図解:ソーシャルメディア活用のありがちな失敗 - (page 4)

許 直人(ループス・コミュニケーションズ)2012年12月27日 08時00分

山田さんの戦略を分析する

 一見して言えることは、山田さんはオンライン・オフライン両方の施策を打っていますが、ファネルの奥の方(選定プロセス以降)ではオフラインの施策、対面営業に寄せています。また、オンラインの施策もLP(ランディングページ)からの問い合わせだけでなく、「資料ダウンロード」プロセスをかませて連絡先情報をいただき、電話でのフォローアップにつなげるという方法を取りました。

 いずれもBtoBビジネスではよくある方法だと思います。ソリューションが高価になり、検討期間が長くなるとこれだけでは足りないかもしれませんが、CMSという枯れた既存市場のリプレイス狙いであれば機能するでしょう。

 矢印の太さと付帯情報はファネルをつなぐ効率を判断する数字です。その中でも赤字で示した数値、すなわち「SEO」「FBページ/Twitter」「ブログ」からの数字は山田さんの期待を下回る成果となりました。

 検索からの流入が少なかったのは、CMSでSEOする競合がすでにたくさんいたからです。山田さんもこの点は理解していましたし、ある程度長期で改善しつつ、製品サイトを細く長いチャネルに育てようという展望は持っていたため、結果に関しては織り込み済みでした。

 ただ、「FBページ/Twitter」「ブログ」は、バズ・バイラルを中心とした広がりによってもう少し流入を得たかっただけに残念な気持ちです。ただ、こうして図にしてみると、自分の選択したFacebook/Twitter戦略が間違っていた理由がよくわかりました。

 山田さんは製品に対する「CA(Crate Awareness)」、つまり「認知向上」の役割をFBページ、公式Twitterアカウント、ブログに担わせていたのですが、だれもそれらの存在を知らなかったのです。要するに「宣伝のためのチャネルに宣伝が必要だった」と。

 これは、単純ながら本当によくある話です。新しいソリューションを開発し、販売計画を立てている方に「その製品のプロモーションはどうされるのですか?」と聞くと、予算が限られているケースほど、「ブログとソーシャルメディアです。Facebookページはもう立ち上げて、情報発信しています。」という回答が返ってきます。ただ、「そのFacebookページなり、ブログの存在を、顧客にどうやって知ってもらうのですか?」と聞くと半分くらいの方は明確な答えを用意できません。だいたいは「クチコミで…」「プレスリリースを仕込んでいるのでそれがバイラルして…」というような感じです。

 はっきり申し上げて、普通の新製品に関するプレスリリースがバイラルすることはほぼ100%ありません。あるとすれば、新製品ではなく、それにお墨付きをつけた会社なり、発表した組織のブランドによってクチコミが広がる、ということがほとんどだと思います。もしくは、きちんとした予算を割いて、それなりの仕込みをした場合でしょう。

 山田さんは、自社製品の営業戦略を次のように修正しました。

山田さんの戦略(修正版) 山田さんの戦略(修正版)
※クリックすると拡大画像が見られます

 いくら機能的に優れているとは言え、今さらみんながCMSについて噂するとは考えられませんでした。かと言って、製品のFacebookページやTwitter公式アカウントの認知獲得に予算をかける余裕はありません。そこで山田さんは、製品用だったソーシャルアカウントを廃止し、コーポレートの公式アカウントに切り替えました。そして会社の広報予算からほんのわずかですが予算を割いて、コーポレート公式のソーシャルアカウント認知獲得に対する認知の獲得予算に充てます。運用も情報発信の内容を製品情報から、会社の姿を知っていただくような内容に変更して再開しました。

 ブログは現状でもサポートブログとして機能していたためそのまま維持します。ソーシャルアカウントと連動させ、アカウントに届いた質問や改善要望をブログで詳細に説明したり、逆にブログの重要な発表をソーシャルアカウントで告知したりするなど、用途に応じて運用しています。

 その後半年を経て、ソーシャルアカウントのファン数はそれぞれ1500人程度になりました。多くは取引のある企業の社員と、その知人ですが、文脈を共有できているだけに山田さんの会社が発信する業界情報や製品情報などにも好意的に反応してくれます。わずかですがシェアしてくれる人も現れ、1カ月に1人くらいは噂を聞いた人から問い合わせがあるようになりました。

 以前はソーシャルアカウント運用が苦痛だった大学生のアルバイトも、自分のやっていることが事業の一部として機能することでモチベーションを取り戻したようです。現在はサポートの品質向上と顧客接点維持のため、運用改善に取り組んでいます。

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