日本的で“やりすぎる”から支持された--「グランツーリスモSPORT」山内一典氏に聞く - (page 2)

「僕はグランツーリスモを、日本的なタイトルだと思ってます」

インタビューに答える山内氏
インタビューに答える山内氏

--発売が近づいていますが、本作にかけた意気込みを教えてください。

 今回のグランツーリスモSPORTは、これまで20年間展開してきたグランツーリスモにおけるいいところをエッセンスとしてすべて取り入れています。なおかつスポーツモードの導入やHDRへの対応もそうですし、新しい写真の世界となるHDRフォトグラフィを取り入れたのもそうです。本作では車に限定していますが、仕組み自体は人物を配置して活用することもできます。このような新しいフィーチャーを足して、新世代におけるグランツーリスモの基本形が整ったのが本作です。

 僕らにとっては初代作を作ったときの気持ちで開発に取り組みましたし、これからの20年間を考えてデザインしなおしたのが本作です。グランツーリスモは、シリーズを重ねるごとにさまざまなトライアルをしてきました。そのなかでうまくいったものもあれば、そうでないものもありましたけど、本作は過去20年間の経験を振り返り、本質的に重要なことをきちんと統合しようという気持ちはありました。

--過去作に比べて制作体制に変化はあったのでしょうか。

 ビデオゲームの進化はすさまじいものがあります。PS1から2、3、4へと、ハードが変わると本当にガラッと変化するものですから、制作体制や手法が同じままであり続けることはないです。その都度作り方から見直して開発を進めています。

 グランツーリスモは常にやりすぎるタイトルで、ここまでで十分という境界がありません。それ以上のところまで実際にやってみるのが特徴だと考えていますので、事前の計算通りにはいかないタイトルなんです。ある程度やることを絞ると、その分未来を予想することはできますが、グランツーリスモは結果的に、いろんなことをやりすぎたからこそ、世界で8000万人の方が買っていただいているという背景もあります。だから僕らとしても手は抜けませんし、常に限界へ挑戦しているところがあります。

--車のモデル制作が1台につき6カ月というお話がありましたが、その制作期間は以前から変化しているのでしょうか。

 あまり変わってないです。「グランツーリスモ5」や「グランツーリスモ6」のときも6カ月ぐらいはかかりました。もちろん制作プロセスの効率化はしていますしツールも進化しているので、効率自体は上がっています。ですがその分、僕らが求めているクオリティのレベルも上がっているので、期間はなかなか短くならないですね。

 今後も車のモデル制作に関していえば、期間は短くはならないと考えます。自動化できるところはもうやっていて、本当に人間にしかできないところをやっている状態ですから。また、グランツーリスモの車両モデルは、数あるレースゲームのなかでおそらく唯一の内製で、外注はしていません。それがグランツーリスモのクオリティを支えている要因ですし、守らなくてはいけない基準だと考えています。

 今回の車両モデルは、シリーズでいくと4世代目です。現行のモデルは向こう10年ぐらいは十分に使えるものとして作っていますから、1000台、2000台という規模までは今の仕様で作るものだと思います。そして実際に10年が経過したとして、そのクオリティが自分たちのやりたいことに対して十分でないと判断したならば、きっとまたイチから作り直すと思います。

--オブジェとなる観覧車など、見えないようなところにまでこだわる理由を教えてください。

 見えないわけではなく「見えるときもある」というのがポイントです。観覧車は遠くにありますから、そこにあるボルトのひとつひとつまでは見えそうにないですけど、ボルトによってできる凹凸は、最終的にノーマルマップという立体情報を含んだテクスチャに変換されるんです。例えば観覧車に太陽の光が入ったとき、ボルトの頭にキラッと光が入る瞬間があるんです。そういうテクスチャを作るためには、ちゃんとした立体のモデルがないと作れませんので。

--細部までこだわって、終わりの見えないような戦いのように思える開発のモチベーションの維持や心持についてお聞かせください。

 僕はグランツーリスモを、日本的なタイトルだと思ってます。根底にあるのはユーザーをもてなしたい、驚いてほしい気持ちなんです。やりすぎというぐらいに必要以上のことまでやってしまうのは、日本的な感性だと僕は考えています。これだけコストをかけたら、これだけゲインがないといけないというような取引の感覚ではないんです。オーバーアチーブをすることと、それを提供し、そこからコミュニケーションが始まるという考え方は、古き良き日本的な感覚かもしれません。

--今回の収録車両はスポーツカーが多いように思いますが、その理由を教えてください。

 初期段階でスポーツカーを多く収録したのは、FIAグランツーリスモチャンピオンシップを開催するために、すべてのカテゴリのレースカーを一通り用意する必要があったからです。もちろんグランツーリスモの本質はレーシングカーだけではありません。古いクラシックカーから、みなさんが乗っているようなファミリーカーまで含めて、グランツーリスモとして大切な車です。なので、ダウンロードコンテンツとして随時追加配信していきます。

--タイトルを重ねるにつれて、ユーザーが動かせる部分が増えてきて、自由度が上がっているように思います。

 もともとグランツーリスモはシンプルな作りなんです。車の自身の美しさ、車の運転の楽しさ、車に光が当たったときの光の美しさですね。車、ドライビング、光という3つの要素でおおむね成り立っているんです。そのなかで最大限の自由度をユーザーに体験してほしいと思って作っています。本作については、僕らが考えているすべてではないですけど、ずいぶん実現しています。

--ゲーム中にお手本のような動画があり、今回プレイしてみたときにはナレーションが英語になっていましたが、日本語への対応はありますか。

 対応します。日本語版は女性の声になります。これまでもシリーズでは模範リプレイというものが入っていたのです。ただ、熟練したプレーヤーが横で見ていてアドバイスするとわかることでも、リプレイを漫然と見ているだけでは、何がポイントなのかがわからないことが多いと。とりわけレースゲームを初めて遊ぶ方や、車を初めて運転する方にとっては、大きな障壁でした。動画ではうまく走れるポイントを伝えます。

--本作では、必要とされているハードディスクの容量が60Gバイト以上と記載されています。ここまでのタイトルになると、Blu-ray Discの容量との戦いもあるように思いますが。

 本当にそうです。たとえばスケープスにおける写真は、HDRでRGB各32bitの情報を持っていて、しかも空間情報まで持っています。なので写真1枚あたりのデータ容量が数百Mバイトにもなるんです。発売日の時点では1000ロケーションほど用意しますが、全部ディスクに入らなかったので、必要に応じてダウンロードしていただく形式にさせていただきました。ディスク2枚組というのも技術的に不可能ではないと思いますが、今の時代ですと、1枚に納めて必要に応じてダウンロードしていただく形のほうがユーザーの利便性が高いように感じます。

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