東南アジアで手放せない「大気汚染指数チェックアプリ」--“煙害”は非常事態レベルに - (page 2)

人災なのになぜ解決できないのか? ヘイズを巡る外交問題

 ヘイズ問題が表面化したのは、なんと1960年代。ASEANでは煙害が特に厳しくなった1990年代から取り組みを始め、2002年には「越境煙害に関する協定(Agreement on Transboundary Haze Pollution)」を成立させたが、元凶のインドネシアだけが主権侵害への懸念から批准を先送りしたことで、その後も改善が見られないまま、2013年には深刻なヘイズに見舞われた。

 森林火災が相次いだ耕作地の多くは、シンガポールやマレーシアにも拠点を置いていたパルプ材やパーム油などを生産する世界的企業が借用している土地であることが判明。シンガポール議会は2014年8月、煙害の原因となる野焼きを実施したインドネシアで操業するシンガポール企業のほか、外国企業も取り締まることができる「越境ヘイズ汚染法(Transboundary Haze Pollution Act 2014)」を可決した。これを受け、同年9月にインドネシア議会もASEANの越境煙害に関する協定の批准法案をようやく可決するに至った。

 しかし、2015年、またも最大級のヘイズが繰り返されてしまった。マレーシアとシンガポールは今年に限らず救援の申し出をしてきたが受け入れられることはなかった。インドネシア政府は、今年のヘイズも国内で十分対応できる範囲として支援を受け入れずにきたが、9月になって本格化した煙害は収まるところを知らず、結局、10月に入って一転、シンガポール、ロシア、マレーシア、日本に支援を求めた。これに対し、日本はJICAを通じて消火剤を供与する形で支援に応じている。

 Jusuf Kallaインドネシア副大統領は、シンガポールとマレーシアからのヘイズに対する非難について2015年3月、「彼らは11カ月間インドネシアが提供するきれいな空気を享受していることに対しては感謝を示さず、1カ月間のヘイズに苦しんでいるといって憤慨している」と信じ難いコメントをしている。

 しかし、同氏による次の一言を聞いてもなお、インドネシアを一方的に非難することができるだろうか。「ある人にインドネシアは熱帯雨林を修復しなければならないと言われ、私は言い返しました。『ちょっと何を言っているのですか?私達の熱帯雨林を壊したのは一体誰ですか?』と」。

 一時は、専門家により2016年3月ごろまで続く可能性があると指摘されたヘイズだが、幸い11月に入り、マレーシアでは晴れ渡った青空が広がっている。青空が見えること、子どもたちが安心して学校に通い、外で遊ぶことができる環境がこんなにも貴重で、心身の健康に関わることであることを実感せずにはいられない。

 インドネシア側は、2018年までには毎年引き起こされてきたヘイズ被害を終息させることを約束したが、設備、資本も少なく代替手段を持たない個人や零細農園に、伝統的な焼き畑農業を完全にやめさせるのは容易ではない。ヘイズ対策への本格的な取り組みはまだまだこれからだ。

(編集協力:岡徳之)

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