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あの「鮒ずし味」はどうして生まれた?--カルビー・野原氏が明かす“ご当地ポテチ”誕生秘話 - (page 2)

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地域との共創にこだわった、マーケティング戦略

 野原氏の話を受けて、壇上ではモデレータを務めたCNET Japan副編集長の藤井涼と、PR TIMESの大久保氏を交えたパネルディスカッションが行われた。このプロジェクトではどのような苦労や困難、そして各地域からの反響があったのだろうか。

——マーケティングに広報視点を入れることは大事なことですが、実際には苦労する企業も多い。このプロジェクトが成功した要因はどこにあるのでしょうか。

野原氏 : ポイントは4つあると考えています。1つ目は、商品企画の段階から広報担当が参画できたこと。商品が世の中に出た際に、どのくらいの熱量で消費者に受け取ってもらえるかをマーケティング担当者と考えながら商品を考えられたことです。

 2つ目は、それにより社内をどのように巻き込むかも考えることができました。社内報などを通じて社内アンバサダー制度を実施することを呼びかけ、部門に関係なく各都道府県のアンバサダーを作りました。これによって、社内の多くの人をプロジェクトに巻き込むことができました。

 3つ目は各都道府県知事への表敬訪問に、本社幹部だけでなく地域事業本部長も参加してもらったことです。これにより、地域の営業担当者にも東京の本社だけが推進しているプロジェクトではなく、地域主体で実施しているプロジェクトであるという“自分ごと化”をしてもらうことができ、より多くの人を巻き込むことができました。

 そして、最後のポイントはこのプロジェクトを単年展開ではなく2020年までの長期プロジェクトとして立ち上げた点です。ただご当地ポテトチップスを開発・販売するだけでなく、その先の展開という“余白”を残した状態でプロジェクトを開始した点が成功に繋がったのではないでしょうか。


パネルディスカッションの様子

——47都道府県すべてを巻き込むという点では、各地域の温度感も異なる場合もあり難しい面もあったのではないでしょうか。

野原氏 : ここでは言えないエピソードはたくさんありますね(笑)。もちろん、地域によって温度差はあり、いろいろと勉強させてもらいました。ただもちろん、各都道府県の皆さんはまず第一にそこに暮らす人々のことを考えていらっしゃるわけです。その方向性に合わせるためには何をすれば良いのかを考えながらプロジェクトを推進しましたね。

 ちなみに、販売した商品のパッケージ裏面の4分の1は白紙にして、各都道府県のPRやお知らせを掲載できる場として提供しました。ご協力いただいた各都道府県にとっては、商品の流通を通じて地元消費者に広告ができるようにしたのです。こちらにとってだけでなく、各都道府県にとっても、普段は行政広報が届かない消費者に対するコミュニケーションを“共創”できる場になるように工夫しました。

——第1弾として販売された商品の中では、「鮒ずし味」(滋賀県)がネット上で大きな話題になりました。この商品が生まれた経緯などについて教えてください。

野原氏 : 実は、滋賀県のポテトチップスを開発するにあたっては、鮒ずし味と近江牛味という2つの有力候補があったのです。当初、私たちは近江牛味で商品化するだろうと予想していました。鮒ずし味は、社内の関西人にヒアリングしたところ独特の匂いのイメージが強く「食べたことはないが食べたくない味ナンバーワン」だったのです。広く誰からも愛される味を提供したいというカルビーの理念と真逆を行く、“絶対に出さない味”でした。

 しかし、いざ試作をしてみると、とても美味しい鮒ずし味が実現してしまい、加えて滋賀県庁のなかで「近江牛味にしたら“滋賀県庁が(鮒ずしから)逃げた”と思われるのは悔しい。私たちは腹を括る」という意見が生まれ、その熱い思いから鮒ずし味の商品化が決まりました。ただ、そこから社内は「この味では売れない」「売りたくない」という意見が噴出しましたね(笑)。その結果、販売当初は全く売れませんでしたが、鮒ずし味の美味しさを信じて、鮒ずしを愛する県民の熱量を信じて地元で発表会を行った結果、多くのメディアに取り上げられ、結果的に多くの反響が生まれたことで取扱店舗が増えて売れ行きが反転しました。現在では、販売中の全商品の中で1番人気になっています。


鮒ずし味の売れ行きが反転し「全商品の中で1番人気になっている」と野原氏

“ポテチショック”から改めて感じた「顧客」の多様性

——2017年は天候不良によるポテチショックが大きな話題となり、業界や消費者にもネガティブなイメージが広がったと思います。こうした世の中の空気をポジティブに転換するために、今回の施策で工夫した点はありますか。

野原氏 : ポテチショックでは店頭に商品を提供できないということで、本当にひどい状態でした。営業担当者をはじめ、社内は非常に疲弊した状態だったのです。ただ、その中で私たちが気がついたのは、ご迷惑をお掛けしている状況でもこれだけ多くの人が、私たちの商品を待ってくれているということです。

