“インスタ映え”を求める現代人に「脱・自己承認欲求」を--僧侶・小池龍之介氏が語る - (page 2)

SNSで自己承認欲求が満たされる時に脳内で起きること

 小池氏は、こうした説明を踏まえて、インターネットという存在について「自己承認欲求が欠落している状態を前提に、その欠落感を満たしてくれるもの」と捉えている。確かに、SNSは何かを投稿すればすぐに多くの友人・知人からの反応が得られ、それによって素早く自己承認欲求を満たしてくれる存在だとも言える。しかし、小池氏はこのスピード感が自己承認欲求をさらにエスカレートさせていると提起する。

 「人間は自己承認欲求が満たされて嬉しさを感じると脳内にドーパミンという神経伝達物質を出すが、そもそも人間の脳は何度も高速で嬉しさを感じて刺激されるようにできていない。自己承認欲求の充足が高速で連続してしまうと脳内がドーパミンに支配されてしまい、精神の安定性や落ち着きを維持したり、精神的な強い刺激や不快感を和らげることが難しくなってしまう。もちろんドーパミンは人間の活動にとって不可欠な物質だが、過剰に分泌してしまうと依存が生まれてしまう」(小池氏)。


 現にスマートフォンやSNSを手放せない人のことを“スマホ依存”などと表現することがあるが、これは決して揶揄している表現ではない。小池氏の説明を踏まえると、脳内ではドーパミンの過剰分泌によって自己承認欲求を満たされることに対して、強い依存が生まれているというのだ。

 「人間の頭の中はデジタル的にできていて、情報が頭の中に入ってくると脳内に電気の刺激が生まれ、その刺激をドーパミンやアドレナリンといった物質に置き換えて脳の神経細胞を刺激する。機械に過剰に電気を送ると壊れるように、脳にも過剰にドーパミンによる刺激を加えると壊れてしまう。つまり、脳にドーパミンに対する受容体が生まれて、承認による刺激に対して鈍感になり満足感を得られなくなってしまう。すると、満足感を得るためにより多くのドーパミン=承認による刺激を必要とする」(小池氏)。

 これをSNSの利用に置き換えると、人はいいね!をもらうことで自己承認欲求が満たされて喜びを感じる。しかし、そうした喜びが短時間に連続して起きると、自己承認される刺激に対して“慣れ”が生まれてしまい、より強い自己承認欲求が生まれる。そうしてSNSへの依存がエスカレートしてしまうのだ。

 「SNSへの依存は、薬物などへの依存と似た性質を持つ。人間の精神のバランスを崩しかねないのではないか。SNSで承認されないことやメールの返事が来ないことが不幸せに感じると誤解しているかもしれないが、実は承認される喜びが連続して生まれることで自己承認欲求に支配されていき、欠乏すると強い苦しみを感じるようになる。自らの脳内神経が破壊されていくことのほうが恐怖なのではないか」(小池氏)。

 たとえば、朝起きるとまずスマートフォンでメールやSNSをチェックしてしまう。また飛行機を降りると真っ先にスマートフォンのフライトモードを解除して通知をチェックしてしまう。そうした生活習慣は、すでに自己承認欲求への依存が始まっていると言っても良いのではないだろうか。


 「飛行機が着陸して“電源を入れても構いません”と言われると1秒でも早くスマートフォンの電源を入れようとする。数分後ではいけないのだろうか。生死に関わるような緊急事態なのだろうか。なぜ一刻も早くチェックしなければならないのだろうか。他の人が自分をどう見ているかという、ただそれだけの話なのに、それだけのために生きているのだろうか。自己承認欲求が(フライト中に)欠落している時間が長い分、(電源を入れて)満たされることに強い快感が生まれているだけだ」(小池氏)。

 小池氏は、「自己承認欲求に支配されて生きていくことが本当に幸福なのか。SNSを使わなくても良い時間。スマートフォンの電源を入れることを急がなくても良い日常。スマートフォンをチェックしなくても良い就寝前の時間。PCやスマートフォンを見ずに相手との会話を楽しむ時間。こうした自己承認欲求から離れる時間を過ごすことが、安らかな日常には必要なのではないだろうか」と提言した。

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