えていた保護者にも話を聞いた。

今回のWROのオープンカテゴリーのテーマ FOOD MATTER(食糧問題)をあしらった会場内の旗
今回のWROのオープンカテゴリーのテーマ FOOD MATTER(食糧問題)をあしらった会場内の旗
ギリシャのチームブースの前で記念写真を撮る中国からの参加者。各国の参加者同志で質問をしたり、審査員を交えたプレゼンテーションの場で、他国のチームを応援するなどの、ほほえましい交流も見られました
ギリシャのチームブースの前で記念写真を撮る中国からの参加者。各国の参加者同志で質問をしたり、審査員を交えたプレゼンテーションの場で、他国のチームを応援するなどの、ほほえましい交流も見られた
スペインの高校生チームの参加者 植物の栽培を宇宙衛星を使って行うユニークなロボットを開発。大人顔負けの論理的な説明に、会場がわきました
スペインの高校生チームの参加者 植物の栽培を宇宙衛星を使って行うユニークなロボットを開発。大人顔負けの論理的な説明に会場が沸いた
アルゼンチンの小学生チームの参加者。PCを使ってロボットの状態を管理する姿もあちこちで見られました
アルゼンチンの小学生チームの参加者。PCを使ってロボットの状態を管理する姿もあちこちで見られた

3分の1の食糧が捨てられているという現実

 ところで、読者の皆さんはフードロスについて詳しくご存知だろうか。世界では全人口76億人のうち9人に1人、約8億2100万人が飢えに苦しんでいると言われている。その一方で、生産された食品の3分の1にあたる13億トンあまりが捨てられている、という現実がある。

 さまざまな理由で食品を廃棄するに至っているが、この食品を捨てずに済むことができれば、数字の上では飢えの問題は解消できる計算になる。しかし、それはあくまで理論上の話だ。実際、先進国では余り物が捨てられ、開発途上国では貧困や気候変動、紛争などによって、食料が足りなくなる「食の不均衡」が起きている。

 これがいわゆる「フードロス」問題だ。この解決策を図るロボットを考案し、実際にロボットによってデモンストレーションやプレゼンテーションしたのが、今回日本代表としてオープンカテゴリに出場した小学生チームキャンディーサムライだ。

「恵方巻」を「キャンディー」する日本チームのアイデア

 世界大会で8位に輝いた日本人チームのキャンディーサムライが英語でプレゼンテーションしたのは、2月の節分で廃棄されてしまう「恵方巻き」で「キャンディー」を作ることができるロボットのアイデアだ。9つのマシーンを組み合わせてキャンディーを作るという。

制限時間5分以内で、自分たちのロボットのプレゼンテーションをするキャンディーサムライのメンバー。国際大会でのプレゼンテーションの言語は当然英語。まるで歌うようにリズムよく、自分たちのロボットを誇らしく説明する姿がありました
制限時間5分以内で、自分たちのロボットのプレゼンテーションをするキャンディーサムライのメンバー。国際大会でのプレゼンテーションの言語は当然英語。まるで歌うようにリズムよく、自分たちのロボットを誇らしく説明する姿があった

 まず、第1のマシンが恵方巻とコンテナを分別し、第2のマシンは食品をフリーズドライする。そして第3〜5のマシーンで加工され、細長い棒状の飴が作られる。第6のマシンはキャンディーを切るロボットで刃物で切断する。第7のマシンでは最初に分けられたコンテナが洗浄され、次のマシンに送られる。第8のマシンを通ってパッケージに入れられた飴が出てきて梱包され、最後に第9のマシンでトラックに積み込まれ出荷するという流れだ。

 今回のプレゼンテーションでは、恵方巻きをマシンに入れて米飯を加工するところは、ギミック(模造)で再現したが、棒状のキャンディーを切断してパッケージにする工程は実際にマシンで実現させた。

会場でふるまわれたキャンディー。ハードタイプの甘くておいしいキャンディーで、各国の子どもたちをはじめ、大人たちも美味しそうにほおばっていた。真ん中にあしらってあるマークはチームロゴ
会場でふるまわれたキャンディー。ハードタイプの甘くておいしいキャンディーで、各国の子どもたちをはじめ、大人たちも美味しそうにほおばっていた。真ん中にあしらってあるマークはチームロゴ
大会開催期間、2日目と3日目、延べ二日間、3~4回ずつ、審査員へのプレゼンテーションが行われました。制限時間内に自分たちのロボットについて質問、その後の質疑応答を経て、審査員とオフショット撮影に応じる、キャンディーサムライのメンバーたち
大会開催期間の2日目と3日目、3~4回ずつ、審査員へのプレゼンテーションが行われた。制限時間内に自分たちのロボットについて質問、その後の質疑応答を経て、審査員とオフショット撮影に応じるキャンディーサムライのメンバーたち

 審査員からは、なぜ寿司からキャンディを作ろうと思ったのかという質問が飛び、メンバーたちは「寿司はすぐ食べないと腐ってしまうことが難点で、食糧問題もそこで起こっているので、保存できる食べ物に加工した。飴であれば世界中の誰もが知っているし、いつどこにでも持ち運びができ、外国にだって持っていくことができる」と説明していた。

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