 そこから、私たちは広報・マーケティングの視点で2つのことを考えました。これまで私たちは、商品が売れるためのコミュニケーションを中心に考えてきましたが、実は私たちにとってお客様というのは消費者だけではありません。顧客、取引先、従業員とその家族、コミュニティ(生産者)、そして株主。さまざまな立場のお客様に届くコミュニケーションを進めなければなりません。商品を購入する消費者は同時に株主かもしれないし、農家の方かもしれないわけです。ひとつの側面から情報を提供するのではなく、じゃがいもの生産現場を取り巻く環境についても、お菓子のトップ企業として発信していく必要性を改めて感じました。

 また、発信する情報をさまざまな観点で検証した際に、その情報が本当に適切かをしっかりと考えるようになりました。たとえば、日本では馬鈴薯(ばれいしょ)というじゃがいもは、枯渇した際に一時期だけ輸入できる時期があります。ただ、それをアピールすると商品を安定供給できることで株主は喜びますが、国内で馬鈴薯を生産している農家の方はどう感じるか。そうした受け手の心理に配慮して、大事なメッセージは社長がしっかりと発信したり、手書きのメッセージで農家に誠意を伝えたりするように工夫しました。

——広報とマーケティングの部門連携では、どのような点に工夫したのでしょうか。また、両部門に共通のKPIはどのように設定したのでしょうか。

野原氏 :KPIはもちろん売上に設定しました。細かく分解するとソーシャルでの拡散や広告効果なども指標にはなりますが、消費者に熱量を求める中でそうした短期的な指標を設定してしまうと、おそらくプロジェクトの方向性がずれてしまうのではないかと感じていました。短期的なKPIにこだわりすぎると、もっと遠くにある大きなKPI=つまり消費者の熱量に目をむけなくなってしまいます。もし短期的なKPIを追求していたら、想定の1.5倍という売上は実現しなかったのではないでしょうか。

 もともと社内では部門の壁を超えて社員同士の仲がよく、コミュニケーションが生まれやすいという文化がありました。ですので、連携を密にして売上の可能性をどうすれば広げられるかを考えていきました。社内ではミーティングを極力しないという文化が根付いており、何か相談したいことはすぐに担当者同士でコミュニケーションするという風土ができています。抱えている課題については、各担当者単位で部門を超えてコミュニケーションすることでブレイクスルーできると思います。

——最後に、広報担当者として最も大切にしていることを教えてください。

野原氏 :いま一番大事にしているのは、社内広報です。社内をどれだけ巻き込めるかはマーケティングにとって非常に重要で、社内を巻き込めない施策で社外(コミュニティや消費者)を巻き込むことはできません。(コミュニケーション施策を成功させるためには)まず社内の熱量を高めていくことを徹底的に考えたほうが、実は近道なのではないかと考えています。

 たとえば、社内で商品の認知度や施策の認知度を調査したことはあるでしょうか。実は、自分が関わっていない商品や施策には関心がないという社員は少なくありません。でも、商品や施策に興味をもってもらい「いいね、頑張って欲しい」と思ってもらえれば、より施策は活性化しますし、社員のモチベーションにもなる。実は、従業員というのは非常に強力なメディアなのです。従業員に共感した商品や施策をさまざまな手段で世の中に発信してもらったほうが、より高い熱量を生み出すことになります。まずは従業員に商品や施策を“自分ごと化”してもらう状況をどうしたら作ることができるか、どうすれば従業員がシェアしたくなるストーリーを持つことができるかを考えることが、とても重要だと思います。

SNSが情報流通の主役になる時代、消費者の熱量を生み出すためのコミュニケーション要素「DEVELLOP」


「消費者の中に熱量を生み出し、高めることが重要」とPR TIMESの大久保氏

 一方、PR TIMESの大久保氏は、こうしたカルビーのプロジェクトに代表されるコミュニケーションを創出するために必要なポイントとして、消費者の中に熱量を生み出し、高めることの重要性を強調。特に、現在はソーシャルメディアが情報流通の大きな原動力になっていることから、「コミュニケーションはメディアを通じて人に届くだけではなく、ダイレクトに人々の日常生活の中に入っていく傾向が顕著になっている。その中でいかに人の感情を熱くできるかが大切」と語った。

 その上で大久保氏は、ダイバーシティ(多様性)、エモーショナル(感情に訴える)、ビジュアル(画像や動画)、エンパシー(共感)、リンク(社会との繋がり)、ロイヤリティ(ブランドへの愛情)、オリジナリティ(独自性)、パーソナライズ(自分ごと化)の頭文字をとった「DEVELLOP(デベロップ)」という、同社が提唱するコミュニケーションに必要な要素を紹介。


PR TIMESが提唱する「DEVELLOP」と呼ばれるコミュニケーション要素

 カルビーのプロジェクトについては、「ポテチショックが生み出したネガティブなムードをチャンスに変えた。地域との共創や生産現場というコミュニティとのつながりを、“商品を売る”という枠組みを超えて、会社としてしっかりとコミュニケーションしていた点が、プロジェクトの成功に繋がったのではないか」と評価した。

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