今回の問題が問題視されるようになった当時、筆者は海外取材中で詳細を知らなかったのだが、今回の記事の執筆にあたって一連の経緯を見たときに、大きな疑問を感じた点がある。
それはQ-displayに関して、本当にUPQあるいはUPQを技術サポートする企業があるならば彼らも含め、製品開発のプロセスをきちんと踏んでいたのかという点だ。
ハードウェアスタートアップが、Q-displayのような製品を開発する手段はいくつかあるが、どのような手法を用いていたとしても、今回のようなミスが起こるとは思えないからだ。
UPQは「誤表記である」と主張している「60Hzを120Hzと表記していた」問題だが、確かに字面だけを見れば単なる誤表記だ。しかしながら、Q-displayはカタログにはパネルの倍速駆動を行った上で、映像には本来含まれない間のフレームを映像処理プロセッサで生成、挿入する機能があると書かれている。
なるほど1秒あたりの書換回数だけなら納得なのだが、本件は案内されている機能がゴッソリ抜け落ちているのだから、誤表記ではなく“あるべき機能が備わっていない”ことになる。
単純なスペックの確認ミス、転記ミスに関しても、生産パートナーに対する要求仕様に誤りがない限り間違いはないと思うが、仮に表示サイクルの数字が単純ミスだとしても、機能の有無を「誤表記」とするのは不自然と言わざるを得ない。
UPQのようなエレクトロニクス設計を自社では行っていないハードウェアスタートアップ企業が、Q-displayのような製品を扱う場合、その開発・調達方法はいくつかある。
もっとも深く関わるケースは各種設計を含めた技術部門を持つ生産パートナー、あるいは各種設計を行う力を持つデザインハウスと提携し、ターゲット仕様を決めるところから始めて製品を開発する方法だ。しかし、よほど多く販売する自信があるか、独自性の高い商品企画でない限りは割りに合わない。
一方、あまり大きな独自性を求めないのであれば、設計・生産パートナーが標準的な設計の製品……つまり、製品のベースとなるモデルを元に、要求仕様に合わせてカスタマイズすることもできる。Q-displayはおそらく、こちらの手法で製品開発を行っていると思われる。
カスタマイズの範囲はさまざまで、外観の金型を変えることもできれば、色だけを変更する、あるいはファームウェアを改変して独自の使い勝手にする、インターフェース仕様の一部を変えるなど、パートナーの提供するメニューやかけるコスト(手間)に応じて多種多様だ。
カスタマイズの範囲が狭くとも広くとも「開発を行う」ことに変わりはない。各種機能や性能が要求仕様に満たされているのか、そもそも要求仕様の中身に関してパートナーとの共通認識が得られているのかを確認しながら進められ、試作品を作って検証を行う。
要求する仕様や性能が達成できたかを確認した上で、問題ないと判断すれば”検収”となり出荷する製品として消費者に届けられる。もちろん、このときに最終目標を達成できない場合もあるだろう。その場合、ソフトウェアで更新できる場合はその旨を発表することになるだろうし、ハードウェア上の制約ならばお詫びとともに仕様変更と予約者への告知、カタログ表記の改訂などを行う。
このプロセスの中で「機能や性能が期待値よりも低くなってしまう可能性」はある。しかし、「機能そのものがどこかになくなる」ことはない。未確認のまま検収することはないからだ。今回の問題が「誤表記」と片付けられていることに対する違和感はここにある。
なお、Q-displayに関しては別の部分での疑問もある。製品はデフォルト設定のままではHDMI 2.0の18Gbpsモードではつながらず、10.2Gbpsのリンクとなる。このため4K解像度においては毎秒60フレームで表示する際、制約が発生する。色情報を完全な形ではやり取りできないのだ。これは18Gbpsで正常に接続できないケーブルが一定数存在する問題を回避するためだろうと想像できる。
ゲームユーザーなどが、RGBモードで完全な色情報で4K60P接続するには、接続を18Gbpsにしなければならないが、そもそもデフォルト設定で伝送速度が抑えられていること、伝送速度を切り替える方法などがマニュアルに記載されていない。
記載されていないことも問題だが、前述した検収作業に対する疑問も合わせて考えると、要求仕様通りに製品が機能しているのか、ユーザーインターフェースの実装も含めて確認しつつ作業を進めているのだろうかと疑問を感じざるを得ない。
Q-display 4K50取扱説明書(PDF)こうした疑問は、すべての消費者が感じているわけではないかもしれない。しかし、製品をどのように開発・検証して消費者に届けているかについては、今後の同社製品に対する信頼性に少なからず影響を及ぼす要素であろう。
少ない人数で生産パートナーやデザインハウスなどを活用し、多種多様な製品を生み出していくバイタリティは、小回りの利くハードウェアスタートアップならではの長所だ。
しかし、だからこそ生産パートナーとのコミュニケーションは密でなければならない。最終製品にブランドバッジを付け、販売し、消費者に対する責任を負うのはメーカーの責務だからだ。
なお、UPQによると製品の返品受付を行わなかった理由について「類似品がODMモデルを除いては市場に存在しないことから、返品・返金をしたとしても、代替品をお買い求め頂くことができない状況であるという点を考慮し、このような対応にした」と説明している。
確かに類似製品はない。しかし、消費者が類似する商品がほかにないからと導入したのだとしたら、やはり優良誤認の誘導と言われても致し方ないだろう。他社に類する製品がない点、すなわちQ-displayの独自性を評価して消費者が購入したにもかかわらず優良でなかったなら交換すべきではないだろうか。意中の機能が存在しなければ、そもそも購入しようという気持ちになっていなかった可能性もあるのだから。
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