「食物廃棄」や「途上国支援」に立ち向かう女性起業家たち--なぜ“ビジネス”で社会活動をするのか - (page 2)

途上国に必要なのは物資よりも雇用

 続いて紹介するJanah氏は、SamasourceとLXMIの2社を創業したシリアル社会起業家だ。両親はインドからの移民、決して裕福ではない少女時代だったようで、10代からベビーシッターや家庭教師をしていたという。ハーバード大ではアフリカ開発について学び、2005年に卒業。その後、ルワンダやセネガルなどのアフリカ諸国を自分の足で歩いて回り、世界銀行向けに白書を共著するなどした。

 その時にJanah氏が途上国の人から聞いたのは、「無料の食料や衣類は嬉しいが、自分たちが最も必要なのは仕事」という声だ。いつかは尽きてしまう物資よりも、雇用の方が長期的な発展に役立つ。仕事があれば、必要なものを購入するようになり、地元の経済発展にもつながる。

 「雇用を作る社会起業をしたいと思うようになったが、何をすれば良いのかわからなかった」(Janah氏)。そんな時、Thomas Friedman氏の「World is flat」(邦題:フラット化する世界)を知り、途上国もインターネットを活用して世界中とつながり、デジタル的にサービスを供給できると考えた。「人類が始まって以来初めて、ケニアのスラム街にいる人がニューヨークシティの企業のために仕事ができる。これは国際開発という点から見て非常に大きなこと」とJanah氏。

Sama GroupとLXMIの創業者兼CEO、Leila Janah氏
Sama GroupとLXMIの創業者兼CEO、Leila Janah氏

 これまでなら工場などの施設が必要だったかもしれない。だが、デジタル的に供給できるサービスならインターネットカフェがあればOKだ。そこで、「デジタルサプライチェーン」を利用して、低所得の人にプログラミングなどの仕事を提供することを目的にSAMAを創業した。手元にあったのは、2種類のビジネスモデルコンテストで得た3万ドルだった。

 最初に組んだのは、ケニアでインターネットカフェを営む男性。4台のPCを持っていたが、平均所得が1日1.5ドルという環境で、対価を払える人がいない。そこで、Janah氏は男性に頼んでスラムから不遇な状況に置かれている若い人を探してもらい、男性のネットカフェで働いてもらうことにした。「大丈夫だよ。80%は不遇な状況にあるから」というのが男性の答えだったという。そうして見つけた4人の若者に仕事をしてもらった。

 Janah氏は、2008年にSAMAを非営利の社会的企業として立ち上げ、その後Samasourceに名称を変えた。現在、雇用のSamasourceと教育のSamaschoolの2つのプログラムを提供する。利用企業はGoogle、Microsoft、Tripadvisor、Walmartなど多数ある。

 サンフランシスコとナイロビにオフィスを持ち、ケニア、ウガンダ、インド、ハイチなどの国の女性、若者を中心に8000人以上を雇用している。データ処理、非構造データの加工、音声サービスなどを揃える。「才能に地域の差はない」「アウトソースモデルのフェアトレード」とJanah氏は例える。2016年には、難民キャンプでのパイロットプログラムも実施した。「8年前にスタートして以来、累計で3万人以上の報酬を1日2ドルから8ドルにした」とJanah氏は胸を張る。

 Samasourceが非営利であるのに対し、もう一つの会社LXMIは途上国の支援を目的とした社会事業だ。きっかけは、ウガンダにあるSAMAセンター近くの都市グルをJanah氏が歩いているとき、ローカルマーケットでシアバターを発見したこと。実際に使ってみて良いと思ったため、「スキンケアでSAMAのようなことができないか」と考えた。グルは1980年代に勃発した内戦で大きく破壊された都市だ。

 Samasourceのボードメンバーに掛け合ったところ快く受け入れられ、少しの予算をもらった。プロダクトリサーチをしたところ、市場はありそうだという予想を得た。そして、非営利のSamasourceが所有権の一部を持つ営利企業を立ち上ることに。Samasourceも半数以上が女性だが、LXMIでは低所得の女性に仕事を与えること、オーガニックな原料のみを使うことをミッションに掲げた。

 それだけではない、「ラグジュアリーブランドとして売り込む」という、ユニークなアプローチをとる。「うまくいくかどうかわからない。でも、これまで誰も成し遂げていない挑戦」とJanah氏は目を輝かせる。スタートは悪くないようだ。すでにLXMIのスキンケア製品は、化粧品小売りチェーンのSephora、オンライン/TVショッピングQVC USAなどで購入できる。

なぜチャリティではなくビジネスとして社会活動をするのか?

 Dawson氏とJanah氏、ともに目標とするのは社会を良くすることだが、ビジネスであることにもこだわっている。「よく”寄付すればいいじゃない”と言われるが、チャリティのハートを持ってビジネスをする企業が存在したっていいと思っている」とDawson氏。「財務の世界からやってきて思うが、企業こそ社会を変えるべきだと思う。企業の半分が社会的変化を起こすために活動する世の中になれば、チャリティよりはるかに大きなインパクトを与えることができる」と続ける。

 Janah氏も、「他のベンダーよりも高いクオリティにこだわっている」と厳しい表情で語る。「社会的ミッションが第一であることに変わりないし、(社会的ミッションを)重視してくれる顧客もいる。だが、顧客にとっては我々の社会的ミッションは第一の目標ではない」と続ける。

 そこで、ある時からSamasourceのトップページを、社会的ミッションステートメントから”Samasourceはハイエンドのリソースを世界中の企業に提供します”と変えたという。その後、ある米国企業から「(Samasourceが)非営利だと知らなかった。クオリティが高いから使い続けている」というコメントをもらった時は、歓喜したという。

 2人の体験談の後、Dellの最高コンシューマー責任者(COO)であるKaren Quintos氏は、「さまざまな産業でディスラプションが起きている。これからの企業は、顧客や従業員に自社が存在する目的を明確に伝えることができなければ生き残れない。意思決定を下す時は、自社の目的を中心に据えて判断すべき」とコメントした。

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