――どんな人がイントレプレナーに向いているのでしょう。
新規事業を立ち上げる環境を楽しめる人でないと辛いかもしれないですね。新規事業はある意味失敗するものなので、10、20の案件を上げても、それこそ1本も通らないケースもありますし、なんとか通せたとしても多くは失敗するような世界です。既存事業の仕事は、失敗しないように取り組みますから、失敗した時の心持ちを含めて、向き不向きはあると思います。
イントレプレナーは両輪がそろわないとだめだと思っていて、1つはスタートアップ側のアイデアをきちんと聞き取れる、柔軟な考えを持っていること。もう1つは新しいアイデアを社内に持ち帰って、然るべき協力をあおぎ、事業として通せる力です。
アイデアがどんどん生まれても、社内で通せなければ宝の持ち腐れですから、アイデアを作って通す、これが両輪です。
――なかなか両輪そろっている人は少ないように感じますが。
最近よく言っていることなんですが、イントレプレナーにも2種類あって、外との付き合いがうまい外交型と、社内で物事を通せる内政型です。
私自身は外交型で、やはり内政には苦手意識があります。外からの情報を翻訳して社内に伝えているつもりなのですが、その翻訳が雑というか(笑)。さらに外交型の人間は、伝わらないことでイライラしてしまいがちです。その時に内政型のイントレプレナーとセットで動いていると、丁寧に翻訳をして社内に伝えてくれるという役割分担ができます。そういうブリッジができると、新規事業はすごく上手く回っていきます。
大手企業とスタートアップの距離は、今、感覚として結構離れていると思うんですね。この距離が近ければ橋渡しをする人は1人ですむかもしれませんが、離れているので外交型と内政型の2人が必要になる。お互いの距離が近づく未来はきっとあると思いますが、現時点では離れている分、イントレプレナーの役割は広く、それを担うために1人では難しいのかもしれません。
――1人ではなくて複数で取り組むことで、いい結果を生み出せる可能性も広がると。
1人では結構しんどいこともあるかと思います。また外交型のイントレプレナーが1人しかいないとスタートアップ企業からは「アイデアをすごくわかってくれて、ありがたいけれど、よく考えてみると事業自体は進まない」という現象に陥りがちです。逆に内政型のイントレプレナーは社内に新しい情報をたくさん持ち帰ることはできますが、スタートアップ側から見ると「なかなかわかってもらえない」と感じられることもあります。こういう声は意外に多いんですね。
イノベーション・ビルディングプログラムでは、私たちコンサルタントが入ることで、外交型のイントレプレナーならば、内政型のスキルに強いコンサルタントをつけるといったこともできます。
イントレプレナーの適性を見極める、役割を割り振る、足りない部分を補う。そうしたあらゆるケースを伴走しながら取り組むことで、大手企業における新規事業創出をサポートしていきたいと考えています。
――光村さんご自身は、31VENTURESとして多くのスタートアップと関わってきた経験をお持ちですが、やはり大手企業側の支援は重要でしょうか。
スタートアップが成長していく過程で、なんらかの形で大企業が関わる可能性は高まっていると思います。米国ではスタートアップが単独で大きくなっていくケースが多いですが、日本で考えた場合、スタートアップは大手企業と連携しながら大きくなっていくというのが現実的だと思います。ただその連携が上手くいかず、この国のイノベーションを遅らせているのであれば、大手企業が変わるべきです。そうならなければこの国の未来はないでしょう。
――大手企業はどんな風に変わっていくべきでしょうか。
会社の看板こそ変わっていないけれど、中身が変わっていく状態が一つの理想なのではないでしょうか。現在の成功例で言うと富士フイルムなどは、すごく上手く変革されていると思います。社名こそ「フィルム」と残っていますが、フィルム会社だとは今や意識している人は少ない。お客様に誠実に対応していくDNAを残しながら業態を変える。すごくいい変わり方だと思います。
――新たに立ち上げたBASE Q、31VENTURESと三井不動産は新規事業の立ち上げに大変積極的です。その理由は。
既存ビジネスは現在好調ではありますが、当社の立場の変化に対する明確な危機感だと思っています。31VENTURESに携わり感じたことですが、スタートアップは常に世の中に存在していない新しいビジネスやマーケットの可能性を提示し続けています。正直、大手企業が社内の力だけで新たな発見をしたり作ったりしていくのは難しい。
ただ新たなビジネスやサービスがゼロから1になり、10になり、1000になった時に、効率的かつ安定的にオペレーションする力を大手企業は持っています。それぞれの得意分野を連携することで、さらなる発展に踏み出せると思っています。
――今後のBASE Qをどのように場所にしたいと思っていますか。
大手企業が存在感を持っている日本という国の中で、イノベーションを起こす仕組みを提供する場でありたいと思っています。
ただ、個人的にはいつまでもこの形であり続けるのではなくて、発展的解消というか、イントレプレナーを育てる役割は、将来的になくなり、個々の企業でイントレプレナーが自発的に生まれてくることが望ましいと考えています。数年後にはイントレプレナー育成という役割は終えているべきなんでしょう。
そこまでは、優れたイントレプレナーの育成をどんどんサポートしていきたい。新規事業のやり方には正解がなくて、失敗も繰り返しますし、1つの成功例がほかで応用できるとは限りません。そんなときのコンサルタントの役割は、正解を探すのではなくて、後押しをすることだと思っています。
新規事業立ち上げ経験者をそろえて意味はそこにあって、壁にぶつかったときに止めるのではなく、いかに後押しできるか。そして、やりたいという気持ちに対して手を差し伸べられることが大事なんです。
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