--IESHIL開始に至った経緯、業界の動向や課題は。
芳賀氏:問題の1つは、不動産会社ごとのサービスの立て付けの幅が非常に広いこと。特に「売却」の場合、たとえばA社に査定を出して3500万円だった物件が、B社では4000万円になったりします。
もちろん、そこは各社の営業力やプロモーションの仕方など、物件の魅力以外の要素で変わるものだとは思います。とはいえ消費者からすれば、いくつかの不動産会社から話を聞いた時に、500万円もの差があると不安になるものですよね。
そのように、物件自体の価値を決め方が各不動産会社のやり方に依存してしまっているので、消費者保護の観点からすると、基準になるものがあってもいいと思います。それがIESHILを立ち上げた1つのポイントです。
加えて、業界のサービスが非常に複雑。消費者側も情報を取得していかなければなりませんが、不動産は生活に密接に関わるものであり、素人目には判断が難しい商品です。また、その判断をするための情報の透明度も、JLLの調査(2014年版グローバル不動産透明度調査)によれば、日本は26位で、諸外国に比べて決して高くありません。
【編集部注】グローバル不動産透明度調査は、世界の不動産市場の定量的データとアンケート調査を対象項目ごとに検証、数値化した内容をまとめたもの。115件の検証要素は13の分野に分けられ、ウエイト付けされて、「パフォーマンス測定」「マーケットファンダメンタルズ」「上場法人のガバナンス」「規制と法制度」「取引プロセス」の5つのサブインデックスに分類される。発表は2年に1度。
芳賀氏:諸外国では、売り手と買い手の双方に専任者がつきます。1社ないしは1人で売り手と買い手をマッチングさせるのは「ポケットリスティング」といって、厳しく取り締まられています。一方、日本はそこに寛容で、売り手と買い手の双方から仲介手数料をもらえる構造になっています。
国によって条件が異なるので、一概によいか悪いかを判断するのは難しいですが、「より儲かるように」という業界側の力を受けて、消費者が損をするのは不公正な感じがしますよね。もう少し、消費者が情報をわかりやすく認識できるようになればと思っています。
そのほか、海外では、不動産仲介業は「士業」という位置づけで、免許がなければ仕事ができないもの。日本の場合は、事務所ごとに従業員の5人に1人以上の割合で宅地建物取引士がいればよいとされており、企業に属した、いわゆる「営業マン」が現場で仕事をしています。
国家資格がなければできない仕事には、さまざまなものがあります。不動産仲介業も、個人の人生を大きく左右する商品を取り扱う仕事なので、その重大さを考えれば、営業力などだけで成立してしまう世界はおかしいと、個人的に思います。
また、米国には「MLS(Multiple Listing Service)」、日本には「REINS(Real Estate Information Network System)」という仕組みがあります。MLSはとてもオープンで、誰でも自由に情報を閲覧でき、我々のようなメディア企業もその情報を自由に使って、顧客に情報をわかりやすく提供できたりします。一方、REINSは業者間の流通用の仕組みであるため、一般消費者は閲覧できません。その差がまず大きいと感じます。
国交省の方と話した時に、今後、REINSを拡充し、情報の網羅性を高めていくとうかがいました。ただ、それを一般消費者を含めて誰でも見られるようにするかという点では議論があるとのことで、情報の透明度が高まるには、まだ時間がかかりそうです。
--不動産仲介サービス開始後の戦略は。
芳賀氏:我々は他企業と、「競合」ではなく「共存」していきたい。不動産は古く歴史のある業界で、土地があって、そこに建物が建っていて、その売買にはローンなど金融が関わってきます。情報の透明度を高めようと我々だけが頑張っても、結局、そこに影響を与えることはできないでしょう。
まずはしっかり、商品の金額やサービス内容などに対する「リブセンスが考える透明度」を体現する組織やシステムを作って、そこに他社にも加わっていただきたい。そうして一緒に、透明度の高いサービスを提供していけたらと望んでいます。
IESHILを始めて、こういったサービスが消費者に求められていることを実感しました。ウェブサイトを訪れて価格をチェックするだけの「見て面白いもの」では終わらないようにしようと思っています。
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