ナビタイムが目指すAI活用の専属コンシェルジュサービス

 ナビタイムジャパンが2月21日にリリースした観光ガイドアプリ「鎌倉 NAVITIME Travel」では、クラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」の1サービス「Cognitive Serives」などにより、自然な対話でスポット検索できるチャットボットを実現している。すでにLINE上で、ボットとの対話を通じて乗換案内する機能も提供していることと合わせ、同社は急速にAIへの取り組みを深めつつあるようだ。今後どのような展開を見せていくのか、CNET Japan編集長の別井貴志がアプリ開発に携わったナビタイムジャパン メディア事業部 事業部長 毛塚大輔氏と、日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム統括本部 福地洋二郎氏に話を伺った。

――観光ガイドアプリ「鎌倉 NAVITIME Travel」がリリースされて約2カ月となりました。反響、状況はいかがですか。

ナビタイムジャパン メディア事業部 事業部長 毛塚大輔氏 ナビタイムジャパン メディア事業部 事業部長 毛塚大輔氏

毛塚氏:ダウンロードペースはだいたい予想通りでした。アプリは、思っていた以上にチャットボットの利用率が高く、ホーム画面にある観光情報の記事一覧の次にチャットボットが使われているようです。鶴岡八幡宮やカフェなど、実際に行きたいスポットを検索される方が多いですね。

――使ってみると、チャットボットのレスポンスがかなり速く感じました。

毛塚氏:常に改善を進めていて、だんだん速くなってきています。ユーザーからの要望に随時対応し、ユーザーの検索キーワードでどんな言葉が一致するか、しないかを見ながらチューニングしています。現在は問いかけてから1秒前後でレスポンスできるようになりました。

――LINEで提供している乗換案内のボットとの違いは?

「鎌倉 観光ガイド ~ NAVITIME Travel」のホーム画面。観光情報の記事一覧が表示される 「鎌倉 NAVITIME Travel」のホーム画面。観光情報の記事一覧が表示される
チャットボットの画面。キャラクターはおなじみのMr.NAVITIME チャットボットの画面。キャラクターはおなじみのMr.NAVITIME

毛塚氏:LINEのボットは乗換案内に特化していて、こちらはスポット検索に絞っているので、ベースとしてできることも違いますし、使われ方も違います。ユーザーの使い方としては、どちらかというとLINEのボットの方が、自由な言葉が入力される印象があります。

――すでに北海道、京都、沖縄の観光ガイド「NAVITIME Travel」アプリをリリースしていますが、なぜそれら既存のアプリからチャットボットを実装しなかったのでしょう。

毛塚氏:エリアとしてはどこからはじめても良いと思っていました。ただ、エリアの規模が大きすぎると入力される要素のパターンが膨大になってしまいそうでしたし、その分のデータを整備しないといけませんので、それらを考慮して、鎌倉エリアで挑戦することに決めました。

――チャットボットは、今後それらの既存アプリにも実装していくことになりますか。

毛塚氏:今あるエリアのアプリに対して横展開していく予定です。今はエリアごとにアプリを分けていますが、アプリの精度が全体的に上がってきましたら、全国版として展開することも検討しています。

――ホーム画面にある観光情報の記事はかなり充実していますが、これらの記事はどうやって掲載しているのでしょうか。

毛塚氏:社内に編集部があります。もともと「Plat(ぷらっと) by NAVITIME」というお出かけ情報を配信するウェブコンテンツの編集部があるのですが、そこが観光関連の記事も作っているんです。1つ1つの施設に許諾を取り、記事の編集や、現地に行って写真撮影しながら、記事にしています。

――自社でやっているんですね。エリアが増えて行くと編集部は大変かと思いますが、NAVITIME Travelのマネタイズはどのように考えていますか。

毛塚氏:今、NAVITIME Travelでは航空券+宿泊のダイナミックパッケージを販売しています。その旅行パッケージの販売につなげていくというのが1つです。その他、山梨県や広島県などといった自治体に対してはコンサルティングやアプリ開発など、随時行っています。

