logo

マーケティングは「1円でも高く売る活動」--デサント 小林氏

別井貴志 (編集部) 阿久津良和2018年11月22日 08時00分
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 企業理念に「すべての人々に、スポーツを遊ぶ楽しさを」を掲げて、トップアスリートからスポーツを楽しむ人々まで幅広いスポーツシーンをサポートするデサント。2017年4月からデジタルマーケティング戦略室を立ち上げ、デジタルマーケティング戦略の策定・実行を推進している。今回は聞き手はCNET Japan編集長の別井貴志が務めた。

デサント 執行役員 アリーナBMマネージャー 兼 デジタルマーケティング戦略室 室長小林弘明氏
デサント 執行役員 アリーナBMマネージャー 兼 デジタルマーケティング戦略室 室長小林弘明氏

――テクノロジーの変化においてマーケティングは重要です。デジタルマーケティング戦略室は、どのような役割を担っていますか。

 私はデサントに入社する以前も18年ほど海外で働いており、最後の3年間はロンドンでデジタル関連の統括業務に従事していました。とある経緯で2年前にデサントへ入社した際もそのまま海外事業に従事していました。その関係から、2018年3月まではデサントブランド、4月から(水泳ブランドの)アリーナブランドを担当しています。

 入社してから気づきましたが、弊社のデジタル化は遅れていました。そこで、スピード感を持ったグループ全体のデジタルマーケティング活動推進と効率化を目指し2016年末に、社長(デサント 代表取締役社長 石本雅敏氏)直下のデジタルマーケティング推進組織の設立を提案しました。それがデジタルマーケティング戦略室です。現在はプラットフォーム戦略やデジタルマーケティング戦略を担っています。

 2017年夏時点であった13ブランドのウェブサイトや専任担当者を設けていたEC(電子商取引)サイトでは、それぞれの担当者が個別に活動し、プラットフォームも別々でセキュリティ的にも問題を抱えていました。まずはウェブサイトから見直しを始めようとデサントブランドを皮切りにすべてのブランドを同じプラットフォーム(技術基盤)へ移行することを始めました。現在ある17のブランドやカテゴリーのサイトは、2018年中に移行完了予定です。ECサイトも2018年4月から同じプラットフォームに移し、同じ枠組みの元、各ブランドとECサイトに統一感を持たせ、技術的にも無駄の無い体制を目指しています。

――ブランドという文脈では製品や企業ブランドと多岐にわたります。基本的なブランド戦略や訴求ポイントをお聞かせください。

 弊社の特徴とも言えますが、各ブランドにそのスポーツの事を良く知る優秀なスタッフが属しています。例えばデサントのスキー関連なら、スキーの元トッププレーヤーが商品企画やデザイナーとして働いており、現在担当するアリーナにも元トッププレーヤーが多く属しています。よくマーケットイン・プロダクトアウトという言葉が用いられますが、弊社の場合はそういう元トッププレーヤーのスタッフが新しい商品はこうあるべきだと思うプロダクトアウト的な手法で商品開発をしながらも、お店の意見を聞くだけでなく現役のトッププレーヤーに使って頂きそのフィードバックを得る手法で現場の声を取り入れるマーケットイン的手法も用いる事でマーケットイン・プロダクトアウトを両立させてきました。そういうところが競業他社と比較した場合、より高性能・高品質な製品が提供出来ている理由だと思います。

 そのためウェブサイトもブランドドメインで立ち上げるべきだ、という結論に至りました。それぞれのブランドが、スポーツを背景にユニークな高品質商品を作るビジネスである為、ブランドをきちんと立たせる事が重要だと考えたからです。

 マルチブランドを扱う企業の場合、企業ドメインで運営する方が簡単に横軸でブランドサイト展開できるため、本当はその方が簡単です。ですが上記の理由に加え、弊社のビジネスはグローバル展開しており、国によって販売するブランドに差異がある関係上、グローバルで共通してブランド訴求を行う為にもブランドドメインでのサイト展開を進めています。

 一方、この春にオープンしたECサイトは「DECENTE STORE」という名称で全ブランド展開し、同時に始めた日本国内のお客様向け会員サービスも全ブランド共通で「CLUB DESCENTE」という名称で運用を開始しております。

 日本国内にはそれぞれのブランドの直営店舗が合計47店舗展開をしており、お客様視点で考えた場合、そういった様々なブランドの国内店舗とECサイトを合わせて包括的にお客様へのサービスを行うべきと判断しました。よって全ブランドを販売する「DESCENTE STORE」を2018年4月に立ち上げると同時に、直営店舗とECサイトの両方でご利用頂ける会員サービスとして、ポイントシステムや会員限定のセールなどの特典を得られる「CLUB DESCENTE」も用意することにしました。

