顧客のライフタイムバリュー向上を最優先--三井住友カードのCX改革 - (page 2)

別井貴志 (編集部) 日沼諭史2016年12月05日 15時55分

――具体的にウェブサイトはどのように変えていったのでしょう。

  • サイト下段の頭文字を右に読んでいくと……

佐々木氏:大きなところでいうと、ごちゃごちゃしていたウェブサイトをシンプルにしました。細かいところでは、トップページ下部の5つのキャッチフレーズ頭文字に「お・も・て・な・し」という裏コンセプトを入れて、きちんとお客様をおもてなしするサイトに変わろうというメッセージ性をもたせる工夫も盛り込んでいます。

 システム的なところでは、Adobe Targetでお客様ごとに表示する情報をパーソナライズし、ログイン履歴が無いお客様なら新規ウェブ会員登録のご案内を、ログイン履歴が有るお客様であればそのお客様にとって最適なキャンペーンを表示し、キャンペーンもすでにエントリーしているのであれば別な情報を出すというように、お客様に見ていただく1番のキービジュアルをパーソナライズしてたというのが改革の1つです。

 また、データ重視の思想を活かしながら、2015年11月にウェブサイトをフルリニューアルしました。それによって新規のウェブ会員登録率(Vpass登録率)が3%アップした一方、直帰率は7%低下し、コンバージョンが20%向上したといった成果が得られました。加えて、NPS(ネットプロモータースコア)でお客様の評価を取ったところ、NPS推奨度は、以前はマイナスだったのがプラス評価に変わり、数字的にも結果が出てきています。

――ウェブ以外の部分ではどのような変化が?

佐々木氏:従来、お客様1人に対して、1カ月間に最大で15通くらいメールを届けている状況でした。そういったコントロールをしていなかったこともあり、2012年からメール受け取りを可とするお客様の比率が低下し続けていました。企業中心的なメッセージ配信をしている限りお客様のCXの体験価値を上げられないだろうと確信しました。

 そこで、お客様の興味関心とわれわれの伝えたいことの合致する部分をきちんとやりましょうと。きちんとカスタマージャーニーを設計して、お客様にカードを持っていただき、繰り返し使っていただくようになるなかで、お客様が我が社とコミュニケーションするであろうイベントをすべて洗い出し、そのなかでCXに値するわれわれが提供できる施策提案を全社ベースで取り纏めました。結果、全部で500ほど、重複を除くと200~300の提案がありました。それらの施策の実現を可能にしたのがマーケティングオートメーションツールのSalesforce Marketing Cloudでした。データ抽出から自動化でき、お客様の行動に基づいてオートメーションでわれわれが設計したシナリオが動く、という機能が必要でまさにそこに頼ったわけです。

 会員事業でいえば、入会検討から申し込み、申込書の到着、初回カード利用、カード更新、退会まで、今まではその場面ごとでしか考えなかったのですが、そういった接点のなかでお客様にもっと寄り添えるやり方があると考えました。

 たとえば、更新カードが不着になり戻ってきてしまった場合、今までは何も伝えずに再送していたんです。その際、「不着で受け取らないと解約になってしまいます」という言い方をしていました。でもそうじゃなくて、不着になっているという事実を最適なチャネルを通じてお知らせし、当社として「ぜひ受け取ってください」という言葉と、「われわれとしてはお客様に継続して使っていただきたい」という当たり前のメッセージをお伝えようということになりました。

 当社のカードは、「半世紀に渡って培ってきた安心や信頼がある」というのがコーポレートブランドとして世の中に認めていただいているところでもあります。ただ、それはふわっとしたワードです。実は「こちらのカードの方がポイントつくからいいよね」とか、「年会費がタダだからこっちがいいよね」とか、目に見える実利のみで他社と比較されるとなかなか厳しい面があります。

 ではどうするべきかというと、お客様との接し方において競合より一歩上をいくことと、安心、安全、信頼をちゃんと実践して、カードを持ってて良かったという気持ちをお客様のなかで徐々に実感していただくことです。それを実践するには、様々な接点において顧客視点コミュニケーションを取ることが重要で、これを実践することが顧客のLTV向上につながることだと信じて、改革をデジタルの領域で進めています。

 こうした改革は、今のところ実施できている施策が16くらいです。200ほどのシナリオがあるうち、まだ1割くらいしかできていません。今年度に手数をできるだけ増やすことが、お客様とのつながりを深め、LTVを向上させるための施策だと考えています。社内でさまざまなことを可視化して、今やっていることがこういうことに活きているんです、ということを示すことで、更新カード不着の業務を担当している人も、どうすれば解約につながらないかが分かりますし、モチベーションも上がりつつあります。

――メールがコミュニケーションツールとして拒否されるようになったというお話がありました。では、今後どのようにコミュニケーションを取ろうとしていますか。SMSやウェブ、アプリなどがあるなかで、どれが求められつつある状況ですか。

