KDDIが売上、利益ともにNTTドコモに近づく一方で、NTTドコモを売上だけでなく、利益でも超えたと宣言しているのがソフトバンクである。同社は5月7日に2013年度(2014年3月期)の決算を発表し、営業収益は前年比108.2%増の6兆6666億5100万円、営業利益は前年比35.8%増の1兆853億6200万円と、それぞれ大幅増を達成したとしている。ソフトバンクの代表取締役社長である孫正義氏は、営業利益が1兆円を超えた企業は、国内ではNTTとトヨタ自動車、そしてソフトバンクだけだと胸を張った。
もっとも、同社が2013年にこれだけ売上や利益を急速に拡大したのは、買収によるところが大きい。ソフトバンクは2013年に、経営再建を果たしたウィルコムを子会社化したことに加え、米国の携帯電話事業者であるスプリントを買収。さらにスマートフォンゲームで好調なガンホー・オンライン・エンタテインメントやフィンランドのスーパーセルなど、大型の企業買収を相次いで実現させている。主力事業である国内携帯電話事業や、ヤフーなどのインターネット事業も伸びてはいるものの、利益1兆円の達成には買収による2500億円の一時益が大きく影響したことは間違いない。
それだけに2015年3月期、つまり2014年度は一時益を含まずに営業利益1兆円を達成できるかどうかが、大きな試金石となるだろう。だが孫氏は達成に「自信がある」としており、米国の携帯電話端末卸などを手掛けるブライトスターを買収したことによる押し上げ効果が期待できることから、営業収益は8兆円と1兆円の上方修正をするなど強気の姿勢を見せている。
他にも中国のアリババが米国市場へのIPOを控えるなど、好材料を多く見せるソフトバンク。だが主力事業である携帯電話事業の足元を見ると、今後に関しては厳しさも見えてくる。最も懸念されるのは、「カケホーダイ」などの料金プランや、VoLTE、LTE-Advancedなど、他社が先行してアピールしている技術やサービスに対し、明確な対抗手段を打ち出せていないことだ。
特に気になるのは、今春から実施すると見られていた、900MHz帯によるLTEサービスの展開だ。孫氏は決算発表の場で、帯域を空けるための交渉プロセスがまだ完了していないため夏になると公表しており、順調に進んでいない様子が見て取れる。ソフトバンクモバイルは900MHz帯を、2.1GHz帯とのキャリアアグリゲーションに用いると見られていることから、900MHz帯のLTEの遅れは、さまざまな面で大きな影響を与えるといえそうだ。
そうしたこともあってか、孫氏は「新商品発表会の役割は終わった」として、商戦期ごとの新商品やサービスの発表会を当面見送るとも話している。そうしたソフトバンクの姿からは、かつて他社に対して積極的に対抗策を打ち出し、勝ち抜こうとしていた姿勢が薄れている印象も受けてしまう。こうした姿勢がユーザーに伝わり、顧客流出につながる可能性もないとは言い切れないだろう。
そしてもう1つ、現在ソフトバンクが注力しているスプリントの事業に対しても、多くの懸念要素が見られる。米国で4位のTモバイルの買収が順調に進まない一方、そのTモバイルが契約数を順調に拡大していることから、逆にTモバイルが、不振が続く3位のスプリントを買収するのではないかという憶測も出てきている。
これについて孫氏は「スプリントは過去6年間、設備投資がほとんどできない状況だった。日本でもそうだったが、まずはネットワークをしっかり構築することが重要。その後に営業展開をした方がよいと考えている」と話しており、まずはスプリントの不満要素となっているネットワークの改善に全力を注ぐ考えを示している。
事業の急拡大により営業利益1兆円を実現した一方で、力を注いでいるスプリントの立て直しが順調に進まず、国内では他社に後れを取る部分が増えてきている。そうした主力事業の懸念を払拭して順調な成長を維持できるかどうか、孫氏をはじめとした経営陣の手腕が大きく問われるところだ。
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