――長い歴史を持つ企業では、店舗部隊とEC部隊が衝突するケースは少なくありません。御社はどのような対応を取られましたか。

 弊社の場合は同じ部署で店舗とECサイトを担っていましたので、店舗部隊とEC部隊との間ではそれほど多くの衝突はありませんでした。ただし、ECサイトとブランドサイトの運営部隊が異なっているため、ブランドのウェブサイトとECサイトとの連携に課題がありました。そのため、デジタルマーケティング戦略室では双方のプラットフォームを同一のものにする事で、技術的基盤を横串で展開する仕組みを用意し、そういった課題に対して対応しています。

 ブランドがそれぞれのプラットフォームで個別の進め方でウェブの運用をしていたため、それを統合させる作業では多少社内で議論もありましたが、比較的スムーズにプラットフォームの統合は進んだと思います。私が前職でグローバルでのデジタルマーケティング経験があったこと、スタッフが優秀で社内からの信用もあったこともありますが、なによりも安価にプラットフォームを構築できる提案が出来たのがスムーズに進んだ理由でしょう。当初のウェブプラットフォーム統合 は2019年末までに完成させる3年計画のプロジェクトでしたが、今のところ2018年中に完了出来る予定です。

 現在デジタルマーケティング戦略室は10人強おりますが、半分が社内の若手スタッフ、残り半分が外部から採用した優秀なスタッフという陣容です。社長が人材への投資に関しての理解があったため、外部のコンサルはほとんど使わず自社で判断・実行が出来る組織を作ることができ、その結果安価でスピード感のある活動が実現出来ています。それがこれまでのところとてもスムーズに進んでいるひとつの理由でしょう。

――やはりトップが課題を理解し、判断を下すのが大きいということでしょうか。

 そうですね。デジタルマーケティング戦略室という社長直下の組織を設けるという無理を聞いて頂いたことで、デジタル化を加速できました。その代わり結果を出さないと怒られますが(笑)

 現在、弊社の国内ビジネスの売り上げの3割ほどが自社直営店・自主管理店舗とECサイトで、2020年にはそれを国内売り上げの半分にまで持ち上げようと言う目標で進んでいます。まだまだその目標達成の為にこれからやらなければいけない課題は多くあります。

――トップ選手が関係すると異なるブランディングが必要と感じます。他分野のマーケティングと異なる点をお聞かせください。

 商品露出効果を狙ってトップ選手の着用を推進する活動はしておりますが、今の時代それだけでは効果的とは思えません。デジタルマーケティング、特にソーシャルをうまく活用しないといけませんが、中途半端にソーシャル展開を始めても効果が無いだけでなく、スタッフが疲弊してしまいます。

 そのため、私は皆に「まずソーシャルは忘れろ」と述べました。まずはウェブサイトのプラットフォームをきちんと整備した上で、その上でしっかりとした活動が出来る様にする事がプライオリティー。また、ただ単にウェブサイトのプラットフォームを変更したからと言って変わるものではありません。(顧客から得たデータ分析でマーケティング課題を解決する)グロースハックの活動をしっかりと推進する事が必要です。

 ただ、グロースハックという言葉をそのまま述べても伝わりにくいため、「アナログのゴールはデジタルのスタートポイント」という言い方をしています。広告を出した時、カタログを作った時でほぼ仕事の大半終わるアナログ時代と違い、デジタルはそこがスタートポイント。

 A/Bテストを繰り返すことが重要だと繰り返し説明をしており、徐々に活動は始まっているので、次は2020年の東京オリンピックまでに立ち上げるのをターゲットにソーシャルの活動の強化も始めようと考えています。

「社長が人材への投資に関しての理解があったため、外部のコンサルはほとんど使わず自社で判断・実行が出来る組織を作ることができ、その結果安価でスピード感のある活動が実現出来ています」と、小林氏。
「社長が人材への投資に関しての理解があったため、外部のコンサルはほとんど使わず自社で判断・実行が出来る組織を作ることができ、その結果安価でスピード感のある活動が実現出来ています」と、小林氏。

――ウェブサイト構築は競合他社も注力されています。どのような点で差別化を図りますか。

 まずはウェブサイトに注力しましたが、ソーシャルがウェブやECを活性化させるだけでなく、差別化を図る上でもとても大事なメディアだと考えています。

 弊社の場合は海外展開しているブランドで、各国のブランド担当者のソーシャル活動の連携が上手く取れていませんが、そのプラットフォームを統一出来れば1つ大きな武器になると考えています。