佐々木氏:お客様はメールだけを接点に求めていません。お客様へのアプローチの方法は、メールもあればSMSもありますし、アプリ、ウェブもあります。お客様が望むコンタクトチャネル、接点はどこかに必ずあるわけで、お客様が望むチャネルをいかに把握するか、ということを今始めています。現在は、まだメールのチャネルがメインではあります。SMSはまだそれほど大きく活用はしていません。メールはプロモーションに向いていて、SMSはどちらかというとお客様に本当に伝えなければいけないことの通知に向いてます。たとえば、知らなかったらお客様にとってマイナスの体験になってしまう不着や支払い遅れなどのアクシデントについては、SMSで送るとお客様の反応が高く、開封率も高いんです。

 お支払いが遅れている方には、従来は一生懸命電話していましたが、つながらないことが多いです。携帯電話にかけても、今は知らない番号からの電話に出ない人が多いですから。しかしSMSで「ご案内したいことがあるのでこちらにお電話いただけませんか」ということをお伝えすると、従来はまったくコンタクトできなかった人たちの20%くらいは折り返しお電話をくれるんですよ。

 そういう意味で、SMSはこれから有効なチャネルになると思いますし、Apple Pay対応も含め決済がスマートフォンでできて、コミュニケーションも取れるようになれば、アプリもチャネルの1つとして大きくなります。プッシュ通知や、外部チャネルとしてはLINEなどもあります。お客様に圧倒的に支持されているチャネルが他にあれば、われわれとしてはそれをコミュニケーションチャネルの1つとして利用していく検討を進めます。

――Apple Payをはじめとした決済という分野でもいろいろなサービスが出てきていますし、競合との差別化をマーケティング視点で考えるとすごく難しい時代ですよね。それこそポイントが重視されていて、Apple Payもポイント付与キャンペーンで比較されてる面あるわけですが、競合他社との差別化をマーケティング視点で見たときに、競争する部分はどれだけいいプロモーションをするか、ということになるんでしょうか。

佐々木氏:商品やサービスにおいてはプロモーションも差別化のポイントと思っていますので、われわれがそこをまったくしないというわけではありませんし、プロダクトの質を上げること自体にも取り組んでいきます。ただ、比較されがちなポイントの付与率という意味では、他社より劣後する面もあるかと思います。

 でも、お客様とのコミュニケーションの取り方で、お客様のタイミングを捉えて、お客様をどれだけ理解できて、お客様が思ってもいなかった気付きをどれだけ与えられて、「使うんだったら三井住友カード」となるように、いかにコミュニケーションを再設計するかが重要だと考えてます。プロダクトのレベルも両輪で上げ、それをお客様が実感して最終的に当社との関係にロイヤルティを感じていただけるか。これを今後は当社の中で定点観測し、取り組みと収益との相関を繰り返し明らかにしていくことこそが、他社との差別化だと思っているのです。

 世の中の多くの人にそれを感じてもらえるか、(他社のポイント還元率などと)並べられた時にどうか、というところに対しての答えは……まだ、ないですね。従来から収益指標、獲得会員数、会員残高、解約率は追ってきているので、お客様がどういう気持ちになっているかをKPIに置いて、それが収益にきちんと寄与しているかを見ていこう、というのはあながち間違いじゃないかなと思ってます。

――最後に、来年度計画しているマーケティング活動を教えてください。

佐々木氏:まず1つが、ウェブとコールセンターの融合です。現状、ウェブとコールセンターがそれぞれの世界でCXを実現しようとしているんですが、1人のお客様に対してバラバラなCXをやっていても意味がありません。たとえば、コールセンターに電話する直前のお客様の行動を見ると、ウェブサイトを見ていることが多いのです。ウェブではわからないから電話してくるわけですね。つまり、この時点でマイナス体験を提供してしまっています。また、当社ではリボ払いを「マイ・ペイすリボ」という商品名にしていますが、お客様はマイ・ペイすリボという言葉を知らず、「自動でリボ払いになる方法」という言葉で検索するので、QとAがマッチングしないんです。

 まだまだそういう齟齬があるのです。ウェブでお客様が知りたい情報がきちんとウェブに掲載されているようにコンテンツのカバー率を上げ、コールセンターは有人ならではの心のこもったワンランク上の対応をしていくことが重要でしょう。そのなかに、新しい技術としてウェブチャットを提供するなど、One to Oneで接客できるチャネルを成立させられればと考えてます。

 もう1つは、スマートフォン中心のコミュニケーション設計をしていくことです。アクセスデバイスの比率から見ても、PCユーザーは少なくなってきています。スマートフォンネイティブ世代の台頭もあり、商品もサービスもコミュニケーションも決済も、これからはすべてスマートフォン中心に設計していくべきと考えています。生活と密接な関係にある「決済事業者」として、より深くお客様と結びつくために、スマートフォンの世界の中で、お客様の生活圏全体に入っていく、というのが来年度やろうとしていることです。

CNET Japan CMO Award受賞
三井住友カードのネットビジネス事業部長である佐々木丈也氏は「第4回CNET Japan CMO Awardを受賞。12月7日開催の「CNET Japan Conference 2016」で表彰式が開催され、パネルディスカッションにも登壇する。

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