5月の「NHK技研公開」では8Kが主役となり、その成果を見るとほとんど進展状況に差がないように思われがちですが、現実にはそこまで差がつまっているわけではありません。先ほども申し上げたとおり、2020年段階で8Kテレビが多くの家庭で普及していると考えるのは少々無理があります。むしろ、その時点における普及の主役は4Kテレビでしょう。
地上波については、数年は議論に上ることも難しいでしょう。いわばユニバーサルサービスである地上波を4K・8Kに変えていくのは、先のテレビ放送のデジタル化と同等の社会運動です。全国の放送局における送信用チャンネル確保、設備の更新、ほぼすべてと思われる視聴者のテレビ買い替えなど、あらゆる面において課題があり、今の時点では実現性は乏しいといわざるを得ません。
ハイビジョン同様、8Kをワールドワイドに展開していくためには、放送、ホームエンターテインメントだけでなく、どのように仲間作りをしていくかが成否の鍵を握っています。日本だけ、限られた放送事業者だけで、8Kに取り組んでいても機材を含めた制作コストが高留まりしてしまう恐れがあります。
放送に限らず、映画やVOD事業者はもとより、ネット関連ビジネスやサイネージ、大型映像を使うテーマパーク、博物館、美術館、医療分野、一覧性と高精細の両立が必須の設計現場や監視モニタなど、さまざまな用途と出口を用意することで活用シーンを増やしていく努力が求められるでしょう。
一方、映像コンテンツの制作力を考えれば放送局が抜きんでていることも事実であり、8K放送を世界的に広げるためには放送局がリードしていくべきとも考えています。
「東京オリンピック・パラリンピックでの4K・8K中継を多くの人が大型画面や家庭で楽しめる」という目標に向けて、関係事業者が連携してまい進するのは当然ですが、総務省やNexTV-F、放送局、家電メーカーなどが忘れてはならないのは、供給者側の論理になりすぎてはいけないということ。
テレビの見方、あり方が生活環境とともに変化していく中で、単純に「放送」という伝送路で「高画質・高精細」の映像を提供すれば、視聴者、消費者のニーズと合致していると考えるのは早計です。あくまで目指すべきは、4K・8Kのポテンシャルを活かし、魅力的な放送サービスをお届けすることです。
そして、かつてのブラウン管テレビが薄型テレビに代わり、デジタル化が一気に進んだのと同様、現在の液晶テレビをただ4K、8K化したものだけではなく、薄く壁に貼り付けられるようなテレビ、窓のように見える8Kディスプレイ、さらにタブレットが4K、8K化するなど、新しい用途を開拓していくことも必要なブレイクスルーだと思います。をそれらを念頭に置いた上で、次世代放送サービスの実現を目指す姿勢が問われると考えています。
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