――NAVITIME Travelだけでなく、ナビゲーションアプリにもボットは広げていくことになるでしょうか。

毛塚氏:そうですね。ユーザーと対話して最適な案内などを自動で得られるようなサービスはニーズに合わせて広げていくと思います。「NAVITIME」や「NAVITIMEドライブサポーター」など、本流のサービスにもその機能を入れていくことも考えられると思います。現時点でそういうプランが具体的にあるわけではありませんが。

――2020年の東京オリンピックに絡んで、インバウンド向けのニーズは高まると思います。多言語化に関しては今後どのようにしていく予定ですか。

毛塚氏:日本に観光に来る方の主要言語は4種類と言われていますので、アプリでは現在の日本語、英語に加えて中国語の簡体・繁体字、韓国語に対応する予定です。

 自然言語処理の意図抽出のところでマイクロソフトの「LUIS」を利用していますが、LUISは中国語、韓国語にも対応していますので、チャットボットも日本語版・英語版と同じようなやり方で実現できるのではと思っています。

――インバウンド向けには、こういうアプリがあることをもっと認知してもらう必要があるかと思います。既存の北海道、京都、沖縄版のNAVITIME Travelは半数が海外ユーザーとのことですが、これを活かす施策は?

毛塚氏:海外の旅行会社、旅行代理店などと連携し、海外からの旅行者が旅行を予約した後のフォローをナビタイムができればと思っています。私たちナビタイムジャパンは日本の会社ですので、海外企業よりきめ細やかく日本の旅行を案内できます。海外の旅行会社などで予約した後に、NAVITIME Travelで観光情報や乗換検索など日本での案内にはナビタイムのナビゲーションを使っていただき、トータルで日本旅行を楽しんでいただけるという形にできればいいなと考えています。

――海外ユーザーがなぜ半数を占めるまでになったのか、改めてその背景として考えられるところを教えてください。

毛塚氏:北海道、京都、沖縄版のNAVITIME Travelは日本語のアプリなので、海外からの旅行者の方にすべての機能をお使いいただくのは難しいと思います。もしかすると、海外からの旅行者だけでなく、日本に住んでいる外国人の方にも使っていただいているのではないかと思います。2020年以降、日本に住む外国人が増えると思うので、現在はそこも視野に入れて開発しています。

――日本のユーザー向けには旅行ガイドブックを提供している大手が他にもあるわけですが、そのなかで観光ガイドのようなサービスを提供するのは勇気が必要だったんじゃないかと思います。

毛塚氏:ナビタイムの軸は経路探索ですので、弊社としてはユーザーが観光ガイドを見て行きたい場所に最適な巡り方をしていただくサポートをしたいと思っています。観光情報を提供し、旅行の計画をしっかり立て、時間通りにスムーズに回れるところまでをサポートするサービスは、弊社が提供する意味のあるサービスだと思っています。

――記事配信については、既存のメディアと組んで提供するという方法もあるように思いますが。

毛塚氏:ユーザーが旅行しようと思った時に、あるサイトで調べて計画を立て、予約する時は別のサイトで、移動する時はナビタイムと、いろんなものを使わずに、計画から移動までを一気通貫でできるようにすれば、ユーザビリティは上がると考えています。NAVITIME Travelという1つのアプリでそれを完結できれば、メリットがあるだろうと考えました。2018年3月までには、主要都市は一通りカバーしたいと考えています。

――ところで、チャットボットのエンジンになぜMicrosoft AzureのCognitive Servicesを選んだのでしょうか。

毛塚氏:色々なサービスを検討した結果、精度が高く開発しやすかったため選びました。これまで、例えば乗換検索で「表参道から品川まで」という文章を入れると、「表参道」と「品川」は変数として認識され、「から」と「まで」は認識されないというケースもありました。

 また、「品川駅の時刻表を見たい」や「品川駅」といった文章や文言も、同じように意図をうまく抽出できなくなってしまうケースもありました。選定するうちに、マイクロソフトから自然言語解析サービスのLUISがリリースされ、実際に利用してみると、短い文章でも意図の抽出がかなり正確でした。

 LUISでは意図の抽出と同時に、変数になっている部分のエンティティ抽出もできます。一度に意図とエンティティという2つの要素を抽出できるのはメリットだと思います。1日に何度も学習を試すなどといった作業もいらないので、Cognitive Servicesは使いやすいと感じました。また、すでに利用していたMicrosoft Bot Frameworkとの連携がしやすいのもメリットでした。

