VRが医療にもたらすもの--Health 2.0デモセッション - (page 2)

 各社のデモンストレーションの後は、それぞれがVR医療プロダクトに取り組み始めたきっかけ、今後の展望を聞いた。杉本氏は外科医として手術をしていたのだが「手術や医療には暗黙知、職人技が多い。これを定量化するためにはどうしたらよいか」と検討し、まず画像の定量化から始めたという。「レントゲン画像をベテランも若手も同じように見られれば、それぞれがどう判断し、どう治療したかという経緯も残せる」と杉本氏。最近では手術の動きなども3次元的に記録し、ベテランと若手の比較、あるいは同じ人の技量がどれくらい上達したかを3次元的に解析するということもしているという。

 「すべて数値化されて評価できるので、それをディープラーニングなどで解析することで、何が効率的か、何がその人に適しているかが分かってくる。きっかけは暗黙知をなくすところだったのだが、VRという入口を経て、ディープラーニング、マシンラーニングがより医療に浸透していく契機になるのではないかと感じている」(杉本氏)

 Jespersen氏は「デンマークでは有名なヘルスケアの施設で、脳損傷のために肩・腕に障害を抱える人のためにプロジェクトを始めたのが、最初のプロダクトにつながっている。われわれはリハビリテーションを楽しく、エキサイティングで、そして正確に行えることを目指した」という。

 「ヘルスケア関連のプロダクトは、人にとって“冷たい”ものが多いと私は思う。リハビリの体験は、患者にとって温かいものであってほしい。VRを取り入れたのは、デンマークに限らず離れたところでも、ソフトウェアを通じて多くの人に同時にリーチすることができ、助けることができるから。人生のミッションとして、VRテクノロジで多くの人を助けたいと考えている」(Jespersen氏)

 Jespersen氏は今後の展開について「よりよいユーザー体験を構築していくために、よいコンテンツをソフトウェアファーストで、実際のハードウェアやテクノロジにフォーカスして開発していく。ハードウェアの発達は早く、小型化も進んでいるのでそのうちセットアップも不要になるのでは。5年ぐらいで、モバイルフォンだけで動くリハビリツールとしてのコンテンツが提供でき、いいユーザー体験が提供できるのではないかと考えている」と話している。

 Jespersen氏と同じく、リハビリテーションのためのプロダクトを開発する原氏は、心筋梗塞を専門とする医師。「心筋梗塞の患者は脳梗塞もよく起こす。そこで運動リハビリテーションが必要になるのだが、理学療法士のスキルによって、かなり改善のスピードや改善度が変わってくる。杉本氏の話にもあったが、職人技でやっているところが大きかったので、治療を標準化することができれば人的資源をほとんどかけずに、きちんとした治療を提供できると考えた。そして標準化に必要な技術として、3Dで運動の目標位置を提示する技術と、3D空間をトラッキング技術が備わっているバーチャルリアリティに行き着いた」とVR医療に取り組み始めたきっかけについて、原氏は語った。

 「初めは目標を定量的に表示するだけでよいと考えていたのだが、実際に使っていくと認知機能を刺激する効果も高いことを多くの神経内科の医師に指摘された。認知機能を刺激しながら運動をする二重課題型のリハビリテーションが最もリハビリ効果が高い、と言われていることから、ARやMRではなく(没入感の高い)VRを使った現在の形になっている」という原氏。今後は、治療機器としての認定を受けるための安全性試験を進め、1年半後には正式なリリースを目指すという。

 また原氏は「このプロダクトでは、継続してリハビリを行うことで、体幹コントロールの状態が維持されているか、改善されているかといったデータが取れる点が医学的に重要。今後、家庭用のVRゲーム機器などでも継続してリハビリが行えるようになっていくと考えており、家族だけでもリハビリができるよう、医療機関用モデルのほかに、消費者向けモデルの提供も検討している」とも話している。

 松村氏は心療内科医になる前には、一般企業に勤めていた。医師となって「薬があって良かった」「先生に会ってよかった」と言われるようになり、「治療によって、その人が本来持っている、治る力・癒える力を奪っているのではないか。患者本人が持つ、治る力を私なりの方法で引き出したい」と考えるようになったそうだ。そんな中、歯科医師と「実は小児の歯科治療は大変だ」という話をする機会があり、歯科VRプレパレーションの開発につながったという。

 松村氏によれば「実際に使ってみると、子どもの反応は劇的に変わる。治療中に子どもが泣きわめいたりするとどうしても、現状では(安全のために)押さえつけることをしなければならないのだが、それをしなくても治療することができるようになる。また子どもが歯科治療に対してポジティブな気持ちになり、保護者も安心してくれる。最近は子どもだけでなく、大人の方でもリラックスして歯科治療を受けたいというニーズがあり、5〜6カ所でテストを行っている」とのこと。

 「VRは没入感があり、治療で恐怖や不安のために萎縮してしまうところを、本来持つ治癒の力を十分に出してあげるためのツールとして使えるのではないかと思う。ゆくゆくは心療内科の治療に取り入れていくことを目指す」と松村氏は話している。歯科VRプレパレーションについては、パイロット版を2018年3月にリリース予定で、その後は、専門の心療内科で自律訓練法に応用できる製品を作っていきたいと語った。

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