図書館、特に公共図書館は、いま岐路に立たされています。
運営を民間に任せる「指定管理者制度」については、佐賀県武雄市、神奈川県海老名市などの図書館運営を受託したCCCのいわゆる「ツタヤ図書館」が、運営や選書の不手際で、大きな批判を浴びています。
他方、ネットの発達で、単純な、皮相的な「調べもの」に関していえば、図書館の社会的役割は縮小してきていることも否めません。ウェブ(WWW)自体が、莫大(ばくだい)な知識を蓄え、世界に広がる仮想図書館といってもいい存在である以上、ウェブの普及が、図書館の伝統的な役割の、少なくとも一部を奪いつつある(と見える)のも無理はありません。
電子書籍、電子図書館も、この「問い直し」に大きな影を落としています。国会図書館のような中央の組織が、全資料を電子化して全国、全世界に配信すれば、地域の公共図書館の役割は、電子媒体に関してだけいえば、なくなってしまうかもしれないからです。
「図書館とはなんなのか(なんであるべきなのか)」「図書館はどう変わるべきか」ということが、日本だけでなく世界中で問い返されており、いまだに確固たる「答え」が見えない中、日本の図書館は、手っ取り早く「実績」をあげたい政治家や官僚、起業家の、「おもちゃ」にされている感すらあります。
このような情勢の中で、出版界が図書館に対して、一種の「攻撃」をし始めているとすると、それは、日本の「読書」全体にとって、どんなことを意味するのでしょうか?
図書館の伝統的役割が問い直されている、とは言っても、変わらないものもあります。それは、「知らない本との出会い」を実現する(しかも無料で)機関である、とのことです。
この役割を広告料金に換算したら、どれほどの金額になるかわかりません。図書館をつぶせば、その分の負担は出版界に移動するだけです。生産年齢人口の減少が出版不況の主要因だとすれば、子どもたちに本の読み方を教える図書館の役割は、非常に重大なものになってきます。
「図書館悪玉論」をぶつ前に、考えるべきことは無数にあると筆者には思えてなりません。少なくとも単なる「印象論」で、本来「味方」である存在を切って捨てるのはやめてほしいと思います。
図書館の役割については、米国で先日、興味深いレポートが発表されました。 「岐路に立つ図書館:新しいサービス、地域への貢献」(Library at the crossroads: The Public is interested in new services and thinks libraries are important to communities)という報告書です。
次回はこの報告書の内容を検討しながら、電子書籍/電子図書館時代の図書館の役割についてさらに深めてみたいと思います。
林 智彦
朝日新聞社デジタル本部
1968年生まれ。1993年、朝日新聞社入社。
「週刊朝日」「論座」「朝日新書」編集部、書籍編集部などで記者・編集者として活動。この間、日本の出版社では初のウェブサイトの立ち上げや CD-ROMの製作などを経験する。
2009年からデジタル部門へ。2010年7月~2012年6月、電子書籍配信事業会社・ブックリスタ取締役。
現在は、ストリーミング型電子書籍「WEB新書」と、マイクロコンテンツ「朝日新聞デジタルSELECT」の編成・企画に携わる一方、日本電子出版協会(JEPA)、電子出版制作・流通協議会 (AEBS)などで講演活動を行う。
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