テクノロジの進化とともに、多くの企業が優れたウェアラブル端末を世に送り出しているが、彼らの優れたアイデアを形にすることができるのは、製品に組み込まれる半導体の性能向上によるものだと言っても過言ではない。中でも、ノルウェーに本社を持つNordic Semiconductorは、超省電力ワイヤレスチップのトップメーカーで、大手企業からスタートアップに至るまで幅広い企業のウェアラブル端末が同社のチップを採用している。
市場拡大を支える半導体メーカーからウェアラブル端末の未来はどう映っているのか。同社の事業開発担当マネージャーのThomas Soderholm氏が「低電力ワイヤレスチップが変えるウェアラブルデバイス市場」と題したセッションで講演した。
Soderholm氏は、ウェアラブル端末の現状について「かつてはスポーツの活動量計に代表されるように“ポイントとポイント”でのワイヤレスデバイスだったが、現在はあらゆるセンサをつないだエコシステムを形成している」と指摘。スポーツやフィットネス、ヘルスケア、ライフスタイル、生産性といったあらゆるウェアラブル端末からのフィードバックを集約することができると語った。
また、このエコシステムを推進する重要なカギとなるのが、着けていることを忘れてしまうほど使用者にストレスを与えない“ユビキタス性”であり、スマートフォンやタブレットといったスマートデバイスがこれを実現したとSoderholm氏は語る。「スマートデバイスはアプリケーションによって自由に機能を追加し、ウェアラブル端末の可能性を広げることができるようになった」とSoderholm氏。
いつでもどこでも持ち歩き、常時電源を入れてクラウドとつながり、あらゆる目的で使用するパーソナルデバイスは今後もパソコンを凌ぐ勢いで出荷されていく見通しで、「今後はアクセサリー市場の成長も見込まれ、ウェアラブル端末はスマートフォンの能力を補い、実用性を高めてくれるだろう」と期待を寄せた。
Soderholm氏はウェアラブル端末に求められる要件として、「ユビキタス性」「低消費電力」「低コスト」「互換性」などを挙げ、中でも重要な要件は「ネットワーク性能」であると指摘した。スマートデバイスに対してデータを転送する手段としては既にさまざまな規格があるが、USBはワイヤレスではなく、NFCは通信範囲が狭すぎる。そしてWi-FiやBluetoothは消費電力が高くウェアラブル端末に採用するのには適切ではないと見る。
Soderholm氏は適切な通信規格として「Bluetooth Low Energy」に対応する機器を総称する「Bluetooth Smart」とGPS端末装置メーカーGarmin傘下、カナダのDynastream Innovationsの「ANT+」の2つを挙げた。両者とも消費電力を抑えており、ウェアラブル端末の通信に最適であるとし、さらにこの2つを同時にサポートする「コンボIC」というアーキテクチャを紹介した。
例えば、iPhone向けのウェアラブル端末を開発する場合を例にとると、iPhoneは1対1のデバイス接続をサポートする「Bluetooth Smart」のみを採用しており、マルチセンサの接続をするには「ANT+」を活用しなければならない。そこで、「Bluetooth Smart」「ANT+」のマルチICを搭載したスマートウォッチなどを“ハブ”として、複数のウェアラブル端末の情報を管理するエコシステムを構築し、ハブとなる端末からiPhoneに一元的にデータを転送するのだ。
Soderholm氏は「ウェアラブル端末のエコシステムは拡大しており、複数のデバイス、複数のセグメントの情報をつないだユビキタスな環境が実現している」と語り、その実現を支えたテクノロジとして、マルチICを搭載した同社の製品とハードとソフトの開発を支援するツールなどを紹介。ウェアラブル端末の心臓部ともいえる重要な半導体を開発するメーカーとして、今後のエコシステムの拡大を支えていきたいとした。
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