この手のサービスを実現しようとした場合に、大きく分けて3つ課題があると思っています。1つ目が、自動運転で安全に走れるのかという技術面について。これについては、何年後かという読みは人によって違うのですが、確実に前に進んでいきますと。
2つ目が、法制度や規制にまつわる問題です。当然ながら、道路交通法などは自動運転なんて考えられていない時に作られた法律なので、何かしら改正をする必要はありますよね。
ただ、1年前と比べると、政府の温度感がかなり変わってきていると感じます。米国ではグーグルなどが自動運転の実用化に向けてどんどん動いていることもあり、日本の成長戦略において、やはり自動車産業などで遅れをとってはいけないということで、2015年11月に安倍首相が、2020年の東京オリンピックの時には自動運転車をバンバン走らせるとお話されました。
首相自らが「変えるんだ」という考えを表明していただいていますので、1年前は政治家や役所の人と話すと、8割くらいの人が「2020年なんて無理だよ」と言っていましたが、いまでは逆に8割くらいの人から、「2020年に向けて実現させないといけない」と言っていただいています。ですので、法制度の面でいくとかなり見通しが明るくなったと思います。
3つ目は社会受容性です。やはり生活者や各産業に携わっている方からも、便利だから必要だねと思ってもらえるようなサービスにしていかないと、なかなか実現できないですし、定着していきません。いろいろな方と対話しながら、日本の商習慣も含めて、ちゃんと納得していただける形に落とし込む必要があると思っています。
すごく象徴的だなと思ったのが、グーグルの「AlphaGo(アルファ碁)」が、プロのトップ棋士を破ったことです。実は、私も1年以上前から囲碁をやっておりまして、プロの棋士やインストラクターの方とお話する機会があります。そこで、よく人工知能がプロに勝つのはいつごろになると思いますかという話をするのですが、みんな口を揃えて「まず10年はないね」と答えていました。
なぜだろうと考えてみると、これまでコンピューターの囲碁は徐々に強くなっていたんですね。連続的に変化しているので、プロの方たちからすると、あとどれくらい時間がかかるのかということが、自身の経験などからある程度予想できると。ただ、今回はディープラーニングを活用したことで、連続的じゃない変化が訪れました。
AIがプロ棋士を破ったこと自体はすごいと思いますが、僕はそれよりも囲碁の関係者がそこまで驚くんだ、全然想像していなかったことが起きると人はこういう反応をするんだというところに、面白さを感じました。そして、今回の囲碁の件と自動運転などがダブったんです。実現には10~20年かかるかもしれないと言われていることが、ディープラーニングによって、1~2年で非連続にグンと変わるような世界に賭けて、事業を進めた方が面白いんじゃないかと思ったのです。
われわれ自身も、以前からAIの技術者を雇っているのですが、技術の進歩が非常に早い中で、DeNA自体がもっと大きなインパクトを起こすためには、PFNという実績も実力もある世界トップクラスの会社と一緒にやったほうが、急速にいろいろなことができるのではないかと思ったのです。
われわれは、幅広い事業を展開していますが、根本はインターネットの仕組みを活用してサービスを作り、事業に生かす会社です。今後は、それに並ぶ両軸として、AIを活用してさまざまな事業に展開していきたいと思っています。幸いなことに、われわれのやっているゲームや自動車、ヘルスケアというのは、AIを使って何かをすることと非常に親和性が高いんじゃないかと思います。
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