学校現場が抱えるITツール運用の課題とは--先進校の教職員たちが明かす - (page 2)

ICTの管理・運用は教師がどこまで担うべきか

 モデレータの野本氏は、もう1点、多くの教育機関が直面する問題点を取り上げた。それは、「教育現場のICT運用はどこまで外注すべきか」というテーマだ。

 この問題は、教育ICT関係者にとって年々深刻になっていると筆者は感じている。というのも、学校にタブレットやPCが導入されても、予算削減の理由から現場の教師が端末の管理やメンテナンスの作業を負担しているケースが多いからだ。理想はICT支援員と呼ばれるスタッフを配備することであるが、予算確保がむずかしく、実現できていない自治体や教育機関が多いのが現状だ。

教育ICT関係者らの間で、よく挙がるテーマになってきたのが、ICT管理・運用に関するもの。現場では教師への負担も多く、ICT支援員の配置が求められている。
教育ICT関係者らの間で、よく挙がるテーマになってきたのが、ICT管理・運用に関するもの。現場では教師への負担も多く、ICT支援員の配置が求められている

 一体、タブレットやPCが教育現場に入ると、どのような作業が発生するのか。日常的には、破損や故障・不具合などのトラブル対応、アプリ配信やアップデートの対応、生徒のIDやパスワードの管理などがそうで、年間を通しては、端末のキッティング、入学者向けガイダンス、情報モラル教育、次年度の端末選定・アプリ選定、それにともなう予算確保、卒業・進級に合わせたデータの年度末処理など、挙げればキリがないくらい増える(公立と私立、中学校と高校など教育機関よって内容は異なる)。

 しかも、生徒が1人1台のデバイスを所持している学校は、何百台、何千台も管理しなければならず、とても学校の教師だけでは手に負えない。おまけに教師は授業も受け持っているうえに、長時間の残業時間がブラックな職場であると近年は問題視されている。そのため、ICT支援員を配置したり、メンテナンスや管理を業者に任せる教育機関も多いが、一方で、ITの得意な教師が1人で作業を担当している学校もある。こうした状況をどう考えていけばいいのだろうか。

 聖徳学園の横濱氏は「業者に任せっきりは良くない」と語った。同氏は聖徳学園の情報システムセンターのセンター長として、ICTの管理・運用を統括する立場にあるが、「自分たちで管理できる体制を整えているのは、取り組みのスピードを高めるためだ」と説明した。というのも、新しい製品やソリューションを使いたいとき、ベンダーを通していては時間がかかってしまうことがある。ほかにも、メーカーと直接取り引きする方がコスト面やコミュニケーションの面でもメリットがあると同氏は述べる。「私たちはICTを通して先進的な教育をめざしており、そこに向けて進んでいくためには、自分たちで動ける体制が重要だと考えている」と横濱氏は語った。

 一方で日大三島の大川氏は「自分は教員であり、ICTの知識に長けているわけではないので、情報を与えてくれる存在が重要。そういう意味でベンダーが持っている情報は非常に役に立っている」と述べた。また、近大附属の乾氏は「本校はすべて業者に任せており、iPadの管理に教師が関与することは一切ない」と話した。近大附属では、教師はICTを活用した授業実践に専念してほしいとの考えから、こうした体制を築いているという。

 学校によってめざす教育やICT管理に対する考え方は異なるが、いずれにしても長期的な運用のためにも、管理・運用に関する教師の負担は減らすべきであろう。

テクノロジを使わない選択肢はない

 ここまでICT先進校が抱える課題について述べてきたが、パネルディスカッションを通して伝わってきたのは、これだけテクノロジが普及した世の中になっても、学校現場は、まだまだテクノロジを活用できていないということだ。

 近大附属の乾教諭は「いま世界の国ではICTを教育に活用するのは、もはや当たり前になっており、日本とは“当たり前”のレベルが全然違う」と述べた。海外の教育現場ではすでにICTを活用した個別学習や、学校でしか学べない授業は何かといった、ひとつ先の課題に向き合っているにも関わらず、日本はICTを使う一歩前の段階で止まっているというのだ。教育現場におけるテクノロジ活用は、生徒たちが未来をどう生きるかにも関わっており、現場の教師らの意識改革が急がれる。

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