若き日本人が生んだ米国トップシェアの福利厚生「AnyPerk」--創業者・福山太郎氏の挑戦 - (page 2)

あえて米国で「福利厚生」を選んだ理由

 「どうせやるならメジャーリーグ。当然、日本の方が成功する確率は高いが、やるからには最短距離を目指したかった」――。福山氏はあえて日本ではなく米国での起業を選んだ理由をこのように語る。

 同氏が、このような考えを持つようになったきっかけは、高校生の時に1年間、米国へ留学したことだ。当時、クラスメイトからいじめを受けていたそうだが、テレビに映し出されるプロ野球選手イチローの姿に熱狂するクラスメイトたちを見て、「実力があれば人種は関係ない」と感じ、自身も米国で挑戦したいと考えるようになったという。

 では、なぜ「福利厚生」だったのか。同氏がその理由として挙げたのが米国での転職率の高さだ。日本と違いリストラも多い米国ではキャリアアップのための転職が当たり前。特にニューヨークやサンフランシスコでは2年に1度転職する人も少なくない。企業からすると、その人材を育成するためにさまざまな投資をして、いざ戦力として活躍してもらいたいタイミングで辞められてしまうことになる。そのため、転職を防ぐために少しでも従業員の満足度を上げたいと考えるだろう。

 実際、GoogleやFacebookなどは、自社内で食事を無料で提供したり、ジムやクリーニング、美容院などの施設も提供したりして従業員の満足度を高めている。しかし、当然ながらすべての企業が幅広い福利厚生を提供できるわけではない。そこで福山氏が目を付けたのが「福利厚生のアウトソーシング」だった。日本では、バブル崩壊にともない企業の保養所が姿を消す代わりに、ベネフィット・ワンなどの福利厚生事業者が登場したが、米国ではこうした動きはなく、マーケットも存在しなかったと福山氏は参入当時を振り返る。

 サービスを立ち上げてから1年間は、さまざまな企業の人事担当者に頼み込み、無料で導入してもらうなど、泥臭い営業活動をしながらユーザー企業を増やしていったという。ただし、「米国では『とりあえず使ってみる』という考えがある」ため、福利厚生という領域ながら立ち上がりは早かったと福山氏。また参入当時は、BetterWorksという競合サービスもあったが、ローカル(地元)の福利厚生にフォーカスしていたため、規模が拡大せず2012年に撤退。一方、AnyPerkは全国チェーンのパートナーと組むことで事業を拡大したという。

2017年は「Rewards」が成長のカギ

 約5年前に創業したAnyPerkだが、現在も同社ほどの規模のサービスは生まれておらず、「マーケットでの認知度は米国イチ」(福山氏)。今後、GoogleやFacebookなどの“巨人”が参入する可能性もあるが、同社が築き上げてきた850社というパートナーシップ数には、新規参入でそう簡単に追いつけるものではないと同氏は見ている。

AnyPerkのスタッフ。日本人は創業者の福山氏のみ
AnyPerkのスタッフ。日本人は創業者の福山氏のみ

 「米国内で『employee happiness(従業員の幸せ)』という言葉が流行りだしてきたように感じる。いままでは、いくら採用に力とお金をかけても、2年ですぐに辞めてしまっていた。従業員の満足度を測ることが難しいため、どうしても後手後手になりがちだが、社員が長く残ってくれないと結局採用しても意味がないことにやっとマーケットが気づき始めた」(福山氏)。

 福利厚生のイメージが強いAnyPerkだが、2017年は社員表彰プログラムであるRewardsをいかに伸ばせるかがさらなる成長のカギを握ると福山氏は話す。また、将来的には、より幅広い分野で“従業員の幸せ”を実現するために、ウェルネスやチームビルディングなど、事業を横展開していきたいとしている。

 当面は米国市場に集中するが、世界展開も視野に入れているという。現時点で、自社サービスをそのままグローバル展開するのか、各国のプレーヤーと手を組むのかは全くの未定とのことだが、日本の大手福利厚生サービス事業者であるベネフィット・ワンやリログループなどとの協業の可能性も検討するため、いずれはコンタクトを取りたいと語っていた。

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