もう1つ、iPhone 6のデザインに感心したのは、NFCの搭載位置だ。
おサイフケータイに対応するスマートフォンや、NFCを搭載したAndroidスマートフォンのICチップのアイコン位置は、背面の中央にあることが多い。NFCリーダーにスマートフォンをかざすようにして読み取らせる使い方を前提にしているからだ。英語では「Tap」という言葉を使うことが多い。
しかしiPhone 6とiPhone 6 PlusのNFC搭載位置は、端末の最上部だった。なぜこの位置かは、NFCを活用した決済サービスApple Payの様子を見てもらえると、必然性が理解できる。
Apple Payを利用する際、NFCリーダにiPhone 6をかざすと、決済が行われるカードがディスプレイに表れ、指紋認証待機の状態になる。普段iPhoneを使うように下部握ったまま親指でTouch IDの認証を行い、決済が完了する。
もしも端末背面中央にNFCリーダが配置されていたら、iPhoneのディスプレイ側を手の平で隠すように握らなければならなくなる。すると画面に表示される決済カードと金額の情報は隠れて見えなくなり、また、NFCリーダにかざしたままTouch IDの認証を行うことも不可能だ。
そこでAppleは、iPhone 6の最上部にNFCリーダを配置し、「Tap」ではなく「Point」の感覚でリーダにかざし、普段持っている状態のまま画面を確認してTouch IDの認証を行えるようにしたのだ。NFCの位置の違いはちょっとしたことかもしれないが、5秒で決済が済ませられるか、持ち替えたりして15秒かかるか、では、大きな違いになる。
毎日、数億回行われるクレジットカードやデビットカードでの決済体験を変えようとしているAppleなら、デザインによって10秒の短縮できることは大きな意味を持つ。すなわち、数10億秒、およそ30年分の時間を毎日短縮することになるからだ。
改めて、Appleのデザインとユーザー体験を元にした思考のインパクトの大きさに驚かされる。
iPhone 6には、我々が日々利用する上での小さな改善をちりばめた、非常に巧妙なデザインが施されている。今回の新しいスマートフォンには、特にそのデザインの力を感じざるを得ない。これまでもAppleは、必ずしもスペックを追求する製品を送り出してきたわけではなかった。
しかしiPhone 6からは、特にその変化を大きく感じることができるのだ。
筆者は次の原稿で、Apple Watchに触れようと思っている。この腕時計型デバイスとも呼応しながら、Appleは、これまで同社の歴史を大きく決定づけてきたFlint Centerでのプレゼンテーションで、テクノロジーを包み込むデザインによる解決から、生活の中でのファッションや文化、そして習慣を作り出す、より根源的な領域へと、進もうとしている。
iPhone 6の出来は相当良い。表面で指を滑らせると、全く引っかかることのない滑らかさが物語っている。そして、限りなく薄い。もしもAppleがiPhone 6を超える製品を作るのなら、それは「不在のデザイン」かもしれない。さらに薄くなり続けていって、厚みが0mmになる、ということだ。
すなわち、iPhoneというモノが存在がなくてもiPhoneの役割を果たしてくれる、無の存在に到達すると、また次の世界が開けることになるだろう。
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