 ウェブサイトのユーザー拡大という意味でも、ソーシャルからのユーザー誘引やソーシャルのコンテンツを活用したウェブの活性化は進めたいと考えています。

 その為にもデサントの場合はトップ選手をマーケティング的に活用する「スポーツマーケティング」でのデジタルマーケティングが非常に大事で、ソーシャルを上手く使いスポーツマーケティングの活性化を進めて行こうというのが非常に大きな課題として認識しています。正直なところ試行錯誤の状態ですが、トップ選手自らの発信だけで無く、選手のファンの発信するコンテンツも含めを上手く活用する方法を模索しています。

 別の切り口では「CLUB DESCENTE」の活用も1つでしょう。弊社は多くのスポーツイベントを後援していますので、その会場を訪れた来場者を「CLUB DESCENTE」に巻き込むなどトライアル活動を重ねています。

――「CLUB DESCENTE」会員とのコミュニケーションはどのような戦略をお持ちですか。

 2017年までは自主管理店とECサイトで異なるメール発信を続けていました。加えて、ブランド側はEメール発信プラットフォームを持っていません。「CLUB DESCENTE」では自主管理店とECサイトの顧客情報等を統合したDMP(データ マネジメント プラットフォーム)を活用し、お客様の興味に合わせたMA(マーケティングオートメーション)の実施を開始しています。通常MAに使われる様なデジタル情報だけで無く、イベントや店舗への来場・来店情報も加え、ブランド視点から見ても最適な情報提供が出来る活動を目指しています。

 特に弊社の場合は直営店・自主管理店の比率が大きいため、そこでもどのようにMAを活用するか議論を続けています。250を超える直営店・自主管理店には、1000人弱のセールスマンが在籍していますが、その中でも優秀なスタッフはお客様の顔や過去の購入商品を覚えており、非常に高品質な接客対応を行っています。その能力を多くのスタッフに展開できるか、顧客体験の改善につなげられるか、ここにデータを活用したいと思っています。

 まだ現時点ではDMPのデータを活用した店舗用のダッシュボードを準備したレベルですが、今後ここに関しては腰を据えて進めて行きたいと思っています。

――昨今はモバイルを無視できません。今後のモバイル展開はどのように考えていますか。

 先ほど述べた「CLUB DESCENTE」では会員証用途のアプリを開発しています。アプリはなかなか簡単に導入出来ないものですので、当初は選択肢にありませんでした。しかし、直営店・自主管理店のスタッフを通じて訴求すればインストールしてもらえる可能性が高まります。当初はLINE等を使った会員アプリの展開を考えていましたが、それより自社アプリの方が安価で効率的なことを考え「CLUB DESCENTE」アプリを用意した次第です。

 アプリの訴求施策では、直営店舗、ECに来訪されたお客様だけで無く、弊社が協賛・後援するスポーツイベントの場も活用していきたいと考えています。また、弊社には年配の方にもサポート頂けるブランドもあるので、デジタルだけでは無く、紙のDMなども併用しつつ、データはDMPに集約させる予定です。

――一般的にマーケティングと営業は衝突することが少なくありません。そこを横串できるのがCMOという存在ですが、「社内の障壁」みたいなものは感じましたか。

 弊社の2年前の状況は、それぞれのブランドがバラバラなプラットフォームであり、外部のパートナーさんが手作業でコンテンツを作成する状態からスタートしています。それ故、社内にテクニカルな要素が何もなく、デジタルマーケティングの領域で大きくやり方を変更しても問題がそれほど多くはありませんでした。その意味ではデジタルマーケティング領域での変更に対しての障壁はあまり感じませんでした。

――すでにマーケティングという文脈ではデジタル・非デジタルを分ける時代ではないと思っています。その上で小林氏が考えるマーケティングとは何でしょうか。

 会社によってマーケティングがやるべきことは違ってくると思いますが、デサントの場合営業は「1枚でも多く売る仕事」であるのに対しマーケティングは「1円でも高く売る活動」だと考えています。安いけどそれなりの品質の商品を大量に売る商売では無く、こだわりの商品をしっかりと売るブランドが多い会社ですので、どうやって自分たちのこだわりを伝える、なぜその商品が他社より高いのかお客様に納得して頂くことがとても大事。そのためにも、お客様との直接対話を含め、商品開発にも商品訴求にもプロセスにお客様を巻き込むことが出来ればマーケティング手法が大きく進化出来ると考えています。

 それを推し進めるのがデータドリブン。これからの時代、マーケッターは感性だけではなくお客様とのコミュニケーションの中から得たデータ・数字で会話するデータドリブンで判断出来るかどうかが問われます。弊社の場合はブランドやカテゴリーが好きで「新しいことをやりたい」「ユニークなものを世に出したい」といった思いを強く持っているマーケッターが大勢います。それを社会に発信していくために、お客様とのコミュニケーションを密にし、その中で得られたデータを元に日々商品を強化し発信内容を進化させていくのがこれからのマーケティングで大事なことでしょう。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]