では、コグニティブコンピューティングによって社会はどのように変わってきているのか。的場氏は、IBMの「ワトソン」を例に、コグニティブコンピューティングの“振る舞い”を解説した。
まず紹介したのは、米国のSTAPLESという文房具販売チェーンが提供している「Easyボタン」の事例だ。これは、ユーザーがボタンを押した後に欲しいアイテムを話すと、商品名などを指定しなくても過去の文具の利用履歴から欲しい商品を推定して届けてくれるというサービス。注文の手間を大幅に省き、取引のスピードアップに成功した。先ほどのコグニティブの目的に照らすと、新しい取引形態の実現し、より良いサービスを生み出し、ビジネスのプロセスを改善した事例だと言える。
「Easyボタンは、押されたときの会話を洞察して顧客に関するさまざまなことを発見して意思疎通し、得られた理解をもとに“この顧客にはこの商品で良いはずだ”という意思決定をしている。『発見』『意思疎通』『意思決定』というコグニティブコンピューティングの3つの意思決定を実現している」(的場氏)。
一方、専門知識の活用支援と人の能力を高めて探索や発見を早める目的のもとコグニティブコンピューティングを活用しているのが、東京大学医科学研究所だ。ここでは、ワトソンに2000万件の医学論文を学習させることで、専門医でも診断が難しいと言われる難病の診断にワトソンを活用している。具体的には患者の検査データなどをもとにワトソンに検索させたところ、学習した医学論文の中から考えられる病名と有効な治療法をわずか10分で探し出してきたというのだ。
また、米国のアウトドアファッションブランド「THE NORTH FACE」は、ウェブサイトに表示される「どこに行くのか」「いつ行くのか」といった簡単な質問に答えると、行先の気候条件などに応じたアウターなどの商品をレコメンドする、バーチャル接客コンテンツを展開している。
ワトソンにはショップ店員が聞くあらゆる質問を学習しており、ニーズを発見して意思疎通を図りながら、顧客が求める商品を導き出す。的場氏は「単なる事例としてみるのではなく、これによって何が変わっていくのかを理解してほしい。コグニティブはまだ“はじまりのはじまり”の段階だが、すでにこれだけのインパクトをビジネスに与えている」としている。
では、すでに生まれているビジネスのインパクトを私たちはどのように捉えるべきなのか。的場氏はワトソンの事例から学ぶべきことを挙げた。
まずは、データの価値だ。米IBMのCEOであるバージニア・ロメッティ氏は、2014年に「データは偉大で新しい天然資源だ」と語っており、21世紀はデータが資源として活用される時代になる。ただし、データはそのままでは活用できず、それを利用可能な知識や情報にするためにはトレーニングをするプロセス=コグニティブコンピューティングが必要になる。
次に重要なのは、企業の利益ではなく社会課題の解決、社会への貢献を第一にイノベーションを考える「Social Benefit First」という考え方だ。的場氏は「国連は世界の経済社会が抱える問題を17項目挙げている。一方で、実は日本は課題先進国とも言われ、ファミリー層の崩壊や労働人口の減少、労働生産性の低迷など、世界で最も早く社会構造の問題に直面している。CICに参加している企業の経営者も、この3つの課題は特に重要視している」と説明した。
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