携帯料金の4割値下げや楽天の新規参入--小林史明議員に聞く「携帯業界と行政」

 菅義偉官房長官が8月に「携帯電話料金は4割値下げの余地がある」と発言して以降、総務省が有識者会議を再び開催したり、NTTドコモが2〜4割の値下げプランを打ち出したりするなど、携帯電話業界と行政との関係が大きな注目を集めている。

小林史明衆議院議員
自由民主党 青年局長代理 行政改革推進本部事務局長の小林史明氏

 そこで、第3次と第4次の安倍内閣で総務大臣政務官を務めた、自民党衆議院議員 青年局長代理 行政改革推進本部事務局長の小林史明氏に、携帯電話料金の値下げや、楽天の携帯キャリア新規参入、次世代通信の5Gに至るまで、携帯電話業界と行政の関わりや今後について幅広く話を聞いた。

ドコモの料金値下げに圧力はあったのか

——総務大臣政務官の在任期間中は、携帯電話業界の競争政策に関してどのような点に力を入れてきたのか教えて下さい。

 (総務大臣政務官)就任当初の携帯電話業界では、MVNOがキャリアとの契約の問題で多様なサービスを提供できない、キャリア同士が不毛な端末のキャッシュバック競争を繰り広げ、既存顧客への還元ができていないなど、多くの問題が挙げられていました。そうした問題を一度俎上に載せて整理する必要があると感じ、総務省で「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を立ち上げたのです。

 検討会の中では多くのテーマを議論し、中古端末の流通やSIMロック解除について提言を出したほか、MVNOなどにユーザーが移動しやすいよう、それを阻害する要因を取り除いてきました。それは利用者に選択肢を提供して分かりやすくするためです。通信と端末が一体化していることで、顧客は通信だけ、端末だけといった選び方ができなかったため、この分かりづらさを整理することを基本的な理念として取り組んできました。

 同時期に2つの出来事があったのも、通信と端末の分離という変化につながったと思います。1つは端末価格の高止まり要因の1つとされていた、携帯電話会社とアップルとの間に結ばれていた特殊な契約の影響についてです。検討会と同じ時期に公正取引委員会がアップルに対して独占禁止法違反の審査を実施し、その内容が公にされたことで、流れが変わったように感じています。

 もう1つは楽天の新規参入です。NTTドコモが分離プランを軸とした新料金プランで料金値下げに踏み切ったのは、かつてソフトバンクが新規参入した際に顧客を奪われた反省もあって、新規参入による競争激化を見越したものといえるのではないでしょうか。

——そのNTTドコモの新料金プランの内容が「2〜4割」程度を引き下げるものであることから、菅官房長官の「4割値下げ」発言などによる“行政の圧力”があったのではないかと言われています。

 なぜ、料金値下げを発表したのかは、事業者にしか分からないところです。政治家の仕事は、あくまで問題を提起して解決策を絞ること。菅官房長官が値下げに言及したのは、世界を見渡して携帯電話料金が高止まりしていることを問題提起し、世論が盛り上がることで市場の声に応えることだったのではないでしょうか。国民世論の盛り上がりがキャリアを動かしたのだと思います。

ドコモは2〜4割値下げする料金プランを打ち出した
ドコモは2〜4割値下げする料金プランを打ち出した

——一方で、KDDIの高橋社長は11月1日の決算説明会で、分離プランをすでに導入していることから「一歩先に宿題を済ませている」と発言しています。

 NTTドコモが新料金プランを出してきて、そちらの方が安いと利用者が判断すれば、他社もそうしたプランを提供した方がいいでしょうし、もちろん今のままでいいという戦略もあります。利用者がどういった反応を示すかが大事だと思います。

——通信料を海外に合わせて値下げするのであれば、諸外国のようにプリペイド方式のサービスを提供しやすくする環境を整える、という考え方もあるかと思います。

 今の国の状況を考えると、本人確認を緩めるのにはかなりのリスクがあるので、難しいですね。キャリアがプリペイド方式をやりたいのであれば否定はしませんが、キャリア側にもメリットが少ないのではないでしょうか。

 日本のキャリアはクレジットカードや銀行払いを徹底しており、携帯電話料金との合算払い(いわゆるキャリア決済)が定着していることから、毎月の料金には通信だけでなくサービスの利用料も含まれている。それを海外の通信料と単純に比較するのはフェアなのかというのは政務官時代に問題提起していて、今後整理されることになるでしょう。現状の問題は海外と比べて高いか安いかではなく、料金が高止まりしていることであり、それを変える必要があったわけです。

——これまでの携帯電話業界の動向を見ていると、料金プランはシンプル化したものの、さまざまなニーズに応えていくことで複雑化していき、それをまたシンプルにする……という歴史を繰り返しています。

 どの業界でも顧客のニーズに応えようとすると少量多品種になり、複雑化してもう一度シンプルにするということが起きています。ですが、携帯電話市場の複雑さの根幹は、通信と端末が紐づいていること。それが分離されることで違うステージへと移っていくのではないでしょうか。

小林史明衆議院議員

——分離プランの導入によって、逆にハイエンド端末を安く購入していた人は、値段が上がってしまうため負担が増えるかと思います。事業者側が高い端末を安く売ってはいけないのでしょうか。

 そのあたりは各社の戦略ではないかと思います。利用者が選択できないことが問題であって、さまざまな選択肢を用意するのであればいい。端末は端末、通信は通信と完全に分離されているのであれば、メーカーや販売代理店、通信事業者などが、高い端末を割賦で購入しやすくするのもいいでしょう。

——そうした観点でいうと、分離プランに合わせてキャリアは新しい購入プログラムを用意しましたが、それが「4年縛り」と呼ばれ、現在実施されている「モバイル市場の競争環境に関する研究会」でも批判の声があがっている状況です。どのような点が問題だと捉えていますか。

 (通信と端末の契約が)まだ一体になっているところですね。利用者が選択しやすいことの根源は、選択肢が複数あって分かりやすいこと。そうした観点でも評価していく必要があると考えています。

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