4月7日、8日に開催された新経済連盟主催のグローバルカンファレンス『新経済サミット 2015」(NES2015)』。2日目にあたる8日、「世界を変える、グローバルリーダーの育成 未来の世界をリードする人材を育てる方法とは?」と題したセッションが行われた。
セッションは、新経済連盟幹事でトランスコスモス代表取締役会長兼CEOの船津康次氏がモデレーターを務め、インドネシア・バリ島にある「グリーンスクール」創設者のジョン・ハーディー氏とインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)代表理事の小林りん氏が登壇し、未来の世界をリードする人材教育の在り方について意見を交わした。
ジョン・ハーディー氏は、カナダ出身のジュエリーデザイナーで、世界一周航海中にバリ島に上陸し、1975年に自らのジュエリー・ブランド“JOHN HARDY”を立ち上げる。その後、名立たる高級百貨店やセレクトショップで取り扱われるブランドとなり、国際的なジュエリーカンパニーに成長させた。しかし、2007年に同社を退職、教育とデザインを通してより持続可能な世界を提唱しつくり上げる最初の大きなプロジェクトとして妻と創設したのが“グリーンスクール”だ。
ハーディー氏が同校を設立したのは「もっと何かしなければという意識が生まれた。そこで、地域に恩返しをと学校を建てた」とのこと。さらに「私は学校が大嫌いだった。学校では落第者で、学校なんてものを最も始めそうにない人だったと思う。小学生の時、ちゃんと丸を書けないので先生に鉛筆を取り上げられたりした。だから、学校は私にとって楽しい場所ではなく、学校を建てるなんていうのは夢のまた夢の話だった。でも、だからこそどんな子どもたちでも居心地がいい学校をつくりたかった。教壇の上から語られることよりも、何が起きたか、何を体験したか、何をしたかということが本当の教育。それを子どもたちに味わってほしい」と、グリーンスクールを開校した目的や思いを明かした。
一方、小林りん氏は高校時代をカナダの全寮制インターナショナルスクールで過ごし、東京大学経済学部を卒業後、2005年にスタンフォード大教育学部修士課程修了。前職では国連児童基金(ユニセフ)のプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在し、ストリートチルドレンの非公式教育に携わった職歴を持つ。現地でリーダーシップ教育の必要性を痛感したことから学校を設立するために2008年8月に帰国し、2014年9月にISAKを開校した。
小林氏は、ISAKが掲げるミッションは「日本だけではなく、アジア太平洋地域のために新しいチェンジメーカー、変革する人材を育てること」と話す。さらに、「自ら課題を発見し、多様な価値観の中で尊重しながら協業できること、困難を乗り越えて変革を起こす力や、身近な小さいところから自分でイノベーションを起こす体験をすること」と学校指針を紹介する。
ISAKでは、現在1期生として15カ国から49人が学んでいるという。また、50%以上の生徒に奨学金を給付している。小林氏はその目的を「“多様性”と言った時に国の数が多いというだけではない。社会的な文化の違い、すべての違いを受け入れてほしい」と話す。
小林氏が同校の設立を目指したのには、ユニセフの職員としてフィリピンでストリートチルドレンの非公式教育に携わったことが原体験になっていると話す。
「フィリピンの本当に貧困層の学校に行けない子どもたちに識字教育を行うのは、ものすごくやりがいがあった。例えば15人とかの大家族の中で1人でも読み書きそろばんができるようになると、タクシードライバーやレストランに就職ができるようになり、一家全員が食べていけるというような世界。それを手伝えるというのは喜びだった。ただ、フィリピンに初めて住んでみて貧困層と富裕層の圧倒的な格差と渦巻く汚職というのを目の当たりにしたとき、貧困層の教育はもちろんとても大事だが、貧困層教育だけをやっていて本当に社会は変わるんだろうか? いつかこうした格差のある世界は終わるんだろうか? と大きな疑問を持つようになった。そこで、貧困層教育も大事だが、変革を起こせるチェンジメーカーの教育が同時に必要なんじゃないかと思うようになり、この学校の設立に至った」と小林氏。
