同社では、これまでに約300台ほどe-kakashiを販売しており、導入事例も徐々に増えてきている。JA栗っこでは、まだデータの少ない「萌えみのり」という新たな米の品種の栽培データを集めるためにe-kakashiを導入。現場にいなければ得られなかった詳細な田畑の気象データを、スマートフォンからリアルタイムに確認できるようになり、必要に応じて効率的に現場に向かえるようになったという。
京都府の与謝野町役場では、e-kakashiを使ってベテランと若手の農家の田畑のデータを比較。それぞれの地温の差などから、なぜ熟練者は美味しい野菜を作れるのかを分析して数値化することで、新規就農者への技術継承や育成に役立てようとしている。
ITに不信感を持っている農家は少なくないが、e-kakashiはベテランの農家にほど受け入れられやすい傾向があると戸上氏は話す。「最初は若手の農家の皆さんが関心を持ちベテランの方たちは冷ややかな反応だが、実際にデータや解析レポートを持っていくと逆転現象が起きる。若手はそのレポートの意味を理解できないが、ベテランは『何でこんなに大事なことが分からないんだ』と、むしろ若手の方たちに説明をする。役場に補助金を付けてもらおうと掛け合ってくれる方までいる」(戸上氏)。
また、70万円を超えるe-kakashiの価格設定については、「そもそも事例が存在しなかったため、高いか安いかは判断しづらい。小規模な農家からは提案してもいらないと言われるが、逆に農業指導員からは『これだけのことを自分たちでやると(価格が)1~2桁変わってくるので安い』と言ってもらえている。小さな食堂で巨大な食洗器がいらないのと同じで、ターゲットによってニーズが異なる」(山口氏)と説明する。
プロの農家のみならず農業学校での活用事例も増えているという。北海道の士幌高等学校や、宮崎県立農業大学校ですでに導入されており、教科書の内容を教えるだけでなく、実際のデータに基づく、より裏付けのある指導が可能になっているという。
「現在、九州にあるほとんどの農業大学校で授業に使われている。農家が高齢化する中で大切なのは技術を継承して、次世代のリーダーを育てること。我々が生徒たちに向けて特別講義もしながら知識を共有している。栽培データを取ったり自動化したりすることに何の意味があるのかを根本的に知っていただき、そのうえで農業大学校や高校の学生さんたちが、日本にとってどれだけ重要な存在なのかを伝えている」(戸上氏)。
ある農業大学校では、2016年11月からe-kakashiを導入しており、土の根の近くなど、端末を設置する場所も生徒たち自身に考えさせている。設置から1カ月後にビニールハウス内でピーマンに「うどん粉病」が発生した際には、e-kakashiのデータを分析することで、土壌の水分量が少ないことが分かり、水を多めに与えることで病気を抑制できたという。
「生徒が本で学んだ植物生理学の知識と教師から教わった現場での知識は、これまでリンクしていなかった。それがデータによって、本に書いてある知識と現場の知識が結ばれて、体験的に学ぶことができた。これを全国の農業学校にも広げていきたいし、たとえば朝顔を育てている小学生などにも提供することで、小さいうちから興味を持ってもらいたい」(戸上氏)。
現在は、戸上氏などが導入者のもとを訪れて直接サービスの使い方を指導しているが、将来的には県や市町村にいる農業指導員や農業生産法人から、農家に対してレクチャーしてもらうといった広がりに期待しているという。また、海外展開も視野に入れており、すでにコロンビアの研究管理者チームによる運用検証が始まっているそうだ。
山口氏は、「私たちはクルマでいえばカーナビ屋。今後はカーナビもクルマと連携して、道案内だけでなく高速道路など一部では(ドライバーに代わり)自動運転をするようになるかもしれない。同じように、効果的なところはe-kakashiが自動化できるように進化させたい」と語り、今後はデータの取得だけでなく、農業の自動化なども支援したいと展望を話す。また、現在は自社で端末を手がけているが、ゆくゆくは農業IoTプラットフォームとして、多くの企業や農家に向けてe-kakashiの技術を展開したいとした。
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