――自然言語処理というと、どうしても日本語対応が後回しにされるようなイメージがあります。Cognitive Servicesの日本語への対応はいかがでしょうか。

日本マイクロソフト株式会社 デベロッパー エバンジェリズム統括本部 福地 洋二郎氏 日本マイクロソフト株式会社 デベロッパー エバンジェリズム統括本部 福地 洋二郎氏

福地氏:日本は世界のマーケットのなかでも大きな市場ですので、開発のプライオリティは高いんです。ただ一方で、英語や欧州の言語に比べて、日本やアジアの言語は自然言語処理が難しいところがあります。ですので、リリースの時期としては英語などからは遅れてしまいがちです。でも、非常に高いプライオリティで開発しています。

――地名などの固有表現の抽出については、現在は自社開発のアルゴリズムを使っているとのことですが、いずれマイクロソフトのLUISに変わっていくことになるのでしょうか。

毛塚氏:現時点で、弊社のような乗換や固有名詞の抽出に特化した仕組みは他になかなかないと思います。マイクロソフトのサービスと、私たちの提供する乗換やナビゲーションに特化した仕組みを組み合わせることで、より精度の高い認識を実現できればと考えています。もちろん、最適なものが今後マイクロソフトから発表されればぜひ活用したいと思います。

――今後、ナビタイムジャパンとマイクロソフトは、どのようにパートナーシップを強化していきますか。あるいはこれからどういうところに期待しますか。

毛塚氏:今回の「NAVITIME Travel」はAzure環境となりますが、今後他のサービスのクラウド移行という点で、ご協力いただけるところはあるのかなと考えています。

 ビジネス的な面で言うと、今回私たちがこういった対話型インターフェースで観光情報を検索できる機能を実現したので、一緒にやりたいという自治体や企業がいらっしゃると思っています。そういったところでマイクロソフト様と一緒に提案できればと考えています。Cognitive Servicesの利用料金は、担当者レベルでは割安と感じる部分があります。ボットやLUISはまだプレビューバージョンですので、正式版になって、より安定したサービスを提供していただけると、私たちの事業もさらに拡大していけるのではないでしょうか。

福地氏:まずマイクロソフトは昔から、人がコンピュータを意識せずともその価値や恩恵、サービスを受けられるようにするべく、ジェスチャー、言葉、画像解析をはじめとする「ナチュラルユーザーインターフェース」をずっと研究してきています。それが体系化されて、一般のサービスベンダーに活用されるようにしたのがCognitive Servicesです。そんなCognitive Servicesを利用している多数の企業のなかで、ナビタイムはすでに多くのユーザーを抱えていて、ネームバリューもあり、スキルの高い開発者が多いのです。そういう意味で、Cognitive ServicesやLUISの非常に良い事例になると捉えています。

 今はNAVITIME TravelやLINEのトーク上でのチャットボットだけで活用していただいていますが、ボットに限らずさまざまなインターフェースでCognitive Servicesが使えると思いますので、そういったところでもメリットのある提案ができればと考えています。1サービスにおける付き合いではなく、会社対会社でお付き合いさせていただき、ビジネスパートナーやテクノロジーパトナーのような気持ちでお手伝いしつつ、先進的な技術をいち早く採用していただきながら、ビジネス展開も一緒にやっていきたいですね。

――最後に、将来的にNAVITIME Travelはどんなサービスになっていくでしょう。

毛塚氏:今はボットにユーザーが話しかける(文章を入力する)ところからスタートしていますが、すぐ横にボットがいるようなイメージで、ユーザーが何の操作をしなくても案内してくれる専属コンシェルジュのようなサービスを目指したいですね。

――それを実現するには、テクノロジー面では何が課題ですか。

毛塚氏:チャットUIでボットと対話するだけでなく、音声認識や画像認識などの、どのようなAIを選択あるいは組み合わせていくか、ということもありますが、本質的には、いかにユーザーのパーソナライズを行っていくかが課題になると考えます。ユーザーの過去から現在、未来までの行動をきめ細かく把握し、ユーザーがボットに話かけなくても、欲しい情報を自然に提供するできるかが重要なポイントになるでしょう。

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