しかし、実際に学校を設立するにあたっては、制度面や教育者の確保など困難も多く、相当な時間もかかり、決して一筋縄ではいかなかったことは想像される。小林氏はそんな経緯を次のように振り返った。
「もともと2年ぐらいでできるかと思っていたが、結果として構想から7年もかかってしまった。その間、苦労はあまりにもたくさんあったが、大きなものとしては3つある。1つ目はやはり“許認可”の問題。7~8割が外国人の生徒で、9割の先生が外国人、9月入学、全部英語で教えている学校、しかも半分の学生が奨学金をもらっているという学校が日本の高等学校として認めてもらうようになるためにはいろんな許認可が必要で、これが非常に時間がかかった。そして2つ目が“土地探し”。1学年50人で3学年150人と小さな学校だが、全寮制の学校なので敷地が必要。土地探しに大変苦労した」という。
そして3つ目として挙げたのは、やはり“資金面”。「学校というのは新設の場合は借入はできないのですべて自前で賄うことが義務付けられている。膨大な金額の調達に非常に苦労した。先日、名刺数えてみたところ、5~6年の間に4500人に会って2500~3000人ぐらいは寄付のお願いに行った。このうち大口のご寄付をいただいたのは100人ぐらいで、2800人ぐらいからは断られている。でも、ブレイクスルーのきっかけになったのは“Small early success”と方向転換したこと。何十億円が必要だと言っていたときはまったく泣かず飛ばずだったが、窮地に追い込まれてサマースクールでもやってみようかなというかたちで始めてみたら、たくさんの方の目に留まって、その1期生のお母様が最初の寄付者になってくださり、そこからじわじわと広がっていった」と語った。
なお、建設費用は全額寄付により賄われたISAKだが、運営費用は基本的には学費が主体。しかし、2人に1人の生徒に対して奨学金を給付しているその原資は“ふるさと納税”によるものだという。「軽井沢町のふるさと納税のメニューにISAKの奨学金が入っている。2014年は1年間に1億8000万円が集まった。2015年は枠が2倍になるという話なので、もっと大きくなるなと期待している。すべて奨学金に使途が限定された基金なので、ぜひご協力をお願いしたい」と小林氏。
一方、ハーディ氏が明かした苦労は、彼ならではのユニークなものだ。
「まず教室をつくっているときに、壁があると空調設備がいるなと気付いたが、発電設備がなく、ファンしかなかった。でも、周りの教育者も建築家も壁をつくらなければと言う。私はせっかくだからそよ風が吹き抜けるような教室がいいと思ったので、その理由を訊ねると、子どものアートワークを飾る壁が必要だという。なるほどだから壁が必要なのかと納得した。現在、教室に壁はないけど、子どもたちのアートワークはちゃんと飾っている。そして2つ目は現地に記録的な大雨が降り、川の水位が上がって学校につくった22メートルにもおよぶ橋が全部流されてしまったこと。バリにもいろいろな迷信があって、これは地球温暖化の悪い兆候だとも言われたが、幸いにも理事がそうじゃない、もう一度橋をつくると言ってくれた」とハーディ氏。
ハーディ氏が考える、教育、人材育成は“体験”。さらに、「私が推進しているのも体験型教育。私自身もあまり多くの経験を経てきたわけではないが、ただ多くの人に出会い、いろんなことを発見することができた。そして体験することによって学んできた。必ずしも四角い教室の中の机の上で学ぶものではなく、自ら体験し、行動していくものではないかと思う。一方で、技術を教育に活用することも大切にしている。技術的にもインフラ的にも学校発でさまざまなコネクションがつながっており、スマホを使えば、いろいろな情報を学んでいける。さまざまな情報をもとに自ら模範を示していく、あるいは自分たちが模範となって先頭を切っていくというのが教育。もはや覚えなさいといって黒板にモノを書くだけではない」と続ける。
小林氏も「いろんなスキルとかテクニックとかあると思うが、自分のメンタリティがすごく大事だと思う」と述べ、自ら座右の銘としているフランスの哲学者・アランの「悲観は気分に属するけれども楽観は意志である」という格言を紹介し、未来の世界を率いる人材教育にも、失敗を恐れず自発的に行動を起こし、変革する意志を育むことが大切であることを